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シェーファー・アヴィ幸樹が経験したウォークオンの選手としてNCAAでやるメリットとデメリットとは?

青木崇Basketball Writer
東京五輪への強い思いからジョージア工科大から日本に戻る決断をしたシェーファー(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 4月16日にNBAへのアーリー・エントリーを決断したゴンザガ大の八村塁は、スカラシップ(奨学金)をもらいながらバスケットボールをやっていた。昨年ジョージ・ワシントン大を卒業した渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)を含め、NCAAのディビジョン1で試合に出ている選手たちは、基本的にリクルートされてチームに入り、スカラシップによるサポートを受けているのだ。

 しかし、多くのチームにはウォークオンと呼ばれる選手たちがいる。簡単に説明すると、彼らはスカラシップをもらっている選手と違い、チームに入ることを認められた一般学生を指す。ウォークオンにはスカラシップをもらっている選手同様にリクルートされたプリファードと、トライアウトを勝ち抜いた選手の2種類ある。昨年12月までジョージア工科大に在籍していたアルバルク東京のシェーファー・アヴィ幸樹は、プリファードのウォークオンだった。

 ウォークオンの選手は試合に出られるチャンスが非常に少ない。シェーファーも例外ではなかった。コーチ陣からチャンスがあると言われていた2年生になっても、他校からスカラシップ選手が転入するという影響を受けた。転校した選手は1年間試合に出られない規定がNCAAにあるものの、ジョージア工科大にやってきた選手はそれを免除されていたのである。高校卒業後に渡米して過ごしたブリュースター・アカデミーでもあまり試合に出られなかったシェーファーは、3年連続で出場機会の少ない事態に直面。バスケットボール選手としての自分に何が一番重要かを考えた結果、将来学位を取得して卒業する選択肢を残したうえで、ジョージア工科大から離れて帰国するという決断を下したのだ。昨年末に行われたアルバルク東京の入団会見で、シェーファーはこう語っている。

「自分は日本代表でプレーすること、代表に重きを置いているので、その日本代表でプレーすると考えた時に、2020年の東京オリンピック出場が目標で、それに何が何でも出たいなという気持ちがあった。それに出るために何をしなきゃいけないかと自分で考えた時に、大学でプレータイムをもらえてなかったし、来年も残っている選手が多くてあまりもらえる見込みがなかった。そういう面で大学に残っていたら自分のレベルアップにならないかなと思って、そういうことも代表活動に影響が出ると思ったので、大学を出ると決断をしました」

 東京オリンピックがなければ、シェーファーはジョージア工科大に残るつもりだった。4年生になれば出場機会を得られるだけでなく、スカラシップをもらえる可能性が十分にあったからだ。その一方で、ウォークオンが出場機会を求めて転校することはデメリットでしかなく、正直なところ実現の可能性も非常に低い。NCAAディビジョン1の有名なチームであっても、ウォークオンの選手になることは、4年間試合に出られない可能性を受け入れる覚悟が必要なのだ。

 ここ数年、日本からアメリカの大学に入る選手が増えているが、大学を選ぶ際に優先しなければならない要素として、”1年生から試合に出られるチャンスがあるか”があげられる。マイケル・ジョーダンの母校であるノースカロライナ大からプリファード・ウォークオンとして勧誘されたものの、アイビーリーグのコロンビア大に進んだ松井啓十郎(シーホース三河)は次のように話す。

「相手チームのオフェンスしかできない、スカウティングチームになる。ウォークオンは全部相手のことをやったりという練習要員。それでノースカロライナに行ったとしてもおもしろくないと思ったから、とりあえず自分は1年目から出られるところでやりたいと。大学に行くならば、絶対に出られるところがいい。もし1年間出られなかったら、そこのポジションで下のやつが入ってくる、いい選手がね。そうなってしまうと上のやつは絶対に使われなくなる」

 松井は憧れの存在だったジョーダンの母校にウォークオンとして入学するよりも、1年生から出場機会を得られる可能性の高いコロンビア大を選び、4年間における平均出場時間が18.2分、平均得点で6.6という数字を残した。1年生ながら先発ポイントガードの座を掴み、今季の平均アシストがディビジョン1全体で2位となる7.7本を記録したテーブス海も、勧誘された大学の中から出場機会を得られる可能性の高かったノースカロライナ大ウィルミントン校に進む決断したことが、成功のシーズンを手にするきっかけになったのである。

 バスケットボールを始めたのが高校になってからというシェーファーからすれば、ジョージア工科大で練習の日々を過ごすだけでも得るものが多かった。試合に出られないフラストレーションがあったものの、「もちろん選択肢があって、自分が確実にプレーできる位置とプレーできない位置がある場合、確かにプレーできるところのほうが確かにいいと思います。けど、レベルというものがあって、ディビジョン2でプレーできるところとACCでこれから頑張ってプレーできるかもしれない位置にいると考えたら、僕はACCを選びます」と話したように、ウォークオンでもレベルの高いチームにいることのメリットは実感していた。

 今季からジョージア・サザン大でウォークオンとなった弓波英人は、大学の学生新聞で取り上げられた記事の中で「ウォークオンだけど、ディビジョン1の学生アスリートになっていることを言葉では表現できないです」とコメント。スカラシップをもらって試合に出ているチームメイトのレベルアップ、次の試合に向けた準備の助けとなれることに誇りを持っている。ウォークオンの立ち位置は、選手個々の考え方や目的意識によって大きく変わってくるのだ。

 NCAAでプレーしたいと思う若者にとっては、まず自身の目標をはっきりさせることが必要。もちろん、英語を理解してコミュニケーションができることは絶対条件である(NCAAを目指すうえでの参考記事1参考記事2)。将来プロバスケットボール選手としてのキャリアを築きたいのであれば、スカラシップをもらって出場機会を得られる可能性のあるチームに入ったほうがベスト。そうなるためにはリクルートされることが絶対条件であり、高校からアメリカに留学して試合をNCAAのコーチたちに見てもらうか、日本の高校に通っている場合は八村のように国際大会でインパクトを残すしかない。

 ただし、ウォークオンであってもディビジョン1でやり続けて卒業すれば、今後のバスケットボール人生でプラスになることも多くなるだろう。ハードワークを4年間継続してレベルアップすれば、スカラシップ選手になれる確率が低いながらもありうるし、卒業後にコーチとしてのキャリアを築くことも可能。ちなみに、ジョーダンと一緒に1990年代のシカゴ・ブルズで6度NBA制覇を経験したスコッティ・ピッペンは、元々セントラル・アーカンソー大のウォークオン選手だった。

「プレーできなかったといえ、高いレベル、高い環境に自分を置いたことによって、すごく得るものは多かったので成長できましたし、そのレベルがスタンダードになっている。そういう意味ではアメリカを経験して、プレータイムがもらえない状況でも得るものはすごく多かった。僕が経験したことはつらい部分もあったんですけど、そういったことを含めていい経験だった」と語ったように、シェーファーはジョージア工科大で過ごした日々をポジティブに捉えている。その一方で、大学生の年齢となる18〜22歳は、選手としてレベルアップしなければならない重要な時期。ウォークオンでチームに入った場合、4年間ほとんど試合に出られないリスクを負う覚悟が必要だ。

「プロになるとお金をもらえるけど、大学はプレーしてなんぼだし、試合に出ないとうまくなれない」という松井の言葉は、正に中学生や高校生に向けたメッセージになるだろう。NCAAディビジョン1の選手になることは、アメリカの高校生にとっても狭き門なのだ。日本人でもスカラシップ選手になれれば出場機会のチャンスをもらえるが、プリファード・ウォークオンで勧誘された場合は、シェーファーが経験したことを理解したうえで、チーム事情をできる限り把握することが重要。だからこそ、こういった情報はアメリカに留学したいと考えている子どもを持つ親御さんだけでなく、日本のバスケットボール界全体で共有できる環境が整うことを願っている。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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