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<ガンバ大阪・定期便33>山見大登が打ち破った『1』の壁。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
昨年、特別指定選手ながら鮮烈なガンバデビューを果たした。 写真提供/ガンバ大阪

 本人も待ち望んでいた今シーズンの初ゴールは、J1リーグ14節・セレッソ大阪だ。33分、ゴール右、レアンドロ・ペレイラからのクロスボールをファーサイドであわせた。サッカー人生では初となる『ヘディング』でのゴールだった。この日は2トップの一角でスタートしていた中で、15分頃から左サイドMFにポジションを変えていたことも功を奏した。

「直近のルヴァンカップ・鹿島アントラーズ戦の後半で、サイドバックの背後を結構うまくとれていたからということもあり、FWで準備してきましたが、監督の指示で(中村)仁郎とポジションを変わりました。試合の流れ的にセレッソの松田陸選手や清武弘嗣選手にうちの左サイドを使われることが多かったので、そこをしっかりカバーしろということだったと思います。これまでのサッカー人生で、ヘディングで決めたことがなかったので、あのシーンもこぼれてきたらラッキーだなと思っていました。自分の形ではなかったですけどゴールはゴールなので、嬉しかったです」

 昨年、特別指定選手としてJ1リーグ5試合、ルヴァンカップ2試合に出場。デビュー戦となったJ1リーグ24節・清水エスパルス戦では決勝ゴールを決め、ルヴァンカップ準々決勝・第1戦でも『大阪ダービー』初ゴールを挙げて勝利に導くなど、インパクトを残した。それを受け、今シーズンのスタートにあたり、目標は『二桁ゴール』に設定。プロ1年目でありながら、2年目のように見られるシーズンになることも覚悟した上で、敢えて高いハードルを自らに課した。

「今年、チームメイトになった選手にも『清水戦で決めたよね』って言ってもらいましたし、あのゴールをきっかけにいろんな方に僕のプレーや特徴を知ってもらうことになったとは思います。その分、今年は特徴を知られた上でプレーする難しさは間違いなくあるとは思いますけど、それを超えるパフォーマンスを出せるように、と思い目標を二桁に設定しました。見方を変えれば、同じ1年目の選手の中ではチームメイトに特徴を知ってもらえているし、それによるやりやすさはアドバンージにもなるはずなので。また、去年のうちにJリーグのプレー強度というか、切り替えのスピードや球際の強度を肌で感じられたことも自分にとってはプラスだと思うので、これまで同様に周りに遠慮せず、ドリブルとか、シュートとか、自分の特徴をしっかり出すことを意識してプレーしたいと思っています」

 その決意とは裏腹に、序盤は苦しんだ。J1リーグでは開幕からメンバー入りを果たし、6節・名古屋グランパス戦では初先発を飾ったが、ゴールが遠い。この試合を機に先発の座を預かることが増え、必ずと言っていいほど1〜2つ、好機を迎えたが、枠を捉えられない試合が続いた。

「高校や大学なら、自分中心のチームでボールも集まってきていたし、自由にのびのびとプレーできていたけどプロになったらそうはいかないというか。経験もあって、能力の高い選手がたくさんいるガンバでは、どちらかというと脇役にまわる中で結果を残さなきゃいけないので。いや、自分が中心や! というくらいの気持ちでやらなくちゃいけないとは思うんですよ。でも、実際に何も結果を残せていない今は自分がそう思ったところで誰も認めてくれないですから。今はその難しさに直面しているというか…といっても、とにかく数字を残していくしか解決策はないんですけど、それがなかなか難しく、自分の中でいろんなギャップを埋めることに苦労してます(苦笑)。それにやっぱり、失うものがなかった学生時代と違って、プロは失うものがあるというか。応援してもらう、お金を払ってプレーを見てもらうことへの責任とか、プレッシャーも正直あります。昨年のプレーがあってか、僕のレプリカユニフォームも結構売れているそうで…そういうことからも期待はかなりしてもらっているなと感じるし、実際、スタンドで僕の背番号のタオルを掲げてくれる人、ユニフォームを着てくれている人を見かけると、嬉しいし、すげぇ! と思う反面、それに応えなアカンという思いも強くなりますしね。今は特にチームとしても勝てていない状況もあるので、余計にプレッシャーを感じている気もしますけど、これを乗り越えた先に自分が求める楽しいサッカーとか、僕自身も素直にサッカーを楽しめる瞬間があると思うので、やり続けるしかないと思っています」

 おそらくこのプレッシャーは、彼が生粋のガンバファンだったことにも起因する。豊中市出身で「小学4年生の頃から結構な数のガンバの試合を観に行っていた」と話す彼は、幼少の頃は両親に連れられて、また、高校生になると一人でホームスタジアムに足を運び、ゴール裏でサポーターとともに声を張り上げた経験を持つ。

「当時の選手のチャントはほとんど覚えています。劇的な勝利、ゴールももちろん記憶に残っているし、その時のサポーターの雰囲気とか、スタンド全体が盛り上がる感じもめちゃ覚えています。勝った試合の後は誰もが嬉しそうで、イキイキしている感じとか、逆に引き分けたり、負けた後に、どこかすっきりしない表情でスタジアムを後にする感じも、めっちゃ想像できます」

 そんな風に1つのプレーに湧く、勝利に歓喜するファン・サポーターの姿をつぶさにイメージできるからこそ、応援される立場になった今、勝利を掴めない事実やゴールでチームを助けられない自分が歯がゆかった。 

「僕の印象に強く刻まれているガンバは、強くて、点を取りまくるガンバ。きっとサポーターの皆さんもそれは同じだと思う。だからこそ、そういうガンバの姿を再び楽しんでもらえるように、自分も攻撃を加速させる一人になって点を取ること、ゴールに迫る姿を見せたいし、たとえ自分が点を取れなくても、皆さんに笑顔で帰ってもらえるように、勝利はマストだと思っています」

 そんな話を聞いたのは、J1リーグを7試合戦い終えた4月上旬のこと。先発の座を掴み始めた彼に、プレッシャーの上乗せはしたくないなと思いつつ「1つゴールが生まれれば…」と質問を投げかけようとしたら、かぶせ気味に、明るい声で返事が返ってきたのも印象に残っている。

「ゴール、欲しいです! 周りからもずっと1つ獲れれば、って言われています。言われなくても、欲しいに決まっているんですけど(笑)」

 おそらくは、敢えて明るく受け流すことで、のしかかるプレッシャーと戦っていたのだろう。そこに続いた言葉に、山見の葛藤が透けて見えた。

「だけど僕、基本、スロースターターなので。高校も大学も、最初からうまくいくことはなくて、でも1つ取れたらなんとなく走り出すという感じだったので。でもそのためには…もう少しサッカーを楽しまなきゃいけないなって思います。というのも僕、考えすぎると決まってうまくいかないんです。だから学生時代は敢えて戦術を理解しすぎないようにしていたこともありました(笑)。もっとも、プロになった今はさすがに戦術理解も必要だし、考えなきゃいけない部分もありますけど、でも、考えすぎて逆に難しくなっちゃっているところもある気がするので、もう少し楽に向き合うことも必要かなって思っています」

 そうした中で、ようやく挙げることができたJ1リーグ13試合目にしてのプロ初ゴール。スロースターだと話していた彼にとって、この『初』は思っていたより早かったのか、遅かったのか。

「いやぁ、遅かったです。ただ、そんなに簡単にいく世界ではないということも理解していたので。ここ最近は…というか今日のセレッソ戦もそうですけど、左サイドバックの圭介くん(黒川)とのコンビネーションから崩せることが増えていた中でチャンスも増えてきていたし、自分としては『(ゴールが)近いかな』と感じていたので決められて良かったです。まさかヘディングとは思っていなかったけど」

 最初の『1』を刻めたことで、背負い続けてきたプレッシャーは、少しは軽減されたのだろうか。

「特別指定選手として出場した去年がうまくいきすぎていた部分もあったとはいえ、プレッシャーはやっぱり感じていたし、でも深く考えずにやらないと、プレッシャーに食われてしまったらもっと悪くなるだけだと思っていたので、そこはうまく自分の中で切り替えてやれていた気がします。ただ今日も点を取れたのはよかったけどチームとしては勝てなかったし、個人的にも点を取った以外の部分には納得していないので。シュート数も含め相手に圧倒されてしまった感も強くて、まだまだやらなくちゃいけないという気持ちの方が強いです。今は離脱者が多いチーム状況もあってチームとしても個人としても守備に追われている時間が長いですけど、僕の特徴はやっぱり攻撃。守備をしながらも、攻撃で違いを出すくらいの選手にならないとガンバでスタメンを張り続けることはできないと思っているのでそれはもっともっと追求していかなきゃいけない。でもやっと1つ獲れたので、ここから乗っていけたらいいなって思います」

 一サポーターだった時代の記憶として、山見が今も鮮明に覚えているのは、18年のJ1リーグ21節・FC東京戦でアデミウソンが決めたゴールだ。あの時、目の前のゴールネットを揺らした強烈な一撃は、パナソニックスタジアム吹田に渦巻いた熱狂や体を駆け抜けた痺れるような興奮とセットで、今もプロになった彼を突き動かす原動力になっている。

「アデミウソン選手のゴールが決まった瞬間、スタンドがめっちゃどよめいて、テンションが上がりまくったのを今でも覚えていますし、プロになった今は、ああいうシーンを作れる選手になりたいなって思います。去年のプレーを見てくれたせいか今年に入ってから…例えば自分がボールを持ったときにどことなくスタンドからの期待が伝わってくるんです。特にガンバサポーターがいるゴール裏に向かって攻めているときは、否が応でもサポーターの皆さんの姿が視界に入ってくるし、僕が倒されたりすると相手に圧をかけてくれるというか…そんな過保護じゃなくてもいいんですけど(笑)、でも嬉しいなって思います。そうした思いに僕が応える方法はやっぱりゴールであり、勝利に貢献することだと思うので。できるだけたくさんパナスタでゴールを挙げて…ってか、僕はまだ一度もホームで決められてないので、ガンバの選手としてパナスタでゴールを決めて、東京戦のようなスタジアムの雰囲気を作れたらいいなと思っています」

 明日のサンフレッチェ広島戦はそのホーム、パナソニックスタジアム吹田で開催される。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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