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なぜ朝倉未来は萩原京平に微笑みかけ、寝技で削り続けたのか──『RIZIN LANDMARK』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
試合終了直後、朝倉未来は萩原京平に微笑みかけた(写真:RIZIN FF)

最終ラウンド、グラウンドの攻防の中で朝倉未来は表情に笑みを浮かべていた。

萩原京平と目が合う。この時、萩原が疲れ切っていることをハッキリと感じた朝倉は萩原に言った。

「動けよ!」

そして、思わず微笑んでしまったという。

ヒジ打ち、パンチを容赦なく見舞っていく。逃げられない萩原は、これを浴び続け出血、顔面を赤く染めた。そのまま試合終了を告げるゴングが打ち鳴らされる。判定結果は、聞くまでもなかった。

10月2日、東京都内のシークレットスペースで開催された『RIZIN LANDMARK vol.1』のメインエベント(第4試合)で、朝倉未来(トライフォース赤坂)は因縁の相手、萩原京平(SMOKER GYM)に判定勝ちを収め再起した。昨年大晦日以来、275日ぶりの勝利である。

判定は3-0、朝倉未来の圧勝だった(写真:RIZIN FF)
判定は3-0、朝倉未来の圧勝だった(写真:RIZIN FF)

相手の弱点を突く

「(勝てて)ホッとしました。今回、結構プレッシャーがかかりましたから。それが、凄く楽しくもありましたけど。1週間ぐらいゆっくり休んだら、次の対戦相手に勝つために、また地獄の追い込みをしていこうかなと思います」

闘い終えた直後に、朝倉はそう話した。

「ホッとした」には、実感がこもる。

今回の試合は「勝って当然、負けたらすべてを失う」、朝倉にとってメリットの薄い試合だった。やはり、「嬉しい」ではなく「ホッとした」のだろう。

それにしても試合展開は予想外のものだった。

朝倉、萩原はともにストライカー。そのため激しい打撃戦が繰り広げられるかと思いきや、大半がグラウンドでの攻防となった。

萩原は、打ち合いを望んでいた。だが、朝倉がそれをさせなかった。すべてのラウンドでテイクダウンを決め、寝技で萩原を削り続けた。

その理由を、朝倉はこう話す。

「打撃戦でも負ける気はしなかった。でもMMA(総合格闘技)は、相手の弱い部分を突いて闘う競技。より勝ちに徹するなら寝技で闘うべきだと思った」

朝倉のテイクダウンは見事だった。

両腕で相手の胴や足を抱える形のタックルを仕掛けたのではない。見合った状態から胸を合わせるようにして間合いを詰めニータップで萩原をアッサリと後方に倒した。

グラウンドテクニックも、やはり朝倉が一枚上。一本、パウンドアウトには至らなかったが終始、萩原を圧倒した。

グラウンドの攻防で萩原京平の顔面にヒジ打ちを見舞う朝倉未来(写真:RIZIN FF)
グラウンドの攻防で萩原京平の顔面にヒジ打ちを見舞う朝倉未来(写真:RIZIN FF)

私は、この展開を予想していなかった。だが振り返ると朝倉は、グラウンドに持ち込むことを戦前の共同インタビューで予告していた。

「これまで出す機会がなかったけど、皆さんが思っている以上に俺は寝技ができます。萩原くんは、まあまあ打撃ができるんで、相手の得意なところで闘わず寝技に持ち込んで決めてもいい。盛り上がるかどうかはさておき、俺が寝技で勝ったら面白いんじゃないかな」

最初から、朝倉はグラウンド勝負と決めていた。そして作戦通りに試合を進めたのだ。

また、試合前にこうも話していた。

「しんどい試合をしてみたい。これは相手がどれだけ強くなっているかにも関係しますけど、根性勝負になったら面白い。今回、俺はきつい練習をして、そこで勝てる準備をしてきていますから」

しんどい試合になったのか?

「いや、ならなかったですね。そんなに息を切らすこともなく終わったので。

テイクダウンは無理なく奪えると思っていました。でも、その後に立ち上がられることも想定していた。打撃の展開になって、そこからまたテイクダウンといった流れが続いたら精神的にも体力的にもしんどい試合に…と考えていたんですが、そうはならなかった。

1ラウンドには立たれたけど、その後は抑え込んだ。試合が終わった後も、まだ1、2ラウンド闘える体力的余裕がありましたから」

大晦日に斎藤と再戦したい

この試合の模様は、「U-NEXT」でライブ配信された。実況席には、昨年11月に朝倉を僅差の判定で破り初代RIZINフェザー級のチャンピオンベルトを腰に巻いた斎藤裕が解説者として座っている。

試合直後、リング上から朝倉は斎藤に、こう呼びかけた。

「斎藤選手とクレベル(・コイケ)選手にやり返すために、きつい練習をしてきて今日、勝ちました。年末に(試合を)受けてもらえれば」

斎藤が答える。

「凄く強くなったところをみせてもらいました。僕は、10月24日(ぴあアリーナMM『RIZIN.31』)にしっかり勝って、それから考えます」

『RIZIN.31』で斎藤が怪我なく王座防衛を果たせば、大晦日に両雄が再戦する可能性も十分にある。

試合後、リング上からRIZINフェザー級王者・斎藤裕に改めてリマッチを要求する朝倉未来(写真:RIZIN FF)
試合後、リング上からRIZINフェザー級王者・斎藤裕に改めてリマッチを要求する朝倉未来(写真:RIZIN FF)

「10月24日(『RIZIN.31』ぴあアリーナMM)の試合で勝ってから考えます」と放送席から答えるRIZINフェザー級王者・斎藤裕。左は実況を務めた矢野武アナ(写真:RIZIN FF)
「10月24日(『RIZIN.31』ぴあアリーナMM)の試合で勝ってから考えます」と放送席から答えるRIZINフェザー級王者・斎藤裕。左は実況を務めた矢野武アナ(写真:RIZIN FF)

朝倉は言う。

「RIZINをもっと盛り上げたい。ならば、俺がフェザー級のチャンピオンベルトを(腰に)巻かないとダメでしょう。リベンジもしたい、これまで俺がRIZINを引っ張ってきたという自負もある。さまざまな意味を込めてベルトを手にしたい」

そういえば、朝倉は30歳で現役を引退すると公言していた。現在29歳。まだ、やり残したことが多くある。本格的なトレーニングを始めたのもつい最近で、伸びしろも十分だ。三十路に突入しても彼はリングに上がり続けるだろう。誰よりも格闘技が好きだから─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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