マンチェスター・シティFCへの移籍。そして結婚。食野亮太郎が明かした、21歳の覚悟。

「育ててもらったガンバに恩返しを」と思いを語った食野。(筆者撮影)

 マンチェスター・シティFC。

 仲介人を通して、オファー元の名前を聞いた時から、ほぼ腹は決まっていた。半年前、ガンバ大阪U-23でスタートし、J3リーグの開幕戦を戦っていた自分を考えれば、想像すらしたことのなかった現実に驚きはしても、怖気づくことはなかった。

 目の前にあるチャンスを、前だけを向いて掴み取った。

■海外移籍決断の理由。

「すごく急な話でした。小さい頃から『海外』への憧れはあったし、いつか挑戦したいと思っていたけど、そのためにはやらなきゃいけないことがたくさんあると思っていたし、現にプロ3年目を迎えた今年も、ガンバU-23からのスタートになり、まずはトップチームでプレーすることが現実的な目標でした。そんな中で、J3リーグで結果を出すにつれて、トップチームでも少しずつ起用してもらうことが増え、ゴールも決められて、最近はコンスタントに試合に絡めるようになっていた中で、マンチェスター・シティからオファーをいただきました。

 正直、めちゃめちゃ悩みました。マンチェスター・シティという名前に心が躍ったのは本音ですが、一方で、ジュニアユースから育ててもらったガンバに対してまだ何の恩返しも出来ていない、という思いも強く、唯一相談した家族とも、本当に決断していいのか、短い時間の中で何回も話し合いました。『ガンバ大阪の食野亮太郎』としてこのガンバでやるべきことも、もっとあったと思います。

 でも、シティからオファーがくる選手は、世界中を見渡しても…数十人しかいないわけで…だからこそ、そのチャンスを掴みたいと思いました。その気持ちをガンバにも伝え、話し合いの中では慰留もしていただきましたが、最終的には僕の気持ちを汲んでくださって、理解していただきました。苦労するのはわかっていますが、若いからこそ、今の勢いのまま世界に乗り込んで、突き進んでいこうと思っています。行くと決めた自分に責任を持ち、育ててもらったガンバの名前を世界に轟かせるくらいの決意で自分らしく戦ってきます。J3でもJ1でも、いつも僕の背中を押してくれたのはサポーターの皆さんでした。ゴールを決めた瞬間に、スタンドが湧き上がるあの雰囲気を味わいたくて、ゴールを目指しました。皆さんに応援していただいたことをこれからも力にして、頑張っていこうと思っています」

 食野からオファーの話を聞いたのは渡英直前のこと。正確にはまだマンチェスター・シティでのメディカルチェックを済ませておらず、契約書にサインをしていない状況だったが、その言葉の1つ1つが力強く、自信に満ちていた。

■『結果』を求め続けたことで見出した、新しい一歩。

 そうして胸を張れる理由は、今シーズン、彼が黙々と続けてきた『戦い』にある。先に書いた通り、3年目の今年もスタートはガンバU-23に振り分けられたが、ネガティブな言葉は一度も口にせず、繰り返し『結果』という言葉を自身に突きつけて、それを求めてきた。昨年の反省があればこそ、同じ轍は踏まないと決めていた。

「去年、初めてJ1リーグの試合に出してもらって…でも正直、何も結果を残せていないのに、そこで調子に乗ってしまった自分がいて、結果的にガンバU-23に逆戻りになってしまった。それを考えれば今年のスタートがU-23になったのも、明らかに自分の責任。今シーズンはそのことを忘れずに、自分に厳しく気持ちをぶらさずにやってきます。とにかくまずはJ3リーグで結果を残し続けることだけに集中していきます」

 

 その言葉のままに、J3リーグ開幕戦ではゴールを決めたものの、そこに笑顔はなく、むしろ何かに急き立てられているかのように「結果。次も結果です」と繰り返した。

 それを機にJ3リーグ4節のYS横浜戦で今季初の1試合2ゴールを奪うと、同試合を含めて3試合連続でゴールを叩き込む。しかも、その直後には今シーズン初めてトップチームから声がかかり、ルヴァンカップ・ジュビロ磐田戦でゴールを奪い、再びJ3リーグに戻ったJ3リーグ8節のブラウブリッツ秋田戦でも2ゴールを決めた。

 待望のJ1リーグ初ゴールは、11節のサガン鳥栖戦だ。後半からピッチに立った食野は0-3と相手に大量リードを許した展開でも諦めずにゴールを目指し、アディショナルタイムに爪痕を残す。さらにJ1初先発を飾った14節の鹿島アントラーズ戦でもゴールを奪うと、16節の湘南ベルマーレ戦では、スコアレスで迎えたアディショナルタイムに決勝ゴールを決める。どれだけ結果を出しても、まるで呪文を唱えるように「結果、結果」と日々、自身に求め続けたからこその、結果だった。

 湘南戦を終えて、少し気持ちが解き放たれたのか、久しぶりに表情を緩めたのを覚えている。

「やっと、自分のゴールが勝利につながりました。今年に入ってJ1リーグでゴールを決めた試合は2試合とも勝てていなくて…。それではゴールを決めても意味がないと思っていた。正直、決めた瞬間は嬉しすぎて、どんなパフォーマンスをしたのかも覚えていないくらいで…。多分めちゃめちゃダサかったと思います(笑)。でもホームで、サポーターの皆さんの目の前で決められて良かった。素直に嬉しいです。ただ、こうしてゴールを決めても…僕はアデ(アデミウソン)やウィジョ(ファン/注:7月14日にFCジロンダン・ボルドーに移籍)がガンバで残してきたものにはまだまだ、全然届かない。その事実は謙虚に受け止めて、また毎日しっかり練習していきます」

 そんな食野の成長を語る上で欠かせないのが、今シーズンのスタートから、それまでのサイドMFではなくFWに据えられたことだ。今年からガンバU-23の監督に就任した森下仁志が、食野がトップチームで活躍をし始めた直後に理由を明らかにしている。

「初めて亮太郎(食野)を見た時に、サッカー的な判断とかテクニックはすごくいいものを持っているな、と。ボールを持ってもガッと動けるし、足元も巧い。ただ最初はそれが全然ゴールに向かっていなかったので、彼の技術をゴールに向けてやりたいとFWに据えました。また、1~2月の頃は、自分をどういう感情に持っていけばいいプレーができるのか、を見つけられていないままプレーしていた感じがしましたが、最近はそれを見つけつつあるし、ピッチの内外での意識も高くなって、いろんなことに真摯に向き合っている。あと、本当によく練習をしています。チームでの練習はもちろん、居残り練習でも何本もシュートを打ってきました。その積み重ねが彼をいい方向に走らせているんだと思います(森下仁志U-23監督)」

■心強きパートナーとともに「自分らしいチャレンジ」を。

 中でも、この数ヶ月間で目を惹いたのが気持ちの面での成長だ。この半年は先に書いた通りで、常に『現状に満足しない自分』を意識して過ごしてきたが、トップチームでプレーするようになってからは、より食事やコンディションづくりへの意識が高くなり、それらが結果に繋がり始めたという相乗効果が彼の自信を膨らませた。そのこともある意味、今回のオファーにも臆することなく向き合えた理由だろう。食野も言う。

「絶対にありえないんですけど、仮に去年の自分にどこかのチームからオファーをもらっていたとしても正直、自分に自信がなかったし、現実的に考えられなかったと思います。でも今年は…まだまだ足りないけど、少しずつ目に見えた結果が出せるようになってきて、自分のプレースタイルも確立しつつあるし、メンタル面でのコントロールもうまくできるようになってきた。その流れがあった上で、今回のオファーをいただけたことで、思い切って勝負しようという気持ちも湧いたんだと思います。それに今年は自分に対して厳しくやれていますが、この状況が続いた時に、自分の性格からも甘えが出てしまうかもしれないとも考えました。それもあって、より一層、厳しい場所に身を置けば、今後のプロサッカー人生も変わってくるんじゃないか、と。いや、変えてやるという決意で乗り込みます」

 ただし、あまりにも急転直下の話で、何一つ用意ができていないそうだ。海外での成功には語学も必要だという考えはあるが「英語も一切話せないし、まさかこのタイミングになるとは思っていなくて、勉強もしていなかった」と苦笑いを浮かべる。もっとも「だけどそこは気持ちでなんとか乗り切ります!」との勢いも忘れずに、だ。

 唯一、慌ただしい日々の中で「これだけはいい加減なことはできないから、きっちりと手順を踏みました」と教えてくれたのが、結婚だ。

 渡英前には、かねてから結婚を意識して付き合っていた女性の両親に挨拶を済ませ、入籍をしたと聞く。

 と言っても、今シーズンは、マンチェスター・シティから他クラブに期限付き移籍をすることが決まっているため、所属先が決まった後、生活面での準備が整うまでは単身、初めての『海外』でのチャレンジをスタートさせる予定だ。

「正直、どこのクラブに行くのかはまだ決まっていません。でも、どこに行っても何をするにも自分次第だと思っているので、とにかく後先を考えず、ガムシャラにいろんなことに向き合おうと思っています。以前、仁志さんに言われたことがあるんです。『迷ったら必ず厳しい方を選べ。悩むな、自分の直感を信じろ』と。その言葉を胸に据えて今シーズンを全力で戦ってきて、今回、新たな道が拓けたように、海外の地でも、その言葉を胸において自分らしくチャレンジしようと思います」

 

 21歳。食野亮太郎は『世界』に向かって、力強く一歩を踏み出した。この半年、何があっても、どんな困難に直面しても、ブレずにサッカーと向き合い続けてきたことで手に入れた、強い心を携えて。