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金メダリスト1人のフランスに日本が敗れた理由──。<柔道・男女混合団体>

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
柔道競技最終日、「混合団体戦決勝」で日本はフランスに、まさかの敗北を喫した(写真:ロイター/アフロ)

団体戦の独特な雰囲気

東京オリンピック前半戦、日本勢の活躍は凄まじかった。

中でも、連日注目を集めたのは柔道だ。金メダル9個と量産。男子は7階級中5階級、女子も7階級中4階級を制した。ならば、競技最終日(7月31日)の「男女混合団体も圧勝」と思われたが、そうはならなかった。決勝戦でフランスに1-4の完敗──。

個人戦で圧倒的な強さを誇った日本が、なぜフランスに勝てなかったのか?

まずは、両国の個人戦での結果を比較してみよう。

男子は日本が金メダル5、対してフランスは優勝者なく、銅メダル2つ(60キロ級のリュカ・ムケジュと100キロ超級のテディ・リネール)。

女子も4人が優勝した日本が優っている。金メダルを獲得したフランスの選手は、63キロ級のクラリス・アグべニュヌただひとりだ。

今回の五輪から柔道の新種目となった「男女混合団体」は6対6で行われ、階級は次のように定められていた。

男子が73キロ級、90キロ級、100キロ超級。女子は57キロ級、70キロ級、78キロ超級。このクラスの中に日本勢は金メダリストが3人いる。フランスはゼロ。

戦力的に日本が優位なはずだった。

金メダルラッシュで日本の選手に気のゆるみが生じたわけではなかっただろう。

ただ、個人戦と団体戦では、勝つための条件が異なる。

「勝ち抜き戦ではない。1対1の闘いが続くのだから条件は同じだろう。強い選手を多く有している方が勝つはず」との声もあるが、そうではない。

個人戦で勝ち抜くために必要なのは、文字通り「個の強さ」だ。しかし、団体戦の場合、そこに「勢い」という要素が加わる。つまり、日本は「勢い」を欠き良い流れを作ることに失敗したのだ。

試合直前、選手は集中力を高めようとする。そのため、個人戦では、1つ前の試合を注視することはほとんどない(勝ち上がった時に闘うことになる相手の試合が行われている場合は別だが)。だが団体戦の場合は、仲間の闘いに熱くなり拳を握りしめ声を張り上げる。その後に試合場に上がるからテンションがまったく違うのだ。

レベルの低い話をして恐縮だが、私も学生時代に柔道部に所属していて、そんな経験を幾度もした。勝ち上がり段階での体力の消耗度合も影響するが、勢いがつくと個人戦では歯が立たなかった相手を攻め切れることがある。また逆も然りだ。

「男女混合団体戦」決勝に挑んだ日本の6選手。(左から)素根輝、大野将平、向翔一郎、芳田司、ウルフ・アロン、新井千鶴
「男女混合団体戦」決勝に挑んだ日本の6選手。(左から)素根輝、大野将平、向翔一郎、芳田司、ウルフ・アロン、新井千鶴写真:ロイター/アフロ

「勢い」を止められず

先鋒戦(第1試合)は、女子の金メダリスト対決となった。70キロ級優勝の新井千鶴と63キロ級を制したアグべニュヌ。階級が上の新井が優位と思われたが、巧みな組み手とスピード感溢れる動きから技を繰り出すアグべニュヌに圧倒される。技有り2つを奪われ、新井がまさかの負けを喫した。フランスに一気に流れを持っていかれる。この勝敗が結果に大きく響いた。

2試合目に向翔一郎が敗れ、3試合目は素根輝が勝利。4試合目、延長戦に及ぶ激闘の末、ウルフ・アロンがテディ・リネールにねじ伏せられた。日本の1勝3敗となり、フランスに王手をかけられる。

男子100キロ級金メダリストのウルフ・アロンが1階級上のテディ・リネールに挑んだ決勝第4試合。両者は初対決。得意の延長戦に持ち込んだウルフだったが、高い山を越えることはできなかった
男子100キロ級金メダリストのウルフ・アロンが1階級上のテディ・リネールに挑んだ決勝第4試合。両者は初対決。得意の延長戦に持ち込んだウルフだったが、高い山を越えることはできなかった写真:築田純/アフロ

この時、団体戦ならではのシーンが現出される。

試合場から降りたリネールは、これから出陣する女子57キロ級のシシネに大粒の汗をかいた額を寄せて言った。

「大丈夫だ。勝てる!絶対に勝てる!」

これにシシネが奮い立たぬはずがなかった。

「絶対王者」のリネールが苦しみながらも母国のために必死に勝利を掴み取ろうとする姿に心を熱くさせていたのだから。

この後、日本の芳田司が、シシネに技有りを奪われタイムアップ…勝負が決まった。両者の実力は互角だったろう。だが、勢いが違った。

個々の実力では上回りながらも、日本はフランスに敗れた。勢いをつけられなかったことに加え、支配されたまま流れを取り戻せなかったことが敗因である。

五輪で採用されたのは今回が初めてだが、『世界柔道選手権』では2017年から「男女混合団体」が行われている。これまでの4大会は、すべて日本が制してきた。そして過去3大会での決勝の相手は、いずれもフランスだった。

(このままじゃ駄目だ。どうしても日本に勝ちたい)

何年間も抱き続けてきた悔しさが、今回のフランスの勢いを生んだのかもしれない。

「悔しい。パリ五輪でリベンジできたらと思っている」

試合翌日に、今回の団体戦で主将を務めた大野将平は、そう口にした。

自国の畳で苦杯をなめた日本。3年後、敵地に乗り込んでの巻き返しを期待したい。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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