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Bリーグ開幕に乗じたインパクトでは出遅れたが、サクレ獲得による渋谷の巻き返しに期待

青木崇Basketball Writer
早くも強烈な存在感を示しているサクレ (C)SUNROCKERS SHIBUYA

2年前のオールジャパンで頂点に立ったサンロッカーズ渋谷には、竹内譲次が移籍したといえ、広瀬健太や満原優樹といった日本代表経験者がいる。Bリーグ開幕前は、強豪チームの一つと見られてもおかしくなかった。しかし、現実はなかなか勢いに乗れない状態が続き、レギュラーシーズンも折り返しとなる1月22日時点での成績が15勝15敗。他の上位チームに比べると、渋谷は成績だけでなく、チームとして少しインパクトに欠けると感じていた。「サンロッカーズ渋谷ってどんなチーム?」と問われても、これといった答えがすぐに出てこないのである。

例えば、アルバルク東京ならば代表選手を数多く揃えるだけでなく、元NBAのディアンテ・ギャレットがプレイで魅せてくれる。栃木ブレックスは田臥勇太を筆頭にチームとしての知名度が高いし、千葉ジェッツもNBAのサマーリーグで話題をさらった富樫勇樹がいるなど、見に行きたいと思わせる選手がいる。そういったインパクトの部分で他のチームよりも少し弱いことは、渋谷の観客動員数がB1で2番目に少ない一つの理由と思えてならない。高校、大学で日本一になった経験のあるベンドラメ礼生は、トリッキーなプレイで魅了できるが、知名度だとこれからの選手である。

オールジャパンが終わって間もない1月13日、渋谷は短期契約が切れたチャド・ポチュスマスに代わるビッグマンとして、昨季までレイカーズでプレイしていたロバート・サクレを獲得した。岡博章社長が「試合の結果は別にして、マスコミやネットの記事で取り上げてもらえて非常に注目されている選手であるし、チームにとっては非常にプラスだったなと思います」と語るように、サクレを獲得したことの効果は、人気チームである栃木との2連戦が短時間でチケット完売となったことでも明らか。会場の青山学院記念館には、3500人弱の観客で埋まることが決まっている。さらに、サクサクかき氷で知られる「サクレ」を発売しているフタバ食品とのコラボで、両日とも先着2000名にTシャツをプレゼントすることが実現した。

サクレの加入がなぜ大きなインパクトになったのか? を考えてみると、日本におけるレイカーズの知名度が非常に高いことや、コービー・ブライアントとチームメイトだったのが要因と感じた。岡社長は昨年夏の時点で獲得に興味を持っていたことを認めたうえで、サクレがもたらしたインパクトについて次のように話す。

「2013年くらいからのツイッター、いろいろなNBAファンやレイカーズファンの(ツイート)をずっと見ていて、フタバ食品さんも公式ホームページが一緒にまじっていろいろなコミュニケーションをとっていたのを読ませてもらって、本当に楽しい、こうしたコラボが実現したらいいよねとか、夢のような話で盛り上がっていたというのは見ました。今回(サクレが)日本に来てくれるということから、フタバさんが栃木の会社ということや栃木戦をサンロッカーズのホームで行うこともあり、コラボが実現できないかという中で、フタバさんに快諾してもらえた。大いに盛り上がりたいなと思います」

ファンの人気者になる可能性大 (C)SUNROCKERS SHIBUYA
ファンの人気者になる可能性大 (C)SUNROCKERS SHIBUYA

「ファンベースは素晴らしい。サポートするためにここへ来てくれるし、来週はチケット売れ切れということで、すごくエキサイティングなゲームになるだろう。ファンにはいい印象を持っているので、会場に来てもらい、サポートし続けてくれたらと思う」と語るように、Bリーグに対するサクレの第一印象は悪くない。デビュー戦となった1月18日の川崎ブレイブサンダース戦、ニック・ファジーカスとマッチアップしたサクレは25点、16リバウンドを記録し、元NBAビッグマンとしての力を十分に発揮した。今季からチームを率いるB.T.テーブスコーチのオフェンスは、ボールムーブとシェアを重視するスタイル。しかし、アールティー・グインはシュート力が持ち味のパワーフォワードであるため、インサイドで得点を計算できる人材に欠けていた。ローポストから得点できるサクレの加入は、インサイドでの得点力不足解消に期待が持てる。

「サクレのゲームが試合ごとに変わることはない。彼のプレイはシンプルで、攻防両面でいい仕事をしてくれる。日本人選手がどう対応すればいいか苦戦している。ロブが来る前と同じことをしていいのか? それともボールを手放したほうがいいのか? といったことだね。そういったところで、私はもっといいコーチングをしなければならない。日本人選手の大半が抱える弱点が、どうフィットすればいいかよりも、自我を出そうとプッシュすることだ。そういった姿勢がチームコンセプトとしてもっとほしいところだけど、最も大きな違いとして見えることは3Pシュートの成功率。それがロバート・サクレの加入による影響だ。35%入るようになれば、我々はよりタフなチームになる。彼がインサイドにいることで、フロアのスペーシングはもっとよくなる」

こう語るテーブスコーチは今後、試合と練習の積み重ねで、チームにとって最善な戦略を構築しなければならない。とはいえ、いい意味で騒がしいという表現がピッタリなサクレの存在は、真面目で寡黙に取り組むタイプの選手が多く、試合中のベンチ陣も少し大人しいチームを変えるかもしれない。テーブスコーチが「人をひきつけるカリスマ性のあるうるささ」と評するサクレがチームメイトに求めているのは、「コートに立ったら必ず、すごい自信を持った状態でいてほしい」ことだという。

インサイドで軸になることが期待される (C)SUNROCKERS SHIBUYA
インサイドで軸になることが期待される (C)SUNROCKERS SHIBUYA

これまでの経歴や陽気な人間性を理由に、サクレは入団早々から渋谷に大きなインパクトをもたらした。しかし、これを一過性で終わらせないためには、チームの成績向上が不可欠。見たいと思っているファンが本当に見たい試合を、コート上でプレイする選手だけでなく、フロントを含めた組織が一体となって展開できるかが、新たなインパクトを生み出すカギになるだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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