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歴史的快挙!日本調教馬2頭のブリーダーズカップ優勝 日本で紡いだ血統が世界で知られるGIを制した日

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
マルシュロレーヌ(左) (c)AlxcEvets/EclpseSportswre

2頭の日本調教馬がアメリカ・競馬の祭典で優勝

 6日(日本時間11月7日)、アメリカ・デルマー競馬場で行われたブリーダーズカップ(以下、BC)において、2頭の日本調教馬が優勝した。BCはアメリカ競馬の振興のため、1984年に創設された"競馬の祭典"である。1996年に藤沢和雄厩舎のタイキブリザードがBCクラシックに挑戦して以降、昨年までで13頭が挑戦してきたが、その壁は敗れなかった。今年はライバルとなる欧州馬よりも日本馬のほうが輸送距離が短く有利な状況ということもあり、7頭が挑戦。そのうち、まず3歳以上の牝馬が芝2200mを競うBCフィリー&メアターフをラヴズオンリーユーが優勝し、続いて3歳以上の牝馬がダート1800mを競うBCディスタフでマルシュロレーヌが優勝した。

ラヴズオンリーユー、厳しい展開を克服して抜け出す

 ラヴズオンリーユーはこれまで日本、ドバイ、香港でもGIに参戦しており、日本のオークス、香港のクイーン・エリザベス2世カップを制している。3着に負けたドバイ・シーマクラシックで1着馬にクビ+クビ差と僅差で迫っており、まさに世界を股にかけて活躍してきたといえる。

 今回のBCでも人気を集めており、当然ながら楽な競馬もさせてもらえなかったが、ゴール手前で力強く追う川田騎手に応えるようにしっかりと伸び、前を捉えた。

 川田騎手は今週はもちろん、帰国後も隔離期間があるため、来週のエリザベス女王杯のレイパパレなど日本のGIレースでの騎乗機会よりブリーダーズカップへのチャレンジを選んだことになる。それだけ深い想いで臨んだ戦いであり、幼いころからの夢を叶えた瞬間でもあった。

■2021年ブリーダーズカップ フィリー&メアターフ 優勝馬ラヴズオンリーユー

マルシュロレーヌ、ハイペースを尻目に4角先頭で押し切る

 続いて、BCディスタフを制したマルシュロレーヌのレース。マルシュロレーヌは8月に門別競馬場で行われたブリーダーズゴールドC(Jpn G3)など日本では地方の重賞を4勝している。しかし、いずれも国債格付けのない日本独自の重賞であるため、今回の出走にあたっては重賞未勝利馬として扱われていた。国際格付けのあるJBCレディスクラシック(GI)では3着と成績は傍目にはいかにも地味にうつっただろう。現地のブックメーカーでは最低人気。日本での馬券発売もなく、いかに期待が薄かったかがうかがえる。この世間の評価に対し、矢作師は「なんでそんなにバカにされているのかな」「そこまで力の差はない」と感じていたそうだ。

 とはいえ、アメリカはダート競馬の本場であり、地元馬の層も厚い。アメリカ特有の赤い土は粘土質で日本の砂主体の馬場とは質が違う。

 アメリカの競馬場は左回りの小回りが多く、先行勢がそのまま押し切るケースも少なくないが、このBCディスタフではかなりハイペースな流れとなり、先行勢が崩れる展開となった。後ろからレースを進めていたマルシュロレーヌにとっては願ってやまない展開となり、3コーナー付近では抜群の手ごたえ。一気に積極策に出て4コーナー手前で先頭、そのまま追いすがる後続を振り切った。

■2021年ブリーダーズカップ ディスタフ(GI) 優勝馬 マルシュロレーヌ

矢作師は「死んでもいい」というほど感激

 矢作師の父親は大井競馬の調教師であり、自身は幼少期は厩舎で育った。ダート競馬の本場でダートのGIを勝ったことへの感激は、BC2勝の感想を聞かれたインタビューで「死んでもいい」とまで口にするほど深いものだった。

地方から世界を目指すのも夢ではない

 この歴史的快挙は日本の競馬史を塗り替えただけでなく、新たな扉が開いたことを改めて感じさせる瞬間であった。

 昨今、地方競馬の勢いが凄い。中央競馬の場外馬券の取り扱いやインターネット投票がより整備されたことも手伝い、収益も上がっている。これにより重賞の賞金も増え、馬主を希望する人も増えているという。

 以前は地方競馬の所属馬は世界、の手前の国内GIを勝つことも難しかった。しかし、最近では中央と地方の交流重賞で地方所属馬が優勝するケースも増えている。今後は、地方からの交流GI、さらに世界を目指すのも現実にあるのではないだろうか。

日本で紡いだ血統が世界に知られる競馬の祭典で勝った

 ラヴズオンリーユーが父がディープインパクト、母が米国馬のラヴズオンリーミーなのに対し、マルシュロレーヌは父がオルフェーヴル、母の母が1997年の桜花賞馬・キョウエイマーチと日本で育まれた血統である点を強調しておきたい。オルフェーヴルといえば、2011年の三冠馬であり、2012年凱旋門賞で僅かクビ差の2着に健闘している。オルフェーヴルの父は香港ヴァースを優勝したステイゴールド、母の父には天皇賞馬・メジロマックイーンと、マルシュロレーヌの血統表には日本競馬を盛り上げてきた馬たちの名前が並ぶ。

 日本調教馬であり、日本にゆかりの深く、日本で紡いだ血統がこの日、世界で知られる"競馬の祭典"で勝ったのだ。

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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