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「練習を一番していない」朝倉未来が変わった理由。東京ドーム『RIZIN.28』クレベル戦への決意

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
6・13東京ドームでクレベル・コイケと対戦する朝倉未来(写真:RIZIN FF)

練習量を急激に増やした

「今回のクレベル・コイケ選手との試合は、日本最高峰の闘いだと自分では思っています。だから、この一戦に賭ける気持ちは強い。しっかり研究もしています。クレベル選手のいろんな試合を映像で1000回くらい観ました。

気持ちの強い選手ですね。打撃は綺麗ではないけど、それでもしっかり前に出て来るしリーチも長い。この辺りが(クレベルの)強みですね。逆に弱みも結構ある。でも、それをここで話すのはやめておきます」

6月13日、東京ドーム『RIZIN.28』。この大舞台で朝倉未来(トライフォース赤坂)はクレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)と対戦する。大一番まであと17日と迫った5月27日、東京・トライフォース赤坂で彼は練習を公開、その後、メディアからの質問に答える形でそう話した。

(提供:RIZIN FF)
(提供:RIZIN FF)

最近、朝倉未来の様子が変わった。

「RIZINのリングに上がっている選手の中で一番練習していないのが俺。練習しなくても強いんですよ」

そう公言していた以前の朝倉は、実際にほとんど練習をしていなかった。朝の時間帯にスパーリングを少し行うだけ。コンディション作りの基本であるランニングさえしなかったのだ。それでもRIZINのリングで8連勝を飾ったのだから大したものだが、「いまは違う」と言う。

「1カ月前から練習量はかなり増やしました。魔裟斗さんからのアドバイスもありましたし、その必要性を自分でも感じていましたから。

朝8時から総合格闘技のスパーリングを(1ラウンド5分で)6~7ラウンドやります。その後にキックミットを3~4ラウンド。一度家に帰り仮眠を取って午後からランニング2キロと坂道ダッシュ。夜は家で腕立て伏せ、バービージャンプをやっています。あとは週に1回、ウェイトトレーニングも」

「格闘家として生きているなと実感している」とも口にする。現在の体重は72キロ。フェザー級のリミット66キロまであと6キロだから、ウェイト調整も順調のようだ。整体に通うなどカラダのケアにも余念がない。

昨年11月に斎藤裕に敗れ悔しい思いをしたこと、「30歳で引退」までに時間がないこと、そしてクレベル・コイケが強敵であるとの認識…さまざまな要素が混じり合い彼を変化させたのだろう。

公開練習で切れ味鋭い打撃を披露した朝倉未来。「キレとスピードが上がっている。コンビネーションも変わった」と自信をのぞかせる(写真:RIZIN FF)
公開練習で切れ味鋭い打撃を披露した朝倉未来。「キレとスピードが上がっている。コンビネーションも変わった」と自信をのぞかせる(写真:RIZIN FF)

「理想は判定勝ち」

さて、強敵クレベルをいかに攻略するつもりなのか?

朝倉は言う。

「理想は、判定勝ちですね。テイクダウンを一度も取らせずに打撃を当て続けて試合を進める。もちろんチャンスがあればKOを狙いますが、簡単な相手ではないことはわかっている。圧倒して勝ちたい。

相手が踏み込んできた時に合わせる打撃は、すでに用意できています。彼がこれまでに対戦してきた相手がやらなかったことを俺がやります。テイクダウンを取られない自信はあるし、引き込んできても、そこにはつき合わない」

理想は判定勝ち。

意外な言葉だった。

昨年大晦日、弥益ドミネーター聡志と対戦した際には、積極的に攻め自ら試合を作りKO勝利を収めた。だが今回は闘い方を変えるようだ。それは、クレベルの実力を認めてのことだろう。「安全策を取る」というよりも、「隙を見せられない」との決意のように感じられる。

だが、私は判定決着になるとは思わない。

なぜならば、朝倉、クレベルはともに高度なフィニッシュ能力を宿したファイターであり、「チャンスを逃した方が負ける」との認識を強く持っているからだ。ここぞの場面では、互いにスタミナ配分を度外視して攻め入るはず。攻防の中での瞬時の判断と動きで勝敗が決まるのではないか。

「今回の試合は日本最高峰の対決だと思っている。絶対に勝つ!そのための準備はできている」と話す朝倉未来(写真:RIZIN FF)
「今回の試合は日本最高峰の対決だと思っている。絶対に勝つ!そのための準備はできている」と話す朝倉未来(写真:RIZIN FF)

「朝倉の打撃vs.クレベルの寝業」の図式は変わらない。

とはいえ、クレベルはいきなりタックルを仕掛けはしないだろう。警戒されている状態で決められる確率は低く、アッサリと切られてしまえば、ペースを相手に握られてしまう。

まずはパンチの打ち合いに挑む。

クレベルも、当て勘には自信を持っている。一発当ててバランスを崩させ、そこからグラウンドの展開に持ち込もうとするはずだ。

一方の朝倉は、得意のカウンターでの打撃を狙う。

クレベルの動きのクセをかなり見抜いているようだ。ジャストタイミングで強烈な一撃を繰り出すことができれば、そのままフィニッシュにつなげよう。

朝倉が倒し切るか、クレベルが決めるか。スリリングな決着になるように思える。

最後に、朝倉が子どもたちに向けて発したメッセージを紹介しておこう。

「挑戦している人を笑う風習が、世の中に結構あると思う。挑戦している僕からすると、挑戦している人を笑う人を逆に笑っている。みんなも自分に挑戦して、笑う奴を笑う側の人になって欲しい」

やはり朝倉は変わった。そのことが、クレベル戦をさらに面白くする。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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