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<ガンバ大阪・定期便29>山本悠樹と奥野耕平が示した輝き。ガンバのボランチ争いが面白い。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
アウェイ・大分戦に続きキャプテンマークを巻いた山本悠樹。写真提供/ガンバ大阪

 思えば、J1リーグ開幕戦から、片野坂知宏監督は『ボランチ』の組み合わせを変更しながら戦いを進めてきた。事実、倉田秋とチュ・セジョンが組んだ試合もあれば、倉田と齊藤未月、齊藤と奥野耕平がダブルボランチを形成した試合もある。ルヴァンカップでも山本悠樹と奥野、齊藤と山本、齊藤と奥野と、様々な組み合わせで臨み、結果を求めてきた。もちろん、これは対戦相手のプレースタイルや、同じピッチに立つ他の選手とのバランス、更に言えば『連戦』も考慮してのことで、一概にボランチのことだけを考えた組み合わせではない。だが、なかなか勝利が引き寄せられなかった序盤の流れも受けて、模索が続いていたのは事実だろう。

 その『ボランチ』競争にやや変化が生まれたのは、J1リーグ・6節の名古屋グランパス戦以降だ。この試合では、初めて新外国籍選手のダワンが先発を飾り、齊藤とダブルボランチを形成。彼らが中盤で示した強度の高いプレーはチーム全体の攻守にバランスと安定感をもたらし、かつ、それが今シーズン2勝目という結果に繋がったこともあってだろう。続く京都サンガF.C.戦も、清水エスパルス戦も、彼らが続けて先発の座を預かった。つまり、3試合続けて同じ二人がボランチを預かったのは『片野坂ガンバ』では初めてのこと。この状況にポジション争いを繰り広げてきた選手たちの気持ちがザワつかないはずはなく、だからこそ、4月13日に行われたルヴァンカップ・大分トリニータ戦でスタメンに名を連ねた山本と奥野がどんなパフォーマンスを示すのかに注目していた。試合前に二人から、この試合に向けた話を聞いていたのもある。

「もちろん試合に出たいと常々思っているので、現状に思うことはあります。でも、だからと言って自分がやるべきことは変わらないというか。もちろん、求められていることをやらないといけないとは思っていますけど、そればかりになって自分の良さを消してしまうのも良くないとも思う。リスクを恐れずに前に運べるのは自分の良さ。チームとしてもこの先、暑くなっていく中で走るだけのサッカーでは厳しくなっていくと考えれば、自分たちがボールを保持して意図的に押し込めるサッカーをもう少しやっていかないといけないんじゃないか、と個人的には思っているので、その部分で自分の特徴をうまく絡められたらいいなと思っています。プラス、結果ですね。去年より今年は感触がいいというか…1つ前のポジションで出た時は特に自分のプレーがゴールに近づいているような感覚もあり、いつでも点が取れそうというか…大学時代に近い感覚もある。もともと僕は点を取ってきた選手なので、明日の試合はそういうところにもこだわって…自分のプレーにもう少し個人の結果がついてきたらいいなと思っています(山本)」

「今の状況にはそりゃあ、焦ります。焦りますけど…でも今の自分にできる100%で戦うしかないと思っているので。急に僕が京都戦のダワンみたいなシュートを決められるかといえば、すぐには難しいですしね。でも、自分には自分の良さがあるし、自分だからできることもあると思っているので。チームとしての役割は徹底しながらも、自分らしさでアピールすることはブレずに続けたいし、プラスアルファでプレーの幅を広げるとか、他の選手のいいところを吸収するとか、リスペクトはするけど、リスペクトしすぎずに自分を成長させていくしかない。そこは近道はせずにやっていくしかないし、何より試合に出た時に、自分もしっかりチームのプラスになれるんだということを証明していくしかないと思っています(奥野)」

 結論から言って、大分戦は彼らの胸の内がプレーで表現された試合になった。ダブルボランチの距離感、攻撃と守備の関係性もよく、かつ、それぞれが攻守においてインテンシティの高いプレーで中盤を攻略し、流れを引き寄せる。二人が揃って口にしていた「自分の良さ」が十分に感じられたのも目を惹いた部分だ。奥野であれば、気の利いたポジショニングで相手の攻撃の芽を確実に摘み取りながらテンポよくボールを散らし、攻撃の起点に。後半、チーム全体の運動量がやや落ちた時間帯も、広範囲にわたって走り続けた。

「攻守にチームとして強度の高いパフォーマンスを示せたし、先制できた流れも追い風となって、チームとして求められているプレーを90分を通してやれた試合だったと思う。ダワンと未月くん(齊藤)以上のものを見せないといけないということを自分に求めていたし、チームにプラスになる仕事をしようと思っていて、それをスタートからパワーを出して90分やり抜けたのは良かったです。今日は普段、あまり試合に出ていないメンバーが先発した中で、それぞれの負けん気の強さが出たというか…お互いにそれを口に出さずとも、やってやるぞっていう気持ちがそのままプレーで表現されていた。ただ大事なのは1試合できたからOKではなく、これを毎試合続けることだと思っています(奥野)」

黒子ながら、中盤で精力的にハードワークを続けた奥野耕平。写真提供/ガンバ大阪
黒子ながら、中盤で精力的にハードワークを続けた奥野耕平。写真提供/ガンバ大阪

 一方の山本はといえば、試合前に話していた『攻撃』で存在感を発揮。前線とのつなぎ役になりながら攻撃にリズムをもたらすと、58分にはフリーキックで佐藤瑶大のプロ初ゴールを演出した。

「ファーサイドに瑶大(佐藤)とギョンウォン(クォン)がいたのでどちらかが触れたらいいなと思って蹴りました。その前に何度か瑶太に合わせていたんですけど…もっと言えば、練習でも散々瑶大に合わせてボールを蹴ってきたんですけど、いつも決めてくれへんし(笑)、今日もその前にあったチャンスも決まらなかったから、実は『(瑶大は)もういいかな』と思って蹴ったんです。そしたら珍しく決まりました(山本)」

 普段から仲のいい後輩に向けて、愛情たっぷりの皮肉を言って笑顔を見せる。取材をしている最中にちょうど隣で囲み取材が始まった佐藤が視界に入ると「今日は珍しく決めたので、あいつにも聞いてやってください」とここでも『アシスト』を受けた。

「そうなんです。練習からずっと悠樹くんからいいボールがきていたし、あとは決めるだけだとみんなに言われていて…いや、悠樹くんには『もう、お前には(ボールを)あげへん』って言われてて、でも『お願いします!』って頼んであげてもらっていたので、決められてよかったです(笑)(佐藤)」

 更に、山本がよりゴールに肉薄したのは、ポジションを1つ前に変えた68分以降の時間帯だ。実際、72分には藤春廣輝から低い弾道のクロスボールを受けて絶好のシュートチャンスを迎えたが、右足でのシュートは相手GKのファインセーブにはじき出され、こぼれ球も押し込むことはできなかった。

「セジョン(チュ)が入ってポジションが1つ前になり…あそこでプレーするのは好きなので楽しかったんですけど、いやぁ、決めたかった。点を取れる予感はあってんけどなぁ(笑)。決めたかったです(山本)」

 そしてもう1つ、この日の彼に見られた変化が「走力」だろう。知っての通り、山本はもともとのプレースタイル的に走力で勝負するタイプの選手ではない。だが、この日は「自分のプレーを押し付けるばかりではなく求められていることをやらないといけない」という意識もあってか、ピッチには献身的に走る、闘う彼の姿が。そのことについて尋ねると「敢えて自分に課していた」と明かしてくれた。

「試合前に、海外のサッカーをずっと見ていたんですけど、やっぱりみんなめっちゃ走っているんです。基本的に、みんな、です。それを見て改めて自分も走らなアカンな、と。どちらかというと僕は走るにしても地味に走るのが好きで…それも大事だと思っているんですけど、目立って走る、誰かの目に留まるくらい走ることも今の自分には大事よなって思って、今日はそれを自分に課していました。と言っても、ただ走るだけでは自分の良さは出せないので、攻撃に入った時には毎回自分に『攻撃の質は落とすな』と言い聞かせていました。そういう意味でもあのシュートシーンは…あそこに走れた過程まではよかったんですけど…とりあえずゴールはお預けということで、J1リーグに余力を残したということにしておきます(笑)」

 もっとも、先の奥野の言葉にもあったように、大事なのは大分戦で示したパフォーマンスと結果を、今後も継続させていくことにある。敢えて厳しいことを言うならば、今回の相手はあくまでJ2リーグに所属する大分トリニータだ。大事なのは今後、彼らがJ1クラブを相手にしても同じように輝きを示せるか。いや、輝き続けられるか。この日は途中出場になったセジョンも短い時間ながらハードワークが目立ったし、冒頭に書いた通りダワン、齊藤もJ1リーグで好パフォーマンスを続けているからこそ尚更だ。

「次は、J1リーグで頑張ります」

 取材の最後に短いながら語った山本の言葉も、きっとその決意を示すものだろう。

「人生初」ガンバクラップで先頭に立ち、音頭をとった。写真提供/ガンバ大阪
「人生初」ガンバクラップで先頭に立ち、音頭をとった。写真提供/ガンバ大阪

 …と、ここで話を終えたいところだが、せっかくなので山本が初めて先頭に立った『ガンバクラップ』についての裏話を、少々。

 今回、ホームゲームで初めてキャプテンマークを巻いた山本は、88分にベンチに下がってからもずっと落ち着かなかったという。

「ホームで勝ったら? 俺? クラップやるんか? って、交代してからはずっとそれを考えていました(笑)」

 試合が2-0で締めくくられ、いざホームサポーターの前に立っても、緊張は解けなかった。

「あんまり緊張とかするタイプじゃないのに、あれ? やり方、どうやった? どのタイミングやった? って焦りまくり(笑)。でも…これは今日に限らずですけど、ガンバクラップって『僕らはこうやって応援してくれる人たちが喜んでいる光景を見るためにサッカーをしているんやな』って感じる瞬間なので。気持ちを燃やし、自分を昂らせてくれるものというか…それをプロ3年目で、ルヴァンといえどもこのチームの先頭でやらせてもらってすごく光栄だったし、ここからまた頑張ろうって思いました」

 兎にも角にも、ガンバのボランチ争いが面白くなってきた。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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