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<GAMBA CHOICE 9>アジア制覇を経験した倉田秋、昌子源が語るACL。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
強烈な日差しのもと、初戦に向けて一丸となって調整を続ける。 写真提供/ガンバ大阪

 ウズベキスタンに入ってから、3日目。日々、強烈な日差しにさらされていることがわかる日焼けした顔で、選手が取材に応じてくれた。倉田秋と昌子源だ。

 国内とは違う環境に身を置くことで受ける刺激もたくさんあるのだろう。二人とも充実した表情で現地に到着後のチームの雰囲気を言葉に変えた。

「僕もセントラル開催は初めてですがポジティブなことの方が多い気がします。集中してこの大会に臨めるのと、移動してその都度、その国の環境に慣れていかなきゃいけないということもないので。チームの雰囲気もめちゃめちゃいいです。食事の時も一人ひとり個別に、という感じではなく少しだけ近くに座れるので、会話もできますしね。国内では(緊急事態宣言下で)できなかったことがこちらに来てからはできています。食事内容も、日本からお米を持ってきてもらっていますし、現地のご飯も…ラム肉は少し臭いが苦手なので食べられなかったけど(笑)、鶏肉、牛肉、ペンネパスタなど、食べやすいメニューばかりで問題ないです。ホテルからは出られないけど、もともと過去のACLでもそんなに外出するタイプじゃなかったので全くストレスもない。練習もグラウンドの状態はそこまで良くないというか、日本の公園のようにボコボコしていてボールがまっすぐ走らないとか跳ねたりする感じはあるけど、逆にそれをみんなで楽しんでやっているところはあります。強いて言えば大変なのは日差しくらい…太陽の方を見たらビブスを着ている人さえわからないくらい日差しが強いので、日焼け止めは必須です(笑)。ここに来て3日目ですがチームの士気も上がっています。連戦でほぼ全員が試合に出場しなければいけない状況もあって、チーム力が問われる戦いになることを全員が理解しながら、いい練習も出来ています。全員と意思統一も図れているのでいい戦いができるんじゃないかと思っています。個人的には17年以来のAFCチャンピオンズリーグ(以下ACL)で現地に入ってからより気持ちの昂りは感じています。どのクラブにも経験できることではないですし、こういう舞台を勝ち上がっていけばよりチームとしても、自分自身もブラッシュアップされる部分もあるはずなので、この時間をしっかりといい経験にして日本に帰りたいと思っています。(倉田)」

「コンディション的なことを言うと、僕自身は日本代表で2試合出してもらったので、そこまで落ちてはいないですが、ガンバで天皇杯に出ていなかった選手の方が試合間隔が少し空いてしまっているのでコンディションをしっかり上げていく必要があるんじゃないかと思っています。過去、ACLに何度か出場した経験から感じているのは、Jリーグの合間に移動をしてホーム&アウェイで試合をしていた時よりも、セントラル開催の方が移動は少なくて済むといった利点はあるのかなと。ただ僕も含めてほとんどの選手がこの大会形式でACLを戦うのは初めてですからね。だからこその難しさはあるはずだし、全員が集中して臨まないと目先の目標であるグループリーグ突破を達成することはできないとも思いますが、今はそのことに気持ちを集中して、みんなすごくモチベーション高くやれています。環境については、個人的にウズベキスタンは初めてですけど、中東の国のイメージは少なからずあって『日本に比べたら環境面では少し劣るかな』とイメージしていたんですけど、いざ到着してみたらホテルの環境や食事も含めて、ほぼノンストレスです。強いて言えばWi-Fiが弱いくらいかな。食事会場も…大きさもあってだと思いますけど、4人席みたいな感じで少なからず日本にいた時よりコミュニケーションを取りながら食事ができるので助かります。日差しはだいぶキツいですが、19時を過ぎて日が落ちるとちょっと風も出てきて肌寒くなるので。21時キックオフの試合なら暑さは大丈夫だと思いますけど、19時からの試合の時は前半くらいまでは日が照っているはずなので、それに応じた戦い方を意識することも大事になってくるなと思っています。あと、日本は湿気があるけどこっちはほぼないですからね。声を出していると喉の奥から痛くなる気がするので、そういうことにも慣れつつ、声を出すのも…日本なら90分間、叫ぼうと思ってもできるけどこっちではそれが無理だと思うので、大事な時に大事な声を出すとかってことも自分の中で考えながらやっていきたいです(昌子)」

 グループステージを勝ち上がるために、二人がキーに挙げたのは、タンピネス・ローバース(シンガポール)との『初戦』だ。6月22日には日本勢の先陣を切って名古屋グランパスがACL初戦を戦い、勝利をおさめたが、二人とも『初戦』をいい形で入ることで勢いづきたいと声を揃える。

「タンピナスについてのミーティングはこれからなので、詳しくはまだ話せませんが、ACLでは毎回、日本にはいないタイプの選手がいるというか、予想できない動きをする選手も多いので、そこにしっかりと対応していきたいのと、あとはこの暑さとピッチコンディションを90分間うまくコントロールして試合を進めていければと思っています。名古屋さんも初戦をしっかり1-0で勝ってスタートしましたけど、松波さん(正信/監督)も言っていた通り、僕たちも初戦をしっかり勝てれば勢いがついて、いい雰囲気で予選リーグを戦えると思うので、まずは初戦を…内容というより勝ちにこだわって戦っていきたい。相手も相当気持ちを入れて戦ってくるはずなのでどの試合も簡単ではないと思いますが、そういう相手に気持ちの部分や1対1の部分でしっかりと上回ること。その上で、初戦のタンピナスに勝って流れに乗ることが大事だと思うので、まずはそこだけに集中して試合に入りたいと思っています(倉田)」

「ACLに限らず、グループリーグやトーナメントは初戦が本当に大事。そういう意味では名古屋さんがJクラブの先陣を切って素晴らしい結果を出してくれたことに勇気をもらったというか。一緒にACLに参戦しているJクラブは、普段ならライバルチームですけどACLでは、決勝トーナメントで対戦するまで、良き仲間であり、お互いを高めあって励ましあってやっていく同じ日本のチームですから。そういう意味では22日の試合で名古屋さんが勝ってくれたのは…試合は観れていないですが、結果を知って、1-0という結果も名古屋さんらしいなと感じたし、その結果に元気をもらいました。あとは、それを継続していくのが僕らの仕事だと思っています。初戦を勝つのと、引き分けとか負けでスタートするのでは全然違う。勝つことは(同じリーグの)他のチームへのプレッシャーにもなりますしね。ACLはどこもあまり情報がない中で試合を戦うからこそ、初戦の印象は相手にも大きく残るというか。例えば、その試合で、相手がなかなか攻められず、うちがずっとゲームを支配するような展開になれば、相手が思うガンバに対するイメージもすごく嫌なものになるはずだし、僕らとの2度目の対戦時にメンタル的に有利に働くこともあると思う。また他のチームもガンバの初戦のスカウティングはするはずで…そこで僕らが示す戦い次第では、対戦前に相手にプレッシャーを与えられることにも繋がっていく。そういったことを踏まえても、いろんな要素が含まれる初戦なので、しっかり勝つことだけを意識してやっていきたい(昌子)」

 思えば、倉田は08年にガンバで、昌子は18年に鹿島アントラーズで、ACL制覇を経験している。つまりは優勝に向かってチームがどういった雰囲気を漂わせ、結束を強くしていけばいいのか、イメージできるものがあるはずだ。「まずはグループステージ突破を目指す(松波監督)」ことが近い目標になる中でそれを実現し、決勝トーナメントを勝ち進んでいくには何が必要なのか。倉田が第一に挙げたのは「楽しむこと」だ。

08年は僕も1年目で、たくさん試合に絡めたわけではなかったし、正直、細かいことはあまり覚えていないですけど、ただ、みんながこの大会を楽しんでいたな、という印象はあります。少々環境が悪くても、常にポジティブに、前向きに取り組んでいたし、その部分は今回も大事になってくる。今のところはその空気感はしっかりと漂っているので、これで試合に勝っていけばさらに雰囲気は良くなっていくはず。だからこそ、しっかり勝ちにいきたい(倉田)」

 08年のACLでは初戦のチョンブリFC(タイ)戦に始まって、チョンナムFC(韓国)、メルボルン・ビクトリー(オーストラリア)とのグループステージを無敗で勝ち上がり、決勝トーナメントでも準々決勝、アル・カラマ(シリア)戦、準決勝、浦和レッズ戦、そして決勝のアデレード・ユナイテッド(オーストラリア)戦を征して頂点に立ったガンバ。Jリーグを並行して戦いながらの過密日程で、移動距離を含めて過酷な戦いを強いられた印象が強い。

 例えば、アウェイでのアル・カラマ戦は約18時間をかけた長旅に始まり、試合がラマダン(断食)明けの時間帯に開催されたことで、空腹が満たされたアル・カラマサポーターはキックオフ前から興奮状態に。スタジアムに入るガンババスに向かって奇声をあげたり、スコアを指で示して威圧したり、と異様なムードが漂っていたものだ。

 だが、倉田の言う通り、そうした状況にもチームが気持ちを揺らすことはなく、むしろ楽しんでいる感さえ漂わせながら、逞しく戦い抜き、逆転勝ちを演じてみせた。しかも決勝点を挙げてヒーローになったのは、67分から途中出場でピッチに立った山崎雅人。まさに、厳しい戦いを全員で一丸となって乗り切り、『結果』を掴み取った。

 そうした『チーム力』は、今回、昌子も強調することの1つ。18年のアジア制覇に大きく影響したと話す、柏レイソル戦のエピソードが印象的だ。

 当時、鹿島は11月3日に決勝・第1戦・ペルセポリス(イラン)戦をホームで戦った後、3日後の6日にJ1リーグ32節の柏レイソル戦を戦い、10日にアウェイの地でペルセポリスとの第2戦を迎えるというハードスケジュールを強いられていた。そのため柏レイソル戦は大きくメンバーを入れ替えて臨んだ鹿島だったが、結果は2-3で勝利をおさめる。先制し、一度は逆転を許しながらも再度追いついて突き放した、見事な逆転勝利だった。

「その試合を僕もベンチから見ていて…チームとして誰が出ても絶対に勝つんだ、という勢いとか、ペルセポリスとの1戦目に勝利した雰囲気を壊さずにアウェイ戦に乗り込めたのは非常に大きく、結果的にACLで優勝できたのも、あの柏戦が要因の1つだったと思っています。柏戦は、若い選手に混ざって小笠原満男さんや永木亮太さんら経験のある選手も何人か出場していて…経験のある選手がどっしりと構えて、若い選手をのびのびプレーさせていたというか、百戦錬磨の選手だからこその存在感を示していた印象もあり、それによって改めてキャリアのある選手たちのすごさ、素晴らしさを学んだのも覚えています。そのことを思い返しても…今回のACLはセントラル開催の連戦で、間違いなくピッチに立つ11人で試合を乗り切るのは絶対に無理だと考えても、ここにいるメンバー全員がどの試合に向けても全力で準備する姿勢が大事になってくる。試合に出る、出ないに関係なく、全員がしっかりとチームが勝つために準備をし、その中でピッチに立った11人は全員を代表してピッチに立つ責任をプレーに変え、出ていない選手は出ている選手をいかにサポートして、パワーを送れるか。そういった姿勢、チーム力はACLを勝ち上がっていく上で不可欠だと思っています(昌子)」

 いよいよガンバにとっては4年ぶり、ACLの戦いが幕をあける。今年からはJリーグファンにも馴染みの深いDAZNでの試合中継が決まり、より多くのサッカーファンが今大会を楽しむことが予想される。チームを束ねる松波監督も、その心強さを胸にACLでの指揮に立つ。

「今回、いろんな方の力の尽力もあってDAZNで試合を放送していただけることになった。その力をお借りして、我々も遠く離れた日本から応援してくれている人がいるということをより強く意識しながら、戦っていければと思っています。いろいろと厳しい規制の中での試合になりますが、その中でもそれぞれが自分のやれることに100%で取り組み、コロナ禍でもこうして大会が開催され、サッカーができるという喜びをしっかり胸に据えて、ガンバ大阪としてのプライドを持って臨みたい(松波監督)」

 ガンバの初陣は6月25日、日本時間の23時(現地時間19時)。ロコモティフスタジアムがその舞台となる。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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