シリア:イドリブ県でのアル=カーイダ諸派間の抗争の意味

断食明けのイドリブ県の風景(写真:ロイター/アフロ)

 2020年6月後半、シリア北西部のイドリブ県を占拠するイスラーム過激派、特にアル=カーイダ諸派間の抗争が激化し、双方が相手方の幹部の拘束や検問所の奪取など戦闘を繰り返すようになった(直接の経緯や抗争の経過についてはこちら)。目下の情勢としては、「シャーム解放機構」(シリアにおけるアル=カーイダ。旧称「ヌスラ戦線」)から幹部や活動家の離脱が相次ぎ、それらの者が新たな連合体を結成してイドリブ県での制圧地を「シャーム解放機構」と争っている。なお、「シャーム解放機構」とは、元々は「イスラーム国」の前身の組織がシリア紛争で「反体制派」を偽装して国際的に資源を調達するために編成したフロント団体の「ヌスラ戦線」である。これが、「イスラーム国」の形成過程で同派とアル=カーイダとの勢力争い、「ヌスラ戦線」自身の生き残り戦術などの理由で、2016年に「ヌスラ戦線」がアル=カーイダからの「離脱」を宣言し、シリアの武装勢力諸派を制圧・解体・併合しつつ「シャーム解放機構」を形成するに至った(詳細はこちら)。

 「シャーム解放機構」は形成や活動の中で幾度も分裂や組織内の粛清を経験してきたが、代表的なものは同派がアル=カーイダから離脱したことをよしとしない活動家らが「宗教擁護者機構(フッラ―ス・ディーン)」を結成したことであろう。同派とは、「シャーム解放機構」との本格的な対立抗争を避けつつも緊張関係にあった。今般の抗争でも、「宗教擁護者機構」は「シャーム解放機構」から離脱した活動家らと共に「堅く持せよ作戦室」なる連合体を結成し、抗争の当事者となった。なお、当のアル=カーイダは、2020年6月24日付で総司令部名義で難解かつ婉曲な声明を発表し、「シャーム解放機構」の振る舞いを非難した。この声明には、アル=カーイダと競合する「イスラーム国」の週刊機関誌で、その論理の矛盾をこき下ろす論説が掲載される徒花も咲いた。

 一方、注目すべきなのは、イドリブ県を占拠するイスラーム過激派間の抗争という現象だけではない。重要なのは、この抗争に関わって様々な情報を発信した諸派に、外国起源のイスラーム過激派の組織や活動家が実に多いことだ。イドリブ県を占拠する諸派のうち、外国人のイスラーム過激派が重要な役割を果たしているのは、前述の「シャーム解放機構」、「宗教擁護者機構」に加え、中国の新疆/ウイグル起源の「トルキスタン・イスラーム党」が著名である。これらに加え、2005年にイラクで発生した日本人殺害事件の実行犯である「アンサール・イスラーム団」、この他「タウヒードとジハード団(ウズベク)」、「ムハージルーンとアンサール軍(カフカス)」、「シャーム・イスラーム(マグリブ)」、「(シャーム解放機構内の)半島出身者(アラビア半島)」、「タジク集団」、「イランからのスンナ派ムハージルーン運動」、「アルバニア人集団」、「モルジブ集団」などなど、多士済々の外国の集団が名を連ねている。

 これだけの外国起源の集団がイドリブ県にいるということは、彼らが今やイスラーム過激派のモデルでは達成する見込みのない「シリア革命」を標榜しつつ、実は助けてやっているはずのシリア人民からの搾取によって居場所や活動のために資源を得ていること、そして、諸外国から多数のイスラーム過激派組織・戦闘員・活動家らをシリアに送り出したり通過させたりしたということだ。また、諸派の活動のために、現在も海外から様々な資源がイドリブ県に送り込まれ続けている可能性についても考えるべきである。イドリブの情勢というと、シリア政府軍・ロシアなどによる攻撃と殺戮から住民をいかに保護するのか、という問題に関心が集まりがちである。その一方で、現在アル=カーイダ諸派の抗争が繰り広げられているのはトルコ軍が管理する地域であり、そのトルコが日本人の拉致・殺害に関与した団体も含む、イスラーム過激派諸派を放任しているというのも何とも面妖な現象である。