2019日本ダービー回顧と次なる戦いへ「秋も勝浦」「叩かれても痛くなかった。でも、夢じゃない」

令和最初の日本ダービーを制したロジャーバローズ号(写真:中原義史/アフロ)

優勝のロジャーバローズ陣営「夢のよう。でも、夢じゃない」

 2019年日本ダービーでは全18頭が無事完走した。優勝馬ロジャーバローズは12番人気の単勝オッズ93.5倍という低評価を覆し、見事に同世代7071頭の頂点に立った。

 ロジャーバローズは横山武史騎手騎乗のリオンリオンが飛ばして逃げたその後ろにつけ、実質単騎先頭のようなレースを進めることができた。陣営は「脚をためて切れるタイプではないので、平均ペースで先行する自分の競馬に徹してくれればいい」(辻野助手)と話していたが、まさに格好の展開となった。落ち着きがないのが課題だったが、前哨戦の京都新聞杯でリップチェーンをつけるなど馬具を工夫したことが功を奏してメンタル面の課題は解消されつつあった。日本ダービーではメンコを二重に装着して本馬場入場前に1枚は外すという方法で大歓声への対策を打った。

 そして、浜中騎手の冷静な手綱さばきでロジャーバローズが先頭でゴールした瞬間、担当者の米林助手は人目もはばからずに泣き崩れた。そして、愛馬がウイニングランを終えて大歓声の本馬場から検量室へ向かう途中、米林助手は鞍上の浜中騎手に頼みごとをした。

「夢のようで信じられない。夢かもしれないから、鞭で殴ってください。」

 浜中騎手はその言葉に応えて、鞭で数回、米林助手を小突いた。

「でも、痛くない。でも、夢じゃない。」

 初めてダービー優勝を実感した瞬間だった。

 レース後、優勝インタビューに答える浜中俊騎手もまだ喜びを実感できなかったのか、笑顔というよりは不思議そうな面持ちで話していたのが印象的だった。

 第一声は「びっくりしてます」。

 電光掲示板にロジャーバローズを示す馬番「1」が確定したことについても

「なんていうか、無になったというか…頭が真っ白で。びっくりしすぎてよくわからないんですけど、それくらいびっくりしました。」

 と、驚きと嬉しさが溢れた様子をみせていた。

「ロジャーバローズとしてはある程度ペースが速くなったほうがいいと思っていたので、自分が思っていた一番いい展開でした。」

日本ダービーを制して優勝インタビューに答える浜中俊騎手 筆者撮影
日本ダービーを制して優勝インタビューに答える浜中俊騎手 筆者撮影

 なお、ロジャーバローズを所有する猪熊広次オーナーは、この秋は出走登録を済ませているフランス・ロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞(GI)へ参戦する意向を公表している。今後の動向に注目したい。

大本命馬サートゥルナーリアが大一番で出してしまった"幼さ"

 ロジャーバローズが前哨戦の京都新聞杯で2着に入りダービーの出走権利を得た伏兵馬ということもあり、これまで報道陣の角居厩舎へ対しての取材では、つねに本命視されたサートゥルナーリアについての質疑応答が優先されてきた。もちろん、ロジャーバローズへの期待はあるのだが、サートゥルナーリアのGI2勝を含む4戦4勝の実績は文句をつけるところがなかった。仕掛けられたときに一瞬で他馬を捕まえる"とりつく脚のすばやさ"から調教でも圧倒的な存在感を示していたし、左回りのほうがスムーズに走っている様子もうかがえた。4か月の休養明けで臨んだ皐月賞に比べると、日本ダービーへの調整は中5週で計画どおりに進められたことから、厩舎サイドも明らかに自信を持って送りだしているように見えた。

 が、しかし。よりによって、サートゥルナーリアは日本ダービーという大一番でこれまでレースではあまり見せなかった"幼さ"を出してしまった。普段も鳴いたり落ち着きのなさを見せるなどの幼い部分はあるのだが、比較的気持ちの切り替えは早かったし、そういった面が調教の妨げになるという話は聞かれなかった。皐月賞では直線でスタンドに物見し、その予兆を見せてはいた。だが、大事には至らなかったので日本ダービーでもうまく気持ちを切り替えてくれると期待したが…。発送前の輪乗りでは明らかにテンションが上がり、ゲートで立ち遅れた。さらに、道中は外外を回ったロスは大きかった。

 そして、レース後に角居師が「出遅れというのもあるけれど、距離が少し長かったかも」と振り返ったところみると、結果的には母シーザリオや兄エピファネイアが制した東京芝2400mへの適性より、短距離からマイルまでで活躍した父・ロードカナロアの血が騒いだと捉えざるを得ない。

日本ダービー、レース後のサートゥルナーリア 筆者撮影
日本ダービー、レース後のサートゥルナーリア 筆者撮影

 サートゥルナーリアは日本ダービーのレース後、そのままノーザンファーム天栄へ放牧に出された。この秋のプランにあった仏・凱旋門賞遠征は白紙となった。ゆっくり鋭気を養い、この秋は新たな課題をクリアして心身ともに"大人"になったサートゥルナーリアに期待したい

ニシノデイジーの西山オーナーが明言「秋も勝浦」

 日本ダービーの夜、筆者は西山オーナーが主催する宴席にお招きいただき、西山オーナーをはじめ高木登調教師、勝浦正樹騎手ら関係者の皆様とご一緒させていただいた。

「14年ぶりの日本ダービー。勝浦騎手は馬が行きたがるところをしっかり折り合ってうまく乗ってくれた」

と鞍上の労をねぎらった。そして、その席で高木師らと緊急会談。いったん夏休みの放牧に出し、秋は神戸新聞杯から菊花賞を狙うことに決まった。さらに、

「鞍上は秋も勝浦で」

と明言。勝浦騎手にとってニシノデイジーは「僕の騎手人生で一番の馬」というほど思い入れが深いだけに、この西山オーナーの決断はさぞ嬉しかったことだろう。

 勝浦騎手の深い想いが、数か月後にはひとまわり成長してパワーアップしているであろうニシノデイジーをいかに御すのかに注目したい。

ニシノデイジーの馬主である西山茂行氏(左)と勝浦正樹騎手(右) 提供:本元裕一
ニシノデイジーの馬主である西山茂行氏(左)と勝浦正樹騎手(右) 提供:本元裕一

 このように、日本ダービーが終わった瞬間には次の戦いが始まっている。そして、今週6月1日から始まる2歳新馬戦は2020年の日本ダービーへと繋がる。

 日本ダービーの優勝馬が決まった瞬間は、次なる戦いへのスタートでもあるのだ。

日本ダービー5着のニシノデイジー 提供:本元裕一
日本ダービー5着のニシノデイジー 提供:本元裕一