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レフェリーの取り組む姿勢はBリーグ誕生後に向上しているが、コミュニケーションに大きな課題あり

青木崇Basketball Writer
試合を円滑に進行させるうえでレフェリーのコミュニケーション能力は重要(写真:ロイター/アフロ)

 バスケットボールのレフェリーは、人々から批判されることが多い一方で、褒められることの少ないタフな仕事。試合中は感情が高ぶっている選手やコーチからのクレームに対処しなければならないし、微妙なコールでファンから強烈なブーイングや厳しい言葉を浴びせられる。Bリーグも例外ではない。しかし、彼らはゲームを円滑に進めるための準備に多くの時間をかけている。日本バスケットボール協会(JBA)は、今季のBリーグ開幕前にこんな映像を公開した。

 昨季を最後に現役から引退し、JBA審判部の部長となった宇田川貴生は、レフェリーの取り組みと準備について次のように語る。

「映像にも出ましたけど、プレゲーム・カンファレンスのところに関しては、今までとまったく違う流れになっているのは事実。詳細ははっきり言ってませんけど、自分も昨シーズンまでやっていて、クルーの過去の試合を映像で見て、クルーの関係、メカニックの癖にまずチェックを入れます。それをプレゲーム・カンファレンスの時に映像を見ながら、こうしていくという話があります。もう一つが、対戦カードのスカウティングをして、過去にどういう試合があったか、スタッツを全部チェックして、誰が特徴的な選手で、どういうプレーをやっていくか、それらを全部取り込みながらパワーポイントにし、1時間以上話をする。それを本当にみんながやっています」

 日本人として初めてNBAサマーリーグで笛を吹き、現在FIBAのレフェリー・スーパーバイザーを務める上田篤拓は、8月下旬のS級講習会で「土曜日の試合が終わって、日曜日の試合の前にもう1度ビデオを見る。どうつながるかをもう一度確認する作業を自ら進んでやっていた」と話した。これは、Bリーグ1年目でレフェリーたちの姿勢がいい形で変化していることを意味している。コーチの一人は今季開幕後、「Bリーグになってから、レフェリーの対応は以前よりも改善されてきている」と口にしている。

 S級講習会では、昨季の映像を使いながら技術面でどんなやり方がベストか、コールした後に正しい対応をしていたかといったことがいくつも取り上げられていた。しかし、筆者が取材するにあたって持っていた興味は、コーチや選手との間にあるコミュニケーション。上田は映像を使った講義に入る前、こんな話をしていた。

「レフェリーがプレイヤーやコーチからアプローチできる雰囲気やイメージを醸し出し、作っていくか。実際にそれがコミュニケーションとなった時にレスポンスできているか。難しかったと思われるコミュニケーションは何だったのか、どうレスポンスしたかをノートに記す。大事なのはウソを書かないこと。起こったことをありのまま書いて、それをどう振り返るか。次回同じようなことがあった時、前はこう答えたけど今度はこう答えたらいいと。仲間のクルーにこの場合どう答えたかを聞いてみる。経験値としてシェアし、蓄積していく。わかっているなと思われることで、リスペクトにつながる」

 選手やコーチたちはレフェリーに敬意を払っているはずだが、信頼しているかといえば疑問符がついてしまう。限られた人数になるが、コーチたちからレフェリーに関連したコミュニケーションについて耳にした例をあげると、以下のような感じになる。

「チームからリーグへという一方的なところがなくなり、Bリーグになってからはフィードバックがある」

「コミュニケーションはbj出身レフェリーのほうがいいけど、オンコートではまだまだ」

「どういった理由でファウルを吹いたのか? と質問しても、プッシングとしか返答しない」

「質問しても、ニコニコして流す」

「無視され、逆に睨まれた」

 人間それぞれに性格があるだけに、コミュニケーションで多少の違いが出るのは仕方ない。選手やコーチが紳士的な態度で質問した際に、きちんと理由を説明できれば、フラストレーションが原因の問題発生を避けられる可能性は増す。S級講習会の中で上田は、「トラブルは笛がなった後に起こりやすい」と明言している。10月の千葉ジェッツ対栃木ブレックス戦、富樫勇樹と田臥勇太の両ポイントガードが違った時間帯で質問した際、対応したレフェリーはいずれも聞く耳を持っていた。

 口調を荒げた抗議ではなく、コールしたことやしなかった理由を聞くことに対し、レフェリーが何も答えないのはコミュニケーションの拒絶。試合を円滑に進めるうえで、マイナスとなってしまうのは明らかだ。それはBリーグというプロのゲームだけでなく、学生の試合でも同じ。昨年のウインターカップでは、こんなシーンがあった。

 福島南のキャプテン水野幹太(現法政大)は、洛南戦の途中で笛に対する疑問を感じていた。後半の途中、フリースローの合間に五輪で吹いた実績のある平原勇次レフェリーに近寄り、質問を投げかける。それに対して平原は、多くのレフェリーに見られる”高校生のくせに”といった態度を見せることや、無視するといったことを一切ぜず、頷きながら水野の質問に耳を傾けた後に理由を説明していた。

 プロであろうが学生であろうが、FIBAルールの下でプレーすることは不変。ゲーム中におけるレフェリーの姿勢やコミュニケーションがより一貫したものになれば、日本のバスケットボール界全体の質を上げることにもつながるはず。レフェリーも人間である以上、当然我慢の限界がある。FIBAの定めるガイドラインを超えたと判断できれば、躊躇することなくテクニカルファウルをコールすればいい。これは選手やコーチに向けてのメッセージになると同時に、順応することを強いられる。

 今季のBリーグは、レフェリーの数が82人から112人へと一気に増加したため、経験度によって技術レベルで多少の開きが出てしまう可能性も否めない。だからこそ、ゲーム中のコミュニケーションを綿密にすることは、FIBAが力を入れているCLEAN THE GAMEを体現するうえで、すごく大事な要素だと思っている。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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