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バスケットボール日本代表:カタール戦の大勝はラマスコーチの目指すスタイルを体現できた結果

青木崇Basketball Writer
厳しいディフェンスでカタールに対応する比江島と張本 (C)FIBA.com

 フリオ・ラマスは日本代表のヘッドコーチになった以来、世界と戦うためにサイズアップが必要と強調している。FIBAワールドカップ・アジア地区2次予選ウィンドウ5のカタール戦、日本はポイントガードの富樫勇樹と篠山竜青を除いた10人は、すベて身長190cmを超える選手たちで構成。渡邊雄太(NBAメンフィス・グリズリーズ)と八村塁(NCAAゴンザガ大)を欠く中での戦いは、Bリーグのプライドとレベルアップしたことを世界に示す絶好の機会だった。

 日本は1Q途中で11点のリードを奪うも、2Qで逆転されてハーフタイムを迎えた。司令塔の富樫が3Pシュートを打った後の着地で右足首を捻挫するアクシデントに見舞われ、本職のポイントガードが篠山のみという緊急事態に直面。しかし、ラマスコーチはここから見事なアジャストを見せる。アルバルク東京でゲームメイクをする機会の多い田中大貴を後半のスターターから外し、篠山の控えポイントガードとして使う策をとったことだ。

 それが見事に成功してカタールを一気に引き離せたのは、馬場雄大のバスケットカウントとなる速攻からのダンクで47対35とリードを広げた後からの局面。ラマスコーチはファジーカスを休ませるために張本天傑をパワーフォワードとして起用し、フロントラインのもう一人が竹内譲次、ガードとウイングを比江島慎、田中、馬場というラインナップの時だ。アウトサイドにはサイズアップと身体能力の高さが生まれ、フロントラインの2人も機動力を生かしながらフィジカルに対応した結果、カタールのオフェンスは完全にリズムを失ってしまう。その状況をガードの2人に聞いてみると、次のような答えが返ってきた。

「手応えはよかったと思います。アクシデントで富樫がケガした中で、練習でもあまりやってなかったですけど、大貴、馬場、天傑はディフェンスプレーヤーなので、セットプレーというよりは速い展開。その3人が出たことで意識しましたし、それがいい形でできたと思います」(比江島慎)

「ディフェンスが効いているなという印象は正直なかったです。次のオフェンスをどうしようとか、普段やらないことをやらなければならなかったので、そっちの方で頭がいっぱいでした。けど、富樫に代わって自分が入るとサイズがアップすると思っているので、いいプレッシャーをかけられるだろうし、リバウンドのところでもプラスになれる。自分がチームにいい影響を与えられることをしっかりやろうと思いました」(田中大貴)

 日本がその後の2分24秒間で奪った12連続得点は、竹内のリバウンド、馬場のスティール、張本のリバウンド、田中のリバウンド、比江島のブロックショット、田中のリバウンドという順から生まれたもの。ラマスコーチが求めていたサイズアップは、富樫の右足首捻挫というケガの功名から導き出されたものかもしれない。しかし、このラインナップが38点差で大勝する要因になったことは明らかで、カタールのパナイオーティス・ヤナラースコーチも「日本は一人の選手に頼るチームじゃない。試合を変えたのはファジーカスがいなかった時だ」と語っている。インサイドのディフェンスで奮闘した竹内譲は、「対策する時間がなかったですし、ディフェンスの再構築しかできなかった。情報としては集中力が切れやすいチームと聞いていたので、そこをしっかり守ったことによって、走る展開で日本の強みが出せたのかなと思います。やってきたことに関してはよかった」と振り返った。

 ハードなディフェンスからリバウンドを奪い、テンポの速いオフェンスを展開して得点する。190cm以上の日本人選手だけでこの戦いができた例は、過去にあっただろうか? 現代のバスケットボールは、攻防両面で複数のポジションをこなせる選手が重宝される。カタール戦で大きな違いをもたらした比江島、田中、馬場、竹内、張本というラインナップは、ラマスコーチが目指すバスケットボールを体現していたと言っていい。ラマスコーチは試合後、このように話している。

「大貴と慎は将来的にポイントガードで使うことも考えている。大貴は練習で少しやっていたけど、このゲームで使うなんて思ってもいなかった。10日前にベンドラメ礼生、今日勇樹がケガしてしまったから、この決断をせざるを得なかったけど、大貴はポイントガードとして素晴らしいプレーをしてくれた。我々はスタイルを探している最中である。なぜなら、一つのことをよくするには一つのスタイルが必要だから。スタイルがなければ何もない。我々はスタイルを構築しているところだ」

 予選の残りは3試合。抜群の得点力を持つファジーカスの帰化は日本に大きな希望をもたらしたが、カタール戦の3Qから4Qにかけて使ったラインナップも今後を考えると大きなプラス。それでも、ワールドカップ出場権獲得への道のりはまだまだ険しい。次戦の相手はフィリピンをアウェイで倒して自信をつけているカザフスタンだが、ホームで戦える最後の一戦をモノにできれば、日本の予選突破は現実味を帯びてくる。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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