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ヴィッセル神戸、西野朗監督が解任。チームを去る西野監督の胸の内とは?

高村美砂フリーランス・スポーツライター

ヴィッセル神戸は本日、11月8日。西野朗氏の監督解任を電撃発表した。5月の監督就任からわずか約6ヶ月。西野氏が解任にあたり、本日クラブハウスにて、囲み取材に応じた際の声を一問一答でお届けする。

ークラブから解任を告げられたのは、昨日の横浜Fマリノス戦の試合後ですか?

そうですね。今の結果が出ていない状況を受けて、残留をするための決断です、と。もちろん、この結果については、自分もしっかり受け止めなきゃいけないし、現実、毎試合、苦しい試合が続いていて、毎試合、最後通告というか、そういう話を受けながらやっていたところもあったので、急な話ではなかったのですが。ただ、ある時は『すべて任せるからなんとか乗り切ってくれ』というような瞬間もあったし、自分としてももちろん、ファイティングスピリットをもって、1試合1試合、最後まで、乗り切るつもりでいました。ただ、クラブとしても昨日の試合が、相当、クラブにとってショッキングだったんでしょう。そういった流れもあり、軌道修正があって、突然ではないけれど…3試合残しての判断になったのだと思います。自分としては、あと3試合残してというのは…最後通告は何回かありながらも最後までやりきってくれ、という瞬間もあっただけに、まさか昨日とは考えていなかった。ただ、現実的に3試合を残してこういう状況になり、僕としてはまず、選手やスタッフに動揺を与えることが心苦しい。ましてや、シーズン中2回もこういうことがあったらいけないし、自分自身もそういうことを承知の上でヴィッセルを立て直しにきたからこそ、またこういう瞬間を作ってしまった上に、結果的に投げ出す形になったというのが残念です。自分としては、当然最後までやり切るつもりでいましたし、ある程度、猶予をもらっていた中での再建をまず考えていた。だからこそ、難しさを感じながらもやりがいもすごく感じていたし、これからだ、っていう思いもあった。それだけに残念ですが、残留するための決断ということだったので、のまざるをえないため、了解しました。

ークラブとしては残留という目標があったとはいえ、監督が就任された際は、ある程度、長期的にクラブを見てほしいという話だったと思います。

それは契約ですからね。確かに、時間はいただきましたし、自分もそういう中でチームを作れればなと思っていました。ただ現実的に始まってみると、自分が思っているような猶予はないんだな、と思いました。毎試合、常に結果を追求されていたし、この時期に来てからではなく、夏場くらい…7月はいい時期も少しありましたけど…それ以降は、あまりやろうとしているサッカーが評価されないという感じはしました。

ー目指すスタイルを少し変えてでも残留を目指してくれ、というような要望だった、と?

その時期に『残留』ということは具体的にはなかったですが、自分としては、そんなに激変させられるとも思っていない中で、その頃も言っていたように、いいものは継続させていくことを第一優先に考えていたし、少しずつ変化をと考えていました。シーズン途中に就任し、基本的にメンバーも変わる訳ではないし、違ったスタイルでといってもそう簡単にはいかないと思っていましたからね。ただ、現実的にとにかく勝っていくサッカーを、要求されているんだな、というのはありました。

ーシーズン途中に監督に就任されたのは初めてだったと思います。そこに難しさを感じるところも、あったのでしょうか。

すべて難しいというより、自分にとってもチャレンジだと思っていましたから。自分も神戸のためにという思いを持って、覚悟を持ってここに入って来ただけに、難しさは承知の上だったし、神戸というチームの可能性にかけている自分もいた。ただ、結果的には、自分がきて変わっていないというか、逆に、ひっくり返してしまったような感じがしていないわけでもない。というのも、常に中・長期というか、そういう長いスパンで考はなく、現実的な1試合1試合、っていう評価でしたから。それに対して自分が応えられなかった、対応できなかったということです。自分では今こういうリスクがあってもいいかな、とか、多少チームがこういう状況になってもリバウンドして次によくなるということを考えらればいいかな、と、あまり動揺せずにやってはいたんですけど、こういう状況になってくるとやはりそうもいかないですから。常に結果、結果と求められることを、当然僕としても了解している中での仕事ではあったと考えれば、それに応えられなかったということです。

ーチームスタイルを徐々に変えて行こうとしていかれている中で、なかなか浸透しない難しさは感じてらっしゃったのでしょうか。

やれているな、と手応えを感じ継続していこうかなと思ったり、やっぱり難しいのかなと思ったり、でしたが、ただ、やれるじゃないか、と思っていても極端に変えるつもりはなかったというか。ただ、そういうことが大事だということは伝えていきたいなと思っていたし、全部が全部、1つのスタイルでということではなく、もっと柔軟にサッカーをしなくちゃいけない、と思っていたからこそ、そのきっかけみたいなところを、今シーズンは分かってもらえたらと思っていた。サッカーはそんなすぐに変えられるほど、簡単ではないですから。

ーここ数試合は、特にケガ人も多く、監督としてはなかなか苦しかったと思うのですが。

それはチームマネージメントという部分での僕の能力不足で、そんなエクスキューズはこの世界では通用しないと思っている。そういうことも想定したチーム作りをしなくちゃいけないし、選手に責任は全然ないです。

ーバックアップということでは、監督も一緒に選ばれたであろうシーズン途中に獲得した外国籍選手が機能しなかったのも誤算だったのでは?

それはありました。就任前は、補強についてもかなり積極的に考えてくれそうな話で、もちろん、タイミングもあることだからこそ、その時には、ということを話し合っていましたしね。というのも、やはり選手も少し入れ替える必要はあるな、と感じていたし、僕が思うポイントに補強してほしいなって言う部分もあったので。結果的に獲得した二人をいかせなかったのは、自分の力不足だと思いますが、選択肢が少なかったというのも事実です。

ー就任の会見の時に三木谷浩史会長も「全面的なバックアップ」とおっしゃっていましたが、そのあたり、補強も含めてすこしギャップを感じられたところもあったのでしょうか。

今となっては、それも言い訳にはならないです。自分が最終的にOKを出して二人を選んだので。選択肢は少ないとはいえ、補強についてクラブが考えてくれたことは間違いないので。

ーある程度、いろんな厳しさを想定されて入って来たところはあったと思いますが、その中でも誤算はあったと思います。一番想像と違った部分はどこですか?

いや、ほぼ想定内です。自分がある程度、変化させられるなっていう思いもあったし、そういうサポートも感じたし、将来的な可能性も感じたし、補強に関しても、大型補強とか、がらっと変える感じの中ではできるとは思わなかったとはいえ、いろんなことをある程度自分の中で好転できるかなというのはあったので。想定外なことがあったとすれば、自分の力です。

ー今年の初め、ガンバ大阪を退団されてから多少の充電期間があった。それを踏まえて就任時には「勝負勘の部分がどうか」ということも話されていましたが。

1年に2回退団するとは思わなかったですね。10年やっていながら1年で2回というのは。ただ、勝負勘というのはあまり、失われるものではないというか、経験値も含めて自分の財産だと思っているところもありましたから。逆にそういうものに飢えていた自分もいました。ただ、現実をしっかり見た戦いをしなければいけないというか、流れているものは流れていた中でちょっと自分の思惑とは違う部分もありました。でもそれも、自分が現実をしっかり見ていないということだと思います。少し理想を追ったというか、先を見すぎたところもあったのかも知れない。

ー先を見すぎた、というのは、シーズン前にこのクラブが掲げたACL出場などでしょうか。

ACLに関しては僕も就任にあたり、ACLを経験した者として、そんなにたやすくいけるステージではないし、やはり積み上げがなければ、ガラッとかえてポンといける瞬間があったとしても、継続していけないということは伝えていました。クラブとしては、そこを目指して、そういう補強をしたことへの自信はあったんだと思いますが、今までの神戸の歴史からして、突発的にそういうステージにあがれるか、といえば、どうなんでしょうかね、ということはクラブには言いました。とはいえ、シーズンの最初に掲げている目標を、途中からきた僕が途中で変えることではないですから、それに向かっていくことについて否定はしていないです。ただACLについては、現実はどうですかね、という話はしました。

ー長いスパンで考える中で、今年は結果を求められるから、それにあわせて堅守速攻にスタイルを戻そうというような考えはあったのでしょうか。

堅守速攻をやって勝てると思うのなら、選びますよ、もちろん。その策を獲ることによって間違いなく結果を獲れるんであれば、ね。ただ、正直、そういう部分はあったとは思います。リセットして、来年に対する自分というのを強くもっていたというか。スタートから、キャンプから、1から…シーズン前の編成から入れれば…それは大きな違いだと思いますしね。それはやりたいと思っていたので。

ー柏レイソルやガンバ大阪が企業が主体のチームであるのに対し、ヴィッセル神戸はオーナー個人の所有物という違いがあったと思います。現場で指揮を執るにあたり、それによる違いを感じたところはありましたか?

それも最初から分かっていたことで、入って驚いたことではないです。オーナークラブだけに、多少、オーナーの意見や力などが入ってくるのかなとは思っていましたし、それを含めて自分の中でまた違った形で常勝クラブにできれば、と思っていました。そうすれば、今までとは違うクラブにはっていくのかなという可能性も感じていましたしね。ただ、企業主体のチームとオーナーのチームということでの違いは現にありました。ダイレクトに常に意見されたり、っていうのも今までにないことでしたから。

ー残り3試合チームに期待する事は?

選手には本当に何と言えばいいのか、と思いながら挨拶している中で…頑張れではないしな…と。とにかく、どこも同じように3試合チャンスがあるし、お前らにもチャンスがあるんだ、ということは言いました。あとは…ただ謝るだけでした、みんなに。何回謝ったか分からないというくらい謝るだけでした。途中で来て、途中で逃げていってしまうなんてことは、本当にあり得ないことですから。とにかく、みんなが戦ってくれると信じています。

ー後任監督で、西野さんの元でもヘッドコーチをされていた安達亮さんに伝えたい事は?

今日は身内にご不幸があって会えていないんだけれども、彼にはしっかりスライドをしたいとは思っていて…彼にとっては2回目の経験になるし、きついタイミングで引き受けさせて申し訳ないということだけですね。ただ出来る事は僕にはもう何もないので…。

ー今後については?

今後ですか? 1年前も同じ事を聞かれたんですけど、また…今後ですね…。今度はちょっと深刻な放浪になりますね。今はそれよりも、とにかく残り3試合について、祈るだけですね。先には進めないです。たぶんずっと止まっているんじゃないですかね。本当に今は、3つ一緒に戦う気持ちでいたいなと思っているし、自分だけ楽になるつもりもまったくないです。

ーそのくらい、ご自身としても3試合を残してチームを去る事に対する悔しさもある、と。

それはもちろん…ちょっとあり得ないですからね。ただ、どうにもできないという…。だから、とにかく今は、今回のクラブの決断がチームにプラスになってくれれば本当にいいなと思っています。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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