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<ヴィッセル神戸>イニエスタ、緊急帰国の真相を、三浦淳寛SDが明かす。

高村美砂フリーランス・スポーツライター

 7月28日に行われたJ1リーグ18節・ヴィッセル神戸対柏レイソル戦。ヴィッセル神戸に加入した世界的なスーパースター、MFアンドレス イニエスタが初先発を飾り、チームも1−0で勝利して順位を4位にあげるなど、ヴィッセル神戸はJ1リーグ後半戦最初の試合で最高のスタートを切った。だが、その一戦からわずか2時間後のこと。クラブから一枚のリリースが届く。

表題は「MFアンドレス イニエスタ選手のスペインへの一時帰国について」。そこには、同選手が家族と再来日するためにスペインに一時帰国すること、8月頭には再来日する予定であることが記されていた。

 ワールドカップロシア大会にスペイン代表として出場したMFイニエスタが7月18日に来日してから約10日。そこから4日後のJ1リーグ・17節の湘南ベルマーレ戦で途中出場を果たし、かつ先に書いた直近の柏戦で先発して82分までプレーするなど、明らかにコンディションを上げつつあったイニエスタの帰国ーー。すでに明後日のJ1リーグ・19節のセレッソ大阪戦、20節・FC東京戦のアウェイ2連戦ではチケット完売が報じられるなど、日本におけるイニエスタ人気が沸騰している中で何が起きたのか。30日の練習後、ヴィッセル神戸のスポーツダイレクターを務める三浦淳寛氏がその真相を明かしてくれた。理由は明確だ。

「帰国の理由は、家族が来日するための手続きのためです。なぜこのタイミングになったのか、には理由があって。ワールドカップ終了後、実は本人から『1日でも早く神戸に来て、選手と一緒にボールを蹴りたい』という申し出があったんです。本来、前所属のFCバルセロナでのシーズンが終わり、直後に来日して入団会見を行って、スペイン代表の合宿に参加し、そのままワールドカップを戦ったということからもわかるように、ほとんど休むことなく毎日を過ごしてきたからこそ、僕たちとしてはもう少し休みを与えた方がいいと考えていたのですが、彼自身が『休みを削ってでも、とにかく早くヴィッセルに合流したい。日本の文化を学びたい』と。それに対して僕たちクラブとしても彼の熱意を汲みたいという思いから、18日に来日してもらいました。ただ、何せそのハードスケジュールでしたから。その時点ではまだ彼の家族の手続きは終わっていなかったことから、彼一人での来日になったのですが、7月28日の柏戦の少し前にようやく家族の来日手続きの準備が整ったという連絡を受けたので、このタイミングで帰国してもらうことにしました。といっても、あまりにも試合の直前だったこともあり、選手には試合に集中してもらいたいという思いからすぐには伝えず、試合が終わった後に選手には伝え、公式に発表した、と。それが真相です」

 事実、イニエスタの「1日でも早くヴィッセルに合流したい」という思いは、来日初日から感じられた。これも三浦SDが明かしてくれたのだが、7月18日に来日したイニエスタは本来、空港でのサイン会は予定していなかったにも関わらず、集まったファンを前に自ら申し出てファンサービスを行った上に、その日のうちにいぶきの森練習場へ。クラブ関係者は体を動かすことはないだろうと想像していたそうだが、本人が「コンディションを整えるためにも練習場で走りたい」と申し出たことから急遽、チームスタッフが付き添い軽いランニングを実施。翌日には、J1リーグ16節のVファーレン長崎戦を戦い終えて神戸に戻るチームスタッフ、選手を迎え入れたいとの思いで再び練習場に足を運び、19日から正式に合流している。そうした言動のすべてから、イニエスタのJリーグ、ヴィッセル神戸での新たな挑戦への思い、本気度がうかがえることは紛れもない事実だ。三浦SDが言葉を続ける。

「来日して以降、チームメイトとともに撮影した写真を積極的に自らのSNSで発信したり、選手ともコミュニケーションを深めようとする姿を目の当たりにしていますが、それ以外のあらゆるシーンで彼の『とにかくこのチームを良くしたい。アジアナンバーワンのクラブにしたい』という思いは受け取っています。また、そうしたプロフェッショナルな姿、メンタリティから我々クラブ、チームも、選手個人も学ぶべきことは本当にたくさんあると感じています。そういう意味では、コンディションも良くなって来ている今、このままチームにいてくれたら…という思いもありましたが、本来、家族の手続きを待っていれば、今くらいのタイミングでの来日になったところを彼の思いで早く来日してくれたわけですから。クラブとしても彼にベストパフォーマンスを発揮してもらうための最大限のサポートをしたいと思い、かつ彼にとっての家族が、異国の地でのパフォーマンスを支える大事な存在だということから、今回の帰国を受け入れました」

 そうした経緯の中で、試合後にはその日のうちにスペインの地に旅立ったイニエスタ。気になる帰国日については現時点では明確にはなっていないものの、おおよそのメドは立っていると言う。

「全てがスムーズにいけば、8月4日前後には戻る予定ですが、ズレがあったとしても前後2日くらいだと考えています。これも手続き次第のところがあり…1日でも早く手続きが済めばとは思っていますし、5日のFC東京戦に間に合う可能性もゼロではないですが、そこは申し訳ないですが、現時点では明言できません。仮に4日を過ぎるとなれば、必然的に5日の試合は無理になりますし…そこは状況に応じて、とお答えするのが精一杯です」

 

 また、三浦SDは帰国前のイニエスタとのコミュニケーションの中で、すごく嬉しい言葉があったことも聞かせてくれた。

「彼が帰るときに言っていたのは、このチームは1000%よくなる、ということでした。『アジアを目指せるチームに1000%、なれると思います』と。それを聞いて率直に僕自身もすごく嬉しかったですし、我々が今年、監督を中心に構築しているポゼッションサッカー、攻撃的なパスサッカーは絶対にブレずに、かつ、その精度、判断を研ぎ澄ませていくことを考えながら、よりよいチームにしていくことを目指したい。あとは、ルーカス(ポドルスキ)ですね。彼もすでに帰国し、イニエスタの存在にも刺激を受けながら『早く復帰しよう』というメンタリティで日々のリハビリに励んでくれているので。その姿を見ても、また日本人選手が彼らから受けている刺激からも、このクラブはこの先、絶対に良くなるだけだなと確信しています。下に下がることは絶対にない。そのためにも、まずは明後日、イニエスタが不在の中で戦うセレッソ大阪戦を、残った選手たちで、チームとしてどう乗り切るか。そこに期待したいと思っています」

 「練習後、久しぶりに走ったので汗だくですよ」と滴る汗をぬぐいながら、真摯に語ってくれた三浦SD。その言葉と表情にみなぎる自信を見ても、またイニエスタが明言した『1000%』という言葉からも、大いに期待が持てるJ1リーグ後半戦になりそうだ。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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