Yahoo!ニュース

<ガンバ大阪・定期便20>パトリック、めっちゃいい。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
自身2度目のハットトリックでJ1残留を確定させた。 写真提供/ガンバ大阪

 勝利に導く『ハットトリック』に、笑顔がはじけた。

「前半、めっちゃ難しい1−2。ハーフタイム、交代、3センターバック。みんないい集中。チャンス、私2点取った。めっちゃいい。」

 試合後のヒーローインタビューでは、溢れる気持ちを抑えきれず、短い日本語で思いを伝えた。その一つ一つの単語が的確に試合の展開を表していた。

 勝てば『J1残留』を確定できる状況で迎えた11月7日の大分トリニータ戦は、前半から相手にボールを握られる苦しい時間が続いた。前節・横浜F・マリノス戦のようにセカンドボールを回収することもできず、リズムを引き寄せられない。先制された直後には、パトリックのゴールですぐさま振り出しに戻したものの、39分にまたしても失点。システムのミスマッチによって生まれたギャップを大分に使われ、再三にわたって攻め立てられた。

 その状況に動いたのは松波正信監督だ。

「ピッチ内に混乱が多かったので、はっきりとマンツーマン気味にし、守備の構築をした上で攻撃にパワーをかけられるようになればゲームをコントロールできるんじゃないかと考えました(松波監督)」

 1-2で折り返した後半。ケガから復帰し、約2か月ぶりにベンチ入りした昌子源を予定より早くスタートから起用し、システムを3バックに変更すると、徐々に流れを掴み返していく。その中で、53分という早い時間帯に同点に追いつけたこともチームを勢いづけたのだろう。より前線への意欲を強めたガンバは、84分に山見大登がドリブルでの仕掛けから相手のファウルを誘いPKのチャンスを掴む。キッカーに立ったパトリックは、32節・浦和レッズ戦で勝ち点1を引き寄せるPKを決めた時とは逆の、ゴール右下に決めて勝ち越しに成功した。

 パトリックにとってはJ1リーグでの2度目のハットトリックだった。

「前半はなかなかサッカーをさせてもらえずに難しい状況が続きましたが、みんなの粘りのおかげで結果につながった。個人的にも長い間、1試合で3得点を決めることができていなかったのですごく嬉しい。ハットトリックを決めたボールは息子への、プレゼント。めちゃ嬉しい」

 J1リーグでの初めてのハットトリックはガンバに加入した14年、9月に戦ったサガン鳥栖戦。上位を争っていたチームの勢いにも乗ってハットトリックを実現したが、今回は違う。残留争いに巻き込まれている状況下、チームを残留に導くハットトリックになった。

「14年とは違い、今回のハットトリックはすごく大きな意味を持つものだったと思います。今日は残留争いをしているチーム同士の直接対決で、『勝利』に特別な意味を持つ試合でしたが、その戦いでハットトリックを達成することができ、勝利に繋げることができました。ただチームが勝てたのはみんなのプレー、粘りがあってこそ。そのおかげで僕も点を取れた。みんなの力だと思っています」

 事実、「みんなの力」だと思えばこそ、ハットトリック達成につながる3点目のPKのシーンでは、譲ることも考えていたと明かす。

「誰がPKを蹴るのか、特に(事前に)話していたわけではなかったですが、あの時点で僕もすでに2点を取っていて、PKも決める自信があったので、自らボールを持ち、自信を持ってあのPKに臨みました。ただ、山見選手も後半途中から出場して、PKを獲得したシーンを含めて素晴らしいプレーでチームの勝利に貢献してくれていたので、もしもあのタイミングで彼から『蹴らせて欲しい』と言われていたら、もちろん譲るつもりでした」

 年齢、キャリア、国籍に関係なく、ともに戦う『仲間』に対して心から信頼を寄せる彼らしい言葉だった。

「大事なのは自分の記録ではなく、チームの勝利」

 この日も、そしてこれまでも、常にそこを第一に求めてきた。

 正直、彼は、ガンバの歴史において得点王に輝いてきた歴代外国籍FWのような、輝かしいキャリアを築いてきたわけではないし、いかにもブラジル人らしい足元のテクニックを備えているタイプでもない。ガンバへの加入に際しては「ガンバの歴史に名前を刻めるFWになりたい」と意気込んだが、在籍した7シーズンにおいて『得点王』の称号を手にしたこともないし、J1リーグで『二桁』得点を刻んだのも今年が2度目だ。

 それでも、彼が長きにわたって『不可欠な存在』と信頼を寄せられてきたのは、目を見張るチームへの献身性と、ここぞの場面で『記憶に残るゴール』を挙げてきたから。

「自分のサッカー人生において特別で、一番愛しているチーム」

 繰り返し語ってきたガンバ愛を胸にゴールを目指すだけではなく、チームのために競り、体を張り、走り、戦う。どんな逆境に直面しても最後まで諦めずにゴール、勝利を目指し続ける。もちろん、練習でも決して手を抜かない。

「どんなチーム状況の時にも真摯にトレーニングに向き合う。それが僕の仕事」

 その愚直さこそが、パトリックの『強み』であり、彼なりの「ガンバの歴史に名を刻む」方法なのだろう。だから彼は34歳になった今もガンバFWを預かっている。

「僕のガンバでの物語はまだ完結していません。17年夏に一度、ガンバを離れらなければいけない状況になった時もそれが心残りでした。ですが僕は再び、ガンバに戻ってきました。ガンバでの物語のラストを飾るにふさわしい、『タイトル』を掴むチャンスをもらいました。ガンバには、仲間とともに掴んだあの美しい栄冠を取り戻せる力があると信じています。だから、この先も僕はガンバの勝利のために、自分の役割に徹して戦い続けたいと思います」

J1残留を確定させた『ハットトリック』にかつての言葉が蘇った。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

高村美砂の最近の記事