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<GAMBA CHOICE 12>守護神・東口順昭が心を注ぐ「一戦必勝」。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
プロ13年目。際立つセービングで存在感を示す。 写真提供/ガンバ大阪

 チームで唯一、J1リーグフル出場で体を張り続けている守護神・東口順昭は、過去にも例を見ない厳しい『連戦』も厭わず、戦い続ける覚悟を口にする。

「チーム状況もありますし、監督がストップをかけるまで僕自身は体が潰れるのも覚悟で、全ての試合を戦っていきたいと思っています」

 19、20年と実現してきたJ1リーグフル出場への欲も全く色あせていない。個人の記録を伸ばすためではない。「チームの失点の確率を少しでも減らして勝利をつかみ取るため」だ。その思いは今シーズンも繰り返しピッチで展開される気迫のこもったセービングが証明している。

 もっとも、こうも休まず試合が続けば体だけではなく、メンタルや思考の部分の消耗はあって当然だ。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)から続く『バブル』を形成した生活は、かれこれ1か月強。その間、長距離移動もしながら、休むことなく2〜3日おきに公式戦を戦い続けている毎日は、百戦錬磨の東口をもってしても初めて体験する厳しさで、これまでにない感覚に襲われることもあると話す。『体』については、ホテルの自室でアイスバスや様々な機械を使い、疲労を最小限にとどめながら次の試合に向かうといった工夫を出来ても、『思考』を切り替えるのは決して簡単ではない。

「今は特にバブルでの時間が続いている分、自分一人の時間がすごく長いですからね。ケアを含めていつも以上に自分の体とは向き合うことができていますが、逆に、考え込んでしまう時間もすごく増えてしまうというか。考えすぎて、逆に頭が重くなってしまったり、試合を振り返るにしても『もっとこうすればよかったな』といつも以上に考えてしまうことも増えてしまっていて、普段とはぜんぜん違う向き合い方になっているところはあります」

 それでも、勝利という結果を掴めれば、特に『思考』にのしかかる負担は軽減されるはずだが、敗戦を喫すればそうはいかない。むしろ、体の疲労も、メンタル的な負担も、何倍もの大きさになってのしかかり、自身を苦しめる。特に今は、練習や試合のピッチに立っている時間以外は、ほぼ一人で過ごしている環境下に置かれているだけに、気持ちをリフレッシュさせるのも簡単ではない。

 もっとも、そうは言っても試合は待ってくれない。しかも、今節の大分トリニータ戦を終えれば、アウェイでの2連戦。移動もある上に、相手は時間をかけてガンバ戦に向けた準備をして臨んでくると考えれば、より難しい戦いになるのは必至だ。だが、東口は敢えて先を見ず、『一戦必勝』で大分戦に心を注ぐ。

「ACLから戻ってからの『15連戦』という数字を見てしまうと、どうしても目の前の試合を『長い戦いの1つ』としてみてしまう。でもそうじゃなくて、大事なのはやっぱり目の前の試合に対して、どれだけ強い気持ちで戦えるか。正直、今のJ1リーグはどのチームも力に差はない中で、そういった『一戦必勝』の気持ちを持って戦えているチームが先手を取れている試合も多いように思う。だからこそ、この連戦にあっても、まずは『一戦必勝』で、目の前の1試合を全力で戦う、勝つことに気持ちを注がなければいけないと思っているし、ピッチに立つ11人はまず、そういう気持ちを持って相手に挑んでいかなければいけないと思っています。次の大分トリニータ戦は、現実的に下位で争っている相手との対戦。自分たちが置かれている状況を考えても勝ち点3を獲らなければいけないということは誰もが重々理解していますし、すごく緊張感のある試合になると思いますが今、自分たちが出せる力を全て出し切るくらいのつもりで臨み、全員で相手にぶつかっていきたい」

 そのために、自身も体と思考の両方で最善の準備をし、『無失点』への執着を胸にゴールマウスに立つ。ただ、ひたすらに大分戦での勝利を目指して、だ。そういえば、前節・鹿島アントラーズ戦のハーフタイムには、ガンバのダイヤモンドパートナーであるロート製薬『デ・オウ』のパロディCMが流れ、ピッチとは違う『神セーブ』が話題になった東口。同CMのキャッチフレーズになっていた『やっぱりヒガ神』というワードに負けない唯一無二の存在感は、きっと今節もピッチで輝く。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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