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技術委員長とのつながりと、五輪での経験と実績が理由で選ばれたバスケットボール日本代表の新へッドコーチ

青木崇Basketball Writer
メダルは逃したが、ロンドン五輪でアルゼンチンを準決勝まで導いた実績のあるラマス(写真:ロイター/アフロ)

東野智弥の日本バスケットボール協会(JBA)技術委員長就任から10か月強が経過した4月13日、ついに新しい日本代表のヘッドコーチが発表された。東野が以前から大物と語っていた人物は、ロンドン五輪でアルゼンチンを準決勝進出に導いたフリオ・ラマス。1998年の世界選手権でも指揮を執るなど、代表ヘッドコーチとして国際試合の経験は豊富である。大物コーチなのか? と問われたとしたら、正直な答えはNOだ。

五輪でメダル獲得した実績のある大物で、日本にフィットしそうなコーチはだれか? と視点で候補を絞っていくと、筆者は前キャブス指揮官で、ロンドン五輪でアルゼンチンを倒してロシアを銅メダル獲得に導いたデビッド・ブラットが最適と答える。ブラットは下馬評で不利なチームを勝たせる術を持つコーチだと感じたのは、2007年のユーロバスケット決勝で地元開催に加え、戦力が充実していたスペインに1点差で逆転勝ちしたのを現場で取材したときから。2014年のユーロリーグ決勝でマッカビ・テルアビブがレアル・マドリッドを破った際には、203cmのフォワード以外は180cm〜198cmの選手で構成したスモール・ラインナップを使い、これぞ”攻撃は最大の防御”という表現がピッタリの采配をしていた。NBAのキャブス時代に激しい批判を受けたブラットだが、FIBAの試合ならばまちがいなくトップクラスのコーチであり、実績からしても大物と呼ぶにふさわしい。

4月上旬に渡米した際、筆者は訪問先のポートランドで偶然、東野と会う機会に恵まれる。その時の会話で、「ブラットだと年俸が高すぎる」という言葉を耳にすると、新指揮官はアルゼンチン人だとすぐにイメージできた。東野は2011年に早稲田大学で修士号を取得したが、その時の論文でラマスの名前が出ていただけでなく、インタビューもしていた。アルゼンチン人の大物といえば、アテネ五輪で代表を金メダルに導いたルーベン・マニャノの名前がまずは出てくる。しかし、2010年から率いていたブラジル代表では、地元開催のリオ五輪でグループリーグ敗退と期待を大きく裏切った。10年前であれば、彼を日本代表指揮官に招聘することでのインパクトは強烈だったが、62歳という年齢を考えると、過去の人という感じは否めない。

アルゼンチン人で選ぶならば、北京五輪銅メダルの実績を持つセルヒオ・エルナンデスが個人的にベストだと思っていた。しかし、リオ五輪後も代表の指揮官を継続することが発表されると、残るはラマスかマニャノの下でアシスタントコーチを務めたフェルナンド・デュロしかいなくなる。2001年のヤングマン世界選手権で取材して以来、友人となっていたデュロにコンタクトしてみると、「(JBAの)だれとも私は話をしていない」とコメント。ラマスが日本代表のヘッドコーチになるというニュースについては、「私がイメージしていたものだった」と返答してきた。デュロが代表指揮官としての経験がなかったことを考慮すれば、ラマスは東野が技術委員長に就任した当初からの有力候補だったのだろう。

13日の記者会見で東野は、「アルゼンチンは体格的条件に日本とさほど違いがありません。その点、体格的に劣るチームが世界で戦うための術を熟知しており、その手腕を発揮していただくことで、男子日本代表チームも飛躍的な成長を遂げるものと信じています」と話したが、筆者もこの見解に同意する。その理由は、2002年の世界選手権でアルゼンチンがアメリカを倒した試合を取材したとき、日本もこういったことができないのか? という思いを持っていたから。マヌ・ジノビリのような類稀な才能を持つ選手や、ルイス・スコラのようなポストプレイのうまいビッグマンは今の日本にいないし、アルゼンチン人が日本人よりもフィジカルの強靭さで上回るのも明白。それでも、サイズのあるヨーロッパの強豪国に比べると、試合の戦い方など参考になる部分は多いと思えるのだ。

開催国として東京五輪の出場権が保証されていない日本は、2019年に中国で開催されるワールドカップ出場が五輪への道のりを開くための最低条件。今年の秋から始まる予選では、イランやレバノンといった西アジアや中東の国だけでなく、オーストラリアやニュージーランドと対戦する可能性も高い。過去の予選以上に厳しい戦いを勝ち抜く必要がある点からすれば、東野はラマス以外に五輪での経験と実績のある適任者がいないという結論に至ったと想像できる。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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