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<GAMBA CHOICE 5>一美和成がようやく立てた『スタートライン』。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
『ガンバ復帰』への決意を先発2試合目にして結果で示した。 写真提供/ガンバ大阪

「初めてガンバに貢献できた。ようやくスタートラインに立てました」

 5月12日のサンフレッチェ広島戦で今シーズン二度目の先発メンバーに名を連ねた一美和成は、試合後、ガンバ大阪で初めて奪ったJ1リーグ初ゴールを噛み締めた。

「セジョン(チュ)からいいボールがきて、角度はなかったんですけど、積極的にゴールを狙いにいった結果が得点に結びついた。セジョンはキックに特徴がある選手ですし、ああいうファーサイドのボールでも落ちてくるので相手からしたら守備もしにくかったはず。そう考えても本当にセジョンのボールが良かったなと思います。今日は2トップでの出場だったので、パト(パトリック)の特徴も踏まえて少し落ちぎみに起点になるプレーや、パトと裏抜けのタイミングをあわせることを意識していました。前半は少しかぶったりしてあわないところもあったけど時間の経過とともに徐々にあうことも多くなっていったし、もっとお互いが近いところでプレーできたらなお良かったと思います。チームとして、今は得点が生まれていない状況があるので、個人的には1点だけではなく2点目、3点目が欲しかったんですけどそれはできなかったので…でもチャンスはあったので次はしっかり決めきれるようにやっていきたいです」

 長い道のりだった。

 16年に熊本県の名門、大津高校から加入したものの、プロ1年目はJ1リーグはおろか、J3リーグでさえ思うように試合に絡めず、先発を任されたのもわずか9試合。フィジカルの強さを生かした得意のポストプレーも、強靭なプロのセンターバックの前では鳴りを潜め、力不足を突きつけられた。

「これまでは自信のあった身体能力で勝負して点を取ってきたけど、それもプロの世界では通用しない。もっと強くならないといけないし、1つ1つのプレーの精度を高めないとシュートを打つ以前のところで終わってしまう。まだまだ、ぜんぜん足りないです」

 それを自覚すればこそ、フィジカル強化と並行してパスやトラップなど基本的な足元の技術を鍛え直し、プロ2年目に入ると、動き出しや体のぶつけ方など相手のセンターバックとの『駆け引き』に磨きをかけた。練習前には必ず1時間前にクラブハウスに到着し、体を整えて練習に臨むといった準備を心がけるようになったのもこの時期。それが日々のコンディションにプラスに働くだけではなく「できるプレーが増えていくことにもつながる」という手応えを得られたことは、自分を奮い立たせる材料にもなった。

 ただし、それがすぐにトップチームでのチャンスにつながることはなかった。17年のJ3リーグではレギュラーに定着し25試合で8得点を挙げたもののJ1リーグにはベンチ入りすらできない。18年も肩の手術によって出遅れ、前半戦の主戦場はJ3リーグだった。

 その状況に変化が生まれたのはJ3リーグでの結果をコンスタントに残していた最中の18年7月末頃から。練習からトップチームに身を置くようになり、8月10日のFC東京戦では初先発でJ1リーグデビューを飾る。以降も試合には絡み続けたものの、短い時間の中で思うような結果を残すことができず、ポジションを勝ち取るには至らない。試合勘を磨くために時折出場したJ3リーグではトップチームで揉まれているからこその成長が光り、それをパフォーマンスや結果で表現できた試合も多かったが照準はあくまでJ1リーグに据えていたからだろう。シーズン終盤、J1リーグのV・ファーレン長崎戦を控えメンバーのままで終えた翌日、J3リーグ33節・ギラヴァンツ北九州戦でゴールを決めた後も、厳しい言葉を自分に向けていたのを覚えている。

「点を取ることはどこのステージでも楽しいし、J3リーグで点を決めたこともアピールにはなるかもしれないですが、J1リーグで得点という結果を残さなければ自分の描く将来にはつながっていかない。J1リーグで短い時間とはいえチャンスをもらっているのは事実なので、そこで結果を残すために練習からやり続けるしかないと思っています」

 そうした状況を打ち破ろうと、期限付き移籍を決断したのが19年だ。その新天地、京都サンガF.C.ではJ2リーグながら36試合に出場しチーム最多の17得点と結果を残すと、翌20年には再び期限付きでJ1リーグに昇格した横浜FCへ移籍。ガンバへの復帰という選択肢もありながら、冷静に自身の現状と将来を見据えて結論を出し、同年のJ1リーグで31試合4得点と着実に経験を積み上げる。その事実は今年、3シーズンぶりのガンバ復帰を後押しした。

「2年間の期限付き移籍では、ストロングポイントである得点力やポストプレーのところも成長できたと思っているし、たくさん試合に出してもらって試合感覚のところも自信がついた。あとはこの経験をガンバに還元したい。そのためにもまずはスタメンを取ることを目標に、結果を求めてやっていきたいです」

 昨今、期限付き移籍を機にそのままクラブを離れていく選手も珍しくはない中で、ガンバを離れる際に話していた「成長して、またガンバ大阪でプレーできるように」という言葉通りの古巣復帰。初先発を飾った川崎フロンターレ戦や、冒頭に書いた広島戦で示したパフォーマンスは、彼がこの2年間で培った経験と成長を確かに示すものだったと言っていい。ひたむきにボールを追いかけ、前線で起点となり、ゴールを狙い続けることで立つことができた『スタートライン』は、ここから力強く走り出すことへの決意に満ちていた。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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