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ルイビル大指揮官が語る今野紀花の1年目。「すごく誇りに思えるシーズンを過ごしている」

青木崇Basketball Writer
1年生の今野を即戦力として使ったウォルツコーチ (C)Takashi Aoki

 2018年の春、1本のハイライト・フィルムがルイビル大のジェフ・ウォルツコーチの元に届いた。聖和学園の3年生になったばかりの今野紀花のプレーを見た瞬間、すぐにリクルート(選手勧誘)しようと決意する。シーズンオフのリクルーティングで忙しい中、ウォルツコーチは1泊2日の強行スケジュールで来日すると、今野本人だけでなく両親ともじっくり話をすることで信頼関係の構築を試みた。

 2006年にメリーランド大のアシスタントコーチとしてNCAAトーナメント制覇を経験したウォルツは、2007年3月27日にルイビル大のヘッドコーチに就任。1年目から26勝10敗の好成績を残し、チーム史上初となるNCAAトーナメントのベスト16(スウィート16)に導くと、2009年と2013年に決勝まで勝ち上がるなど、13年間でルイビル大をNCAAディビジョン1でトップレベルの強豪校へ飛躍させている。

 そんな名将からの誘いに今野は以前、「本当にありがたいと思ったし、自分はまだ英語があまり喋れないけど、すごく話しかけてくれたり、通訳なしで喋ろうとしてくれたりという姿勢に安心感が出たし、すごくうれしかったです」と語っている。ウォルツコーチをシンプルに表現するならば、すごくポジティブな人という言葉がピッタリ。入学後もリクルートしていたころとまったく変わらないスタイルで接し、今野がフラストレーションから苦しんでいるとわかれば、練習の途中でも1対1で話をする機会を作ることで、事態を一緒に打開しようとすることがあったという。

 昨年夏にバンコクで行われたU19FIBA女子ワールドカップでアメリカ代表を率いていた時、ウォルツコーチは「彼女のプレーを見て私は勇気づけられた。1年生からチームに貢献できると思う」と話していた。ひざの故障で1月中旬に離脱するまで、今野が平均15.1分の出場時間を得ていたことは、その言葉に偽りがないことの証。2月27日のボストン・カレッジ戦当日の昼過ぎに行われたシュートアラウンド後、ウォルツコーチに単独インタビューをし、今野の1年目について振り返ってもらった。

バスケットボールとルイビルでの生活にうまく適応している

Q 1年生として過ごしている今野のシーズンをどのように評価していますか?

ジェフ・ウォルツ(以下JW) 自宅から7000マイル(約1万1200km)離れたまったく違う環境にやってきたことからすれば、すごく誇りに思えるシーズンを過ごしていると思う。妻と私が以前(日本を)訪問したことがあり、会う機会があったという点で我々は彼女が(ルイビルで)知っていた唯一の人物だった。昨年の夏に東京で彼女と、U19ワールドカップが行われたバンコクでは彼女の両親と一緒に話すことができてよかった。彼らがバンコクに来たことにはとても驚かされた。残念ながらケガでバスケットボールコートでのプレーをスローダウンさせることを強いられているが、大学生活といった社会的な部分で彼女は非常にうまく適応している。チームメイトからすごく好かれているし、彼女は素晴らしい仕事をしてくれた。彼女のほうからも日本の文化を教えるなど、全体的には本当に素晴らしいスタートを切れたと思う。

Q 今野はケガでプレーできない状況ですが、バスケットボールというゲームをあなたから学ぶことをすごく楽しんでいると話していました。

JW 彼女は本当に素晴らしい。すべての試合でベンチに座る際にノートパッドを持参し、何かあれば常にメモを取っている。彼女はゲームについてすごく勉強しているから、必要とされているケアをしっかり行い、プレーすることにOKが出て練習に戻ることができれば、いい選手になれるとわかっている。彼女の可能性には限界がないと思う。特別なバスケットボール選手になれるチャンスがある。

Q コミュニケーションのスキルについてはいかがですか?

JW すごくよくなっている。彼女が私をからかったりすることもよくある。彼女がプレーできていたころ、ある日の練習中に「“Reverse the ball(ボールをリバースしろ)”を日本語でどう言えばいいのか?」って聞いたら、そのまま「Reverse the ball」と返事をしてきたんだ。バスケットボール用語には(日本語と)同じものがたくさんある。私が早口で喋ることもあるから、時々スローダウンさせる必要もあるけど、本当によくやっているよ。ルイビルにやってきた8月の初日から比べて今の英語力は、私からしてみればすごく進歩していると思う。

競争心旺盛で負けず嫌いなところが指揮官にとっての新たな発見

Q オレゴン大戦とオハイオ・ステイト大戦は、今野にとってのベストゲームだったという印象を持っていますか?

JW 間違いない! オレゴン大戦での彼女は、当時ランキングNo.1だったチームを相手にファンタスティックだった。オハイオ・ステイト大戦もいいプレーをしていたと思う。今はケガから回復して健康になることが大事。だからこそ、彼女が100%の状態を取り戻すために、できる限りのことを確実に遂行しようとしている現状はとても前向きに捉えている。

Q この2試合は今野がハイレベルのNCAAディビジョン1でプレーできることを示したものですか?

JW 彼女がプレーできること自体はわかっていた。U19アメリカ代表が日本とスクリメージ(練習試合)をした時、最初のゲームで19点を奪ったから、彼女がここでプレーできるだけの能力を持っていることは理解していた。

Q バンコクでお話を伺った時にパスの能力を高く評価していましたが、ルイビルに来てから今野について何か新しいことを知る機会がありましたか?

JW 戦う姿勢だ。すごく競争心旺盛で、コンタクトを恐れないし、実際に受け入れている。彼女にはここで競い合えるだけの能力が十分にあるし、チームメイトとの1対1で勝つのが大好き。彼女には勝ちたいという強い気持がある。だから、私は彼女のことを本当に気に入っている。選手のプレーを(映像で)見ることだけで判断できるわけではない。彼女らと一緒に仕事をする機会を得て、スキルを磨くことでわかるものなんだ。

ルイビル大はウォルツコーチの下、通算4度目のNCAAファイナルフォー進出と全米の頂点を目指している (C)Takashi Aoki
ルイビル大はウォルツコーチの下、通算4度目のNCAAファイナルフォー進出と全米の頂点を目指している (C)Takashi Aoki

ひざの故障で長期欠場中の今はゲームを学ぶ絶好の機会

Q 1月中旬から2週間試合を休ませて、2月2日のアメリカ代表戦でプレーする機会を与えた理由は?

JW 彼女に休む機会を与えることで、ひざの状態が回復する助けになるかをチェックし、戦列に戻れるかを見ていた。アメリカ代表戦はNCAAの試合として数えられないから、彼女のコンディションを知るいい機会だった。試合中はいい感じと話していたけど、終わった後に同じような問題が起こってしまった。病院に行って(複数の)医師に診察してもらい、回復に向けたプランを立てた。この夏の早い時期に戻ることができればと思っている。

Q 頼れるベンチプレーヤーになっていましたが、ゲームで今野の不在を感じるところはありますか?

JW 彼女がプレーできないということと、得点能力だ。15〜18フィート(約4.5m〜5.5m)のジャンプショットは素晴らしいものがある。3Pシュートはレベルアップを目指しているところだけど、プルアップのジャンプショットはとても優れている。違うシュートに持ち込める能力があるし、パスはとても上手だ。彼女がプレーできないことによって、我々はこのようなことを欠いているし、選手層という点でも損失だ。

Q 今野は一生懸命にバスケットボールというゲームの勉強に取り組んでいます。今後にすごく役立つという見方をしていますか?

JW 彼女の存在は我々にとってプラスになる。ゲームを学びたいという強い意欲があることに、私はとてもワクワクしている。勉強している彼女がケガから復活して練習し、試合でプレーし始めたならば、(バスケットボールの知識や戦術が)今までの数歩遅れたところから抜け出し、チームメイトよりも優れている状態になれると私は信じている。

Q 試合には出ていない今野が、どんな形でチームに貢献すると思っていますか?

JW 彼女が試合中にやっているのは、コート上で何が起こっているかをチームメイトにしっかり伝えることだ。何がよくて、何をする必要があるかといったこと。彼女は自分ができることでベストを尽くしている。ただベンチに座っているだけというのではなく、コート上で何が起こっているのかをしっかり把握しようという姿勢は、すごく重要なことだと思っている。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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