パレスチナでの衝突へのアル=カーイダ諸派の反応

(写真:ロイター/アフロ)

 アル=カーイダ諸派がたいした活動をしなくなり、彼らがたまに上げる比較的大規模な戦果も世間の反響を呼ばなくなって久しい。しかし、諸派が日本人を含む先進国の権益を攻撃したり、ヨーロッパ諸国での攻撃を行ったりした実績に鑑みれば、彼らが現在何に関心があるのかと、彼らが行う煽動や攻撃教唆を看過することはできない。

 エルサレムの解放なりシオニストとの闘いなりは、アル=カーイダの創始者であるウサーマ・ビン・ラーディンがアメリカとの対決に乗り出す際に発表した綱領的な宣言で掲げられた課題であり、アル=カーイダ諸派がビン・ラーディンのムジャーヒドとしての権威を認める以上無視できない問題である。諸派は、アメリカのトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの「首都」と認定して以来、(たいした実績は上がっていないが)「エルサレムはユダヤ化しない攻勢」と称する西側諸国の人員や権益を攻撃するキャンペーンを行ってきた。また、2021年5月7日以来のパレスチナ人民とイスラエルとの衝突について、「アラビア半島のアル=カーイダ」(AQAP)と「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」(AQIM)がこれを論評し、ムスリムに決起を呼びかける声明を発表した。アル=カーイダの広報部門であるサハーブ広報製作機構も、不定期に発信しているパンフレット『ナフィール』の最新号を発信した。AQAPの声明は5月8日付、AQIMの声明は5月12日付、『ナフィール』は5月13日付であり、近年のアル=カーイダ諸派の広報の動きの鈍さに鑑みると、今般の声明の発表が異例ともいえる速さである点が第一の注目点である。

 声明の発表が異例の早さだったこともあり、アル=カーイダ諸派が彼らにとっての重要問題で時折見せる、ほぼ共通の内容の声明の一斉発信という形をとっていない。そのため、両派の声明と『ナフィール』の内容は今般の衝突への着眼点や、攻撃対象として槍玉に挙がる対象が異なっている。AQAPは、「パレスチナの同胞たち」により広汎な対イスラエル蜂起を呼びかける一方、自分たちはイスラエルとの戦いに加わることができなくともイスラエルを保護するアメリカと戦争することができるという言い回しで「パレスチナの同胞たち」に団結を表明した。見逃すことができないのは、全ムスリムに対し聖地と同胞を支援するため、「アジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカで世界中のユダヤの大使館や権益を攻撃対象とすること」を呼びかけた点だ。これは、AQAPが直ちに自ら企画・実施する攻撃を引き起こす能力に乏しいことをさらす言辞である一方で、ユダヤの権益や大使館はそれこそ日本も含む世界中にたくさんあるため、論理的にはこの扇動に呼応する者は世界中のどこにでも現れうることになる。

 AQIMは、実施の目途が全く立たなくなったパレスチナでの選挙に言及しつつ、(選挙ではなく)ジハードこそが解放の唯一の道であることを強調した。そして、ガザからのロケット弾発射だけでなく、ヨルダン川西岸地区でナイフなどを用いた「個人の作戦」を実行することで、パレスチナ全体を蜂起の火で燃やすよう扇動した。AQIMの声明では、イスラエルを保護するアメリカを非難するというお決まりの表現と並んで、パレスチナ当局こそが勝利と解放の最初の障害物であると指摘したように、ムジャーヒドゥーンがイスラエルと闘うことを妨害するアラブ諸国の為政者の害悪を強調した。ただし、パレスチナ以外での決起の煽動は、「パレスチナの民が安全を享受できるまで、アメリカを筆頭とするアラブ・非アラブの敵どもが安全を享受することはない」とのビン・ラーディンの言葉を引用するおおざっぱなものだった。

 『ナフィール』の最新号は個々のムスリムのなすべきことを箇条書きで列挙し、「降伏提案(注:アラブ諸国とイスラエルとの関係正常化を指すと思われる)を拒否し、裏切り諸政府を打倒するまで不服従を続けること」、「世界中、特にアラブ・イスラーム共同体でアメリカ権益を攻撃すること」、「アメリカ・ユダヤ製品をボイコットすること」、「アメリカ人・ユダヤ人を殺すこと」、「ムジャーヒドゥーンを支援すること」を呼びかけた。こちらも、論理的には世界のどこでアメリカ権益への攻撃や、アメリカ人・ユダヤ人の殺害が起きた場合、アル=カーイダの戦果として取り込みが可能な表現ぶりとなっている。

 アル=カーイダ諸派の衰退に鑑みると、彼らの煽動を契機に反響の大きな作戦や攻撃が頻発する可能性は高くはないと思われる。その一方で、今般のパレスチナ人民とイスラエルとの衝突を契機・口実とするイスラーム過激派の言動に警戒を怠らず、「何にも起こりませんでした」という状態を保つ努力が不可欠である。