<ガンバ大阪・定期便VOL.14>『TOGETHER as ONE』。

クラブスタッフが総出で作り上げた、思いを込めたコレオグラフィ。(筆者撮影)

 『別れ』は、いつも心のどこかに『痛み』を残す。たとえ、勝負の世界であろうとも。

「結果が出せなければ居場所をなくして当然だ」

「プロの世界に生きているのだから覚悟の上だろう」

 5月14日に発表された宮本恒靖前監督の解任に、厳しい声も聞こえてきたがある意味、それは当然だろう。どんなにたくさんの努力を積み重ね、心血を注いでも、求められる仕事を結果で表現できなければ、それがクラブの求める評価に値しないと判断されれば居場所を失う。ベテラン選手でも、経験の浅い若手選手でも。監督、スタッフでも、レジェンドでも。プロフェッショナルな世界に生きる人たち自身も、それを十分過ぎるほど理解して日々を過ごしている。

「結果を求められる世界なので当然の判断だと思っています」

 事実、小野忠史代表取締役社長が引導を渡した際も、宮本氏は多くを語らなかったと聞く。アカデミー出身選手として初めてプロとしてのキャリアを切り拓き、その後の現役生活でもガンバと深い関わりを持ってきたレジェンドに、クラブに対する特別な思い入れがなかったはずはないが、トップチームの監督に就任した時点で、いつかは必ず訪れる離別を覚悟していたのだろう。そして何より、この世界に生きる以上、『結果』にエクスキューズが通用しないということも。

「宮本さんには、昨日の今日でなかなかすぐにとはならないと思いますが、少しゆっくりされて頭を整理された上で、またガンバでということを思われた時にはいつでも連絡をくださいと伝えました(小野社長)」

監督としてだけではなく、クラブレジェンドに対して小野社長は感謝の気持ちを伝え、握手をして別れたと明かしている。その去り際に改めてプロの世界に生きてきた宮本氏らしい潔さを見る。

であっても、だ。

それがこの世界の常だと頭ではわかっていても別れにはやはり『痛み』が残る。去った人間だけではなく、残された人間にも。どんな結末であれ同じ時間を共有し、その日々にそれぞれの立場で全力で向き合ってきた事実に嘘はなく、それが心の奥底でいろんな感情を巻き起こし、チクチクと胸をつっつく。

「選手にも責任があるし、改めて自分たちの力のなさを痛感しています。すごく情けない気持ちにもなりました。ただ僕たちは立ち止まるわけにはいかない。この決断を無駄にしないためにも、シーズンをチームが一丸となって乗り越えていかなければいけないと感じました(東口順昭)」

「プロの世界ではチームの結果に対して真っ先に責任を担うのはほとんどの場合、監督になる。そのことを理解していながら、10試合で白星を1つしか挙げられなかったこと。自分自身もわずか1得点しか獲れなかったことがホンマに情けない。責任を感じるとともに、それをこの先もしっかりと担って戦っていかなアカンとも思う(宇佐美貴史)」

「監督交代は本来ならあってはならないというか、できることなら経験したくない出来事。この結果に対して自分にも『もう少しできたことがあったんじゃないか』とも感じていますが、クラブがこの決断をした以上、僕たちはこのことを、そして今の順位を真摯に受け止めて、もう一度、再出発するんだという気持ちで気を引き締めてやっていかなければいけないと思っています(昌子源)」

 それはおそらく、サポーターも同じだろう。悔しさだけではなく、喜びやワクワクした気持ちを共有した時間も確かにあったからこそ、この事実を受け入れつつもその胸になんらかの痛みを残しているはずだ。

 だが、どれだけ痛みを感じても、時間を巻き戻すことはできない。時計の針は澱みなく進み、夜を越えれば朝が来る。試合も待ってはくれない。だから選手たちは胸に残る痛みを封じ込めて前を向く。自分には何ができるのか、やるべきことは何なのかに目を向けて足を踏み出す。それはクラブスタッフも同じだ。今年3月の新型コロナウイルスによる活動休止に始まり、苦しい状況が続く今シーズンだが、そんな時こそ、心一つにと小野社長は言う。

「一枚岩になるというのは私の信念でもありますし、『TOGETHER as ONE』という今シーズンのスローガンもガンバに関わるすべての皆さん、クラブのフロントスタッフ、チーム、選手を含めた全員で心を一つにしてやっていこうという思いを込めて掲げています。もちろん、それがあってもいろんなことが起きていますが、それでもピッチに立つ選手だけではなくクラブに関わる全員で、ガンバを応援してくださるすべての人たちと一緒になって進んでいくという部分は今後も大切にしていきたいと思っています(小野社長)」

 大阪府に発令された緊急事態宣言を受け、ガンバは今もリモートマッチ(無観客試合)が続いている。この5月に予定されていたホームゲームは全部で5試合。コロナ禍において、Jリーグ全体が今も観客数の制限や声を出した応援を禁止しているが、スタジアムにサポーターの姿があるか否かでそこに生まれる空気は間違いなく変わる。現実的な話をすればクラブの収益にも大きな打撃があるはずだ。だがクラブも、立ち止まるわけにはいかないと気持ちを固めているからだろう。「この状況でも自分たちにできることを」と、5月に入り、小野社長以下、職員やアカデミースタッフまで、クラブ総出でバックスタンドに『TOGETHER as ONE』のコレオグラフィを作り上げた。またファン・サポーターとの距離を縮めようと『TOGETHER as ONE PROJECT』として様々な企画を立ち上げるなど、まさに一枚岩となって前に進んでいる。

「リモートマッチでの開催となる中でも、少しでも試合を楽しんでいただきたい、テレビの向こうからチームを応援してもらいたい、ガンバを近くに感じて欲しいという思いから今回の企画を立ち上げました。その一環として、先日の浦和レッズ戦ではコレオグラフィの上部座席の背もたれ部分にサポーターの皆さんにご購入いただいた背番号Tシャツ、約350枚をかぶせて一緒に戦っていただきました。姿こそ見えませんが、皆さんの思い、熱はチームに届いたと思っています(顧客創造部・企画課/奥永憲治)」

 もっとも、先の選手の言葉にもあるようにプロは『結果』が求められる世界だ。クラブもチームも、そうした『過程』をお涙頂戴のドラマにしようとは微塵も考えていない。強化部長として監督解任を決断し、次期監督が決まるまで新監督を預かることになった松波正信氏も覚悟を据えて指揮にあたる。

「18年に宮本さんには苦しい状況の中で監督を引き受けていただき、昨年は2位という成績をおさめた中で今シーズンをスタートしました。その中で私自身も監督を支える立場にあったからこそ自分の力のなさ、責任を感じていますが、チームの状況、結果を踏まえて変化が必要だと感じ、決断に至りました。その中で当然ながら原因を探り、戦いの中身を変化させていくことも必要ですが、まずは選手たちに『自分たちの強みをピッチで出していく』という思考に変えて欲しいと伝えました。ここまでの戦いを振り返ると、いろんなことにチャレンジしなければいけないという思いが強すぎて逆にブレーキになっているところもあると感じたからこそ、まずはシンプルにゴールに向かう、ゴールを奪いに行く、ゴールを守るという思考に切り替え、そのためにどうポジションを取り、何をすべきかを考えていこう、と。1日で全てが変わるほど甘くないことは理解していますが、シンプルに『ゴールに向かう』という思考に変えることさえできれば、やれる選手は多いと信じていますし、個人の特徴も出てくるんじゃないかと思っています。また、当たり前のことながらサッカーは一人でプレーするものではありません。一人の動きに対して二人、三人と絡んでいくという組織をしっかり構築していかなければ連動することはできないし、チームも形になっていかない。その部分もしっかりと選手にも伝えてやっていかなければいけないと思っています(松波監督)」

 その松波監督の初陣となった16日の浦和戦。ガンバには明らかな変化が見受けられた。アタッキングサードまでボールを運ぶ回数、前線でパスが動く本数も増え、シュート数も前節を上回った。『連動』の部分でもポジショニングや選手同士の距離感が整理されたからだろう。これまで単発に終わることがほとんどだった攻撃に久しぶりの『リズム』を感じた。

「ここ最近の試合で見られたボールを受けること、持つことに対しての恐怖心みたいなものがチームから払拭されて、みんなが積極的にボールに絡んでいこうとするシーンが増えたのも手応えとして感じる部分だった。ただ今、自分たちに必要なのは結果。スカッと勝つことでしか根幹にあるモヤモヤ感を払拭できないからこそ、点を取れなかった自分に、勝てなかった事実に腹が立つ(宇佐美)」

 エースの言葉にもあるように、結果は0−3。得点を奪うことはできず、今シーズン最多の失点数を喫して戦いを終えた。だが、松波監督が話した通り「1日で全てが変わるほど甘くない」のがこの世界だ。前体制下、10試合を戦って1勝、3得点しか奪えなかった深刻な状況を思えば、尚更、この沼を脱するのは簡単ではないだろう。それでも、戦い続ける先にしか光は見いだせない。そのことに心を揃えてチームは『痛み』を胸に封じ、再出発を切った。

『TOGETHER as ONE』。

あとは「点を取ってスカッと勝つこと。それによって本来、ガンバが備えるべき自信、力を自分たちで漲らせていく(宇佐美)」のみ。その先にある歓喜は必ず、逆襲の狼煙になると信じて。