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千葉ジェッツが困った時に頼れる男。ジョシュ・ダンカンは違いをもたらすことのできるクールな選手

青木崇Basketball Writer
どんな局面でも冷静に自分の持ち味を発揮できるのがダンカンの強み(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 Bリーグ1年目のチャンピオンシップ。栃木ブレックスとクォーターファイナルを戦った千葉ジェッツは、王手をかけられて迎えたゲーム2で最大22点のリードを奪った。しかし、栃木の粘り強さに我慢し切れずに逆転され、試合終盤にヒルトン・アームストロングとタイラー・ストーンがコート上で口論という事態も発生。メンタルタフネスという部分では頂点に立てるレベルになかったことを露呈し、千葉の弱点と言われるきっかけにもなった。

 天皇杯2連覇、B1でもファイナルに進んだ昨季は、我慢強さの部分で着実に進化。そして、今季の千葉はチームとして我慢強さがレベルアップしたことに加え、落ち着きをもたらす存在が加わったことも、再びB1ファイナルの舞台に戻ってきた一因と言っていい。落ち着きをもたらす存在とは、今季の新戦力であるジョシュ・ダンカンだ。

 アグレッシブさが特徴のギャビン・エドワーズ、読みと直感が持ち味のマイケル・パーカーは、千葉の武器であるトランジション・オフェンスで相手を圧倒する際の存在感が強烈。しかし、リズムが悪くなった時やハーフコートの展開が続く状況になると、ポストプレーからの得点やチームメイトへのクリエイトができるダンカンは、ベンチから出てくるバックアップ役とはいえ、すごく頼り甲斐のある選手になれるのだ。

 栃木とのセミファイナル、ダンカンは2試合とも4Qの10分間でフル出場。特にゲーム2では残り2分にオフェンシブ・リバウンドを奪った後にファウルをもらってのフリースロー、遠藤祐亮に3Pシュートを決められた直後のオフェンスでジャンパーを決めるなど、18点中10点を4Qで稼いでいた。エドワーズとパーカーが感情を表に出して熱くなりやすいのに対し、ダンカンは常にポーカーフェイスで冷静にプレーし続けられるタイプの選手だ。

「一番安心するというか、ギャビンもたまにベンチからして意図してないことをやりだしたりするので、そういった時にしっかりチームとしてやるべきことを彼は示してくれたところで、あたふたしたリズムを落ち着かせてくれたかなと思っています」という大野篤史コーチの言葉は、ダンカンが2試合とも4Qにフル出場した理由を示すもの。チームの大黒柱で司令塔の富樫勇樹も、ダンカンは違いをもたらす選手として信頼している。

「彼はベンチから出てきて、あの安定感を毎試合プレーで示してくれるので、すごくチームの中で信頼があります。彼が出てきた時は、彼のポストアップ中心にチームとしてやろうという考えがあるので、毎試合その期待というか、チームとしてボールを預けて、必ず結果を残してくれるので、本当にすごいなと思います。正直ギャビンと正反対じゃないですけど…、一直線に行くギャビンと違うプレーヤーとして2人の選手がいるというのは、すごく守りにくいと思います。ポイントガードとして、彼が出ている時間はそこを(攻めの)中心にするようにしています」

 49試合出場したレギュラーシーズン、チャンピオンシップ(CS)の4試合を通じて、ダンカンのプレーが千葉に安定感をもたらしたのは間違いない。2月3日にアウェイで栃木に大敗した試合で2点に終わったのを最後に、レギュラーシーズン最後の19試合中14試合でFG成功率が50%以上。CSでは3Pが8本中2本成功と当たらなかったといえ、ディフェンスの厳しさが増す中での47.5%、平均22分6秒の出場時間で13.5点、7リバウンドという数字は、チームへの貢献度が高いことの証明。栃木のセミファイナル後、ダンカンは次のようなコメントを残している。

「このようなビッグゲームでは、いい時間帯と悪い時間帯があるもの。相手に連続得点を許すこともあったが、我々はチームとしてメンタル面で落ち着きを失わなかった。我々が望む方向に進まないことがあったとしても試合は40分間あるのだから、時計がゼロになるまで自分たちを信じて戦い続けるしかない。ミスを犯したとしてもメンタルから崩れることなく、最後まで戦い続けることができたと思う」

 アルバルク東京と再び対戦することとなったファイナルは一発勝負。昨季の千葉は2Qにリズムを失い、最後まで取り戻せないままの完敗だった。しかし、今季の千葉は昨年の悔しさがモチベーションになっているだけでなく、一発勝負である天皇杯を土壇場の攻防をモノにして手にした優勝経験も、メンタルが強くなったと言える理由の一つ。ダンカンは「よりプレッシャーのかかる状況で集中力を維持できた経験は、何としてもファイナルで生かしたい」と話す。

 ダンカンがファイナルでマッチアップするアレックス・カークとミルコ・ビエリツァは、非凡なスキルとシュート力のあるビッグマンだ。タフなマッチアップになるといえ、これまでの53試合で見せたパフォーマンスを発揮することは、千葉のB1初制覇に欠かせない要素。「シーズンを通じてやってきたプレーをし続けることが大事。我々には有能でわがままなところがない選手たちが揃っているし、お互いがベストを出し切れるようなケミストリーをシーズンを通じて構築してきた。ファイナルでも継続できるという自信を私は持っているから、土曜日の試合がどうなるか楽しみだね」と語るダンカンが、クールに違いをもたらす選手になれるかは、ファイナルの勝敗を左右する重要なポイントという気がしている。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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