Yahoo!ニュース

八村塁:NBA選手という夢を実現するための道のりは2014年夏に届いた一通のEメールから始まった…

青木崇Basketball Writer
U17FIBAワールドカップ以降大きく飛躍したことでNBA入りを実現させた八村(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 2019年6月20日、ワシントン・ウィザーズから1巡目9位で指名されたことにより、八村塁のNBA入りがついに現実となった。すでに多くの媒体からいろいろなストーリーが出てきている中、筆者が関わったエピソードを皆さんに紹介したいと思う。

 2014年8月12日、日本はアラブ首長国連邦のドバイで行われたU17FIBAワールドカップでアメリカに38対122で大敗した。しかし、現在ボストン・セルティックスに在籍するジェイソン・テイラムらを擁する相手に25点を奪った八村のプレーに、多くのスカウトが注目するようになる。それから48時間も経過しないうちに、フランスを拠点にNCAAのチームに向けたスカウティングのサービスをしているクリストフ・ネイから、八村の将来に関するメールを受信した。

アメリカ戦の2日後に届いたメール Photo by Takashi Aoki
アメリカ戦の2日後に届いたメール Photo by Takashi Aoki

 何か情報がほしいのであれば、知っている事実については話せるという返事を出してから約3週間が経過した9月6日、クリストフから2通目のメールが届いた。そこに書かれていたのは、元ゴールデンステイト・ウォリアーズの指揮官で当時ルイジアナ州立大(LSU)のアソシエイト・ヘッドコーチだったエリック・マッセルマン(現アーカンソー大ヘッドコーチ)と連絡を取っており、八村に興味を持っているということ。このメールを読んだ直後、クリストフにはコーチにまず連絡を入れる必要があると返答した。

佐藤コーチに連絡を入れるきっかけとなったLSUが興味を持っていると記されたメール Photo by Takashi Aoki
佐藤コーチに連絡を入れるきっかけとなったLSUが興味を持っていると記されたメール Photo by Takashi Aoki

 明成高の佐藤久夫コーチに連絡を入れた際、LSUがどんな大学かをわかってもらうために、現役時代に4度NBA制覇を成し遂げたビッグセンター、シャキール・オニールの母校が興味を持っている話をすると、3日後にメールアドレスは構わないという連絡をもらった。しかし、英語でのやりとりになることを理由に、アメリカの大学に留学していた経歴を持つ高橋陽介トレーナーが八村のリクルーティングを担当することになる。

 クリストフにメールアドレスを教えた後、高橋トレーナーの元にディビジョン1の大学だけでも20校以上から勧誘のメールが届く。その中から八村は、家族とワシントン州スポケーンにあるキャンパスを訪問したゴンザガ大に進学することを決断。2015年12月6日に進学内定の記者会見を開く約3週間前、アシスタントコーチのトミー・ロイドが沖縄の米軍基地で試合を行った翌日、仙台まで足を運んでウィンターカップ宮城県予選の決勝を観戦していたのは、ゴンザガ大がどのチームよりも八村を入学させたいという熱意の象徴と言えるものだった。

 2016年春に明成高を卒業して渡米した八村は、言葉の壁、バスケットボールと勉強の両立で苦労する日々に直面。それでも弱音を吐くことも辛さから逃げることもなく、ハードワークの継続でレベルアップし続けたことによって、ウィザーズから1巡目9位で指名されるという成果を手にしたのだ。指名直後のテレビインタビューで「クレージーだよ。現実とは思えない。家族にとっても日本にとっても大きな意味がある」と笑顔で話した瞬間を見て、筆者は5年前のことを改めて思い出したと同時に、このエピソードを表に出す絶好のタイミングだと感じた。

 ライターというメディアの立場にいるが、長年の取材で築き上げたネットワークを活かして、微力ながら選手の助けになれればという思いをずっと持ち続けている。それは今後も変わらない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事