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<ガンバ大阪・定期便34>東口順昭が完全合流。「GKをもっと長くやっていきたいという覚悟が固まった」

高村美砂フリーランス・スポーツライター
1つ1つの動き、プレーを丁寧に確認しながら練習に取り組んだ。写真提供/ガンバ大阪

 6月5日に行われた公開練習の場に、右膝内側半月板損傷で長らく戦列を離れている東口順昭の姿があった。前回、4月20日の公開練習の際もスパイクも履いてトレーニングを行っていたものの、メディカルスタッフと別メニューでの調整だったが、この日は全てのトレーニングに参加。聞けば、1週間前に完全合流をしたばかりだという。

「いろいろとイレギュラーなアクシデントもあり、少し時間がかかってしまいました。個人的にはようやくシーズンが始まったという状況なので、ここからしっかりコンディションを上げて、チームに貢献できるようにしていきたいと思っています。ケガをした後というのは誰でも不安はあって当然ですが、トレーニングをしながらしっかり自分の体と向き合って、その不安を解消していけるようにしていきたいし、試合に出る時には100%の状態で臨めるように日々の練習からしっかり取り組んでいきたいと思っています」

 今シーズンのスタート直後から右膝の痛みに悩まされてきた。最初に違和感を覚えたのは、沖縄で行われたキャンプ中のこと。以前から古傷を抱えていたこともあり、また今回の痛みの大きさからして、そこまで長引くとは思っていなかったのだろう。本人も「焦らずに、だけど、開幕に間に合うように治します」と話していたが、開幕が近づいても、一向に快方に向かう気配がない。かといって、MRIなどの検査ではそこまで悪化が見られなかったことや、画像上は保存加療で良くなる可能性が高かったこと。また、本人の「膝の寿命、選手寿命を考慮して、できるだけメスは入れたくない」という考えもあって膝の状態を観察しながらのリハビリが続いた。

 そうした状況に区切りをつけたのは、3月上旬だ。「このまま治ってくれたら」という本人の願いも虚しく、症状に大きな変化がなかったため、東口は損傷した半月板を取り除く手術に踏み切った。

「それまでの経過も踏まえ、メスを入れないと治らないだろうという結論に至ったので、手術を決断しました。ただ、いざメスを入れてみたら、MRIで見るより半月板の損傷が激しく、実際、切除された半月板を見たら意外と大きくて…そりゃ痛いやろう! と。どうやら、画像には映らないところでそいつが悪さをしていたようです。なので、もっと早くに手術を決断していれば良かったなとも思いますが、今回は判別が難しいケガだったし、メスを入れるリスクを考えれば、自然に治る方がいいに決まっているので、致し方なかったのかな、と。ただ、いずれにしてもチームに迷惑をかけてしまったことには変わりはないので、それはこの先、ピッチでのプレー、パフォーマンスで取り返していきたいと思っています」

 その決断から約2ヶ月半。ピッチに戻った彼は今、改めてサッカーができる幸せを噛み締めながら、新たな『覚悟』とともに日々のトレーニングに向き合っていると話す。

「年齢も年齢なので、若い時の長期離脱とはまた違う不安もありましたけど、それ以上にもう一回、パワーアップして戻ろうというモチベーションが上回っていたし、それによって改めてサッカーができている幸せを感じられたことや、GKをもっと長くやっていきたいという覚悟が固まったのは良かったなと思っています。手術をして、元の膝ではなくなりましたけど、この先、プレーを続けていくことでいろんな不安も消えていくはずだし、試合に出始めて、また自分なりの間合いとか試合勘を掴めたら、さらに(不安が)なくなっていきそうな気もすごくしています。もっとも、プレーのスピード感やコンディションはまだまだ上げていかなければいけないし、この先もGKグループで切磋琢磨しながら、試合に出るチャンスが来た時にしっかり自分のパフォーマンスを発揮するための準備をしていこうと思っています」

 離脱中、外からチームの戦いを見る中で感じ取り、積み上げてきた力も、パフォーマンスに変えて。

「メンバー外になった選手はいつもゴール裏の上階に座るので、GK目線で試合を観ることができるんです。そういう意味では、離脱中も常に自分が試合に入った時のことをイメージしながらチームの戦いを見ていました。その中で同じGK陣のプレーはすごく刺激になったし、3選手とも、常にいい準備をし続けていることが試合のパフォーマンスに表れているなと感じたので、改めて僕自身もそういう姿勢でしっかりやっていかなければいけないと思いました。ここまでのチームの戦いを外から見ていて感じたのは、なかなか点が入らないことにはみんながフラストレーションを抱えているなということ。こうすれば点が獲れるといった成功体験みたいなものがまだまだ少ないから迷いが生まれている気もするし、そこから守備が崩れていくときもあるなと感じているので、その得点のところはこの中断期間でチームとしてもしっかりこだわって取り組んでいきたい。それによって点が獲れるようになっていけば、もっとチーム全体として思い切り良くプレーできるようになっていくんじゃないかと思っています。また僕自身も、カタさん(片野坂知宏監督)のサッカーの中で、シュートストップはもちろん、クロスボールへの対応、ビルドアップで攻撃の起点になるような動きは意識していきたいし、それをチームの勝利に直結させていくようなパフォーマンスを意識していきたいと思います」

 今回の離脱により、東口が18年5月の14節・横浜F・マリノス戦から足掛け4シーズンにわたって作り上げてきた偉業、リーグ最長の連続フルタイム出場記録は『109』で止まったが、ケガを通して改めて自身の体と向き合い、さまざまな取り組みを行うことで「フル稼働の中でやや崩れていた体のバランスも整って、よりパワーを出しやすい体になった」と本人。その胸には、先にも書いた新たな『覚悟』も備わった。さらに言えば、彼の離脱中、同じGKの石川慧、一森純、加藤大智らが次々とJ1リーグのピッチに立ち、それぞれに存在感を示してきた事実も、彼に改めて危機感を宿していることだろう。

 そんな新たなパワーを蓄えた東口の戦列復帰の日が近づいている。つまりそれは、我々がこれまで以上の驚きと心強さに胸躍らせる日が近づいているということでもある。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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