騎手の呟きが具現化した昭和のノスタルジー満載の企画展「メジロ牧場の歴史」JRA競馬博物館

JRA競馬博物館で開催中のメジロ牧場展の発案者・横山典弘騎手(提供:競馬博物館)

JRA現役騎手の呟きが具現化

 東京・府中の東京競馬場内にあるJRA競馬博物館では、平成30年秋から平成31年2月にかけて特別展「メジロ牧場の歴史~”白と緑”の蹄跡~」が開催されていた。

 この展示はJRA現役ジョッキーである横山典弘騎手の発言がきっかけで企画立案されたものだ。

「僕がポロっと言った言葉が、こんなかたちになるなんて思ってませんでした。素晴らしいメジロ展になっています。」(横山典弘騎手)

 メジロ牧場とは、昭和42年から平成23年にかけて北海道虻田郡洞爺湖町にあったサラブレッドの生産牧場だ。創設者の北野豊吉氏は天皇賞制覇を信念に馬づくりを進めたオーナーブリーダーであった。メジロ牧場の馬たちは"メジロ"の冠をつけて名付けられ、緑と白を基調にデザインされた勝負服は昭和から平成にかけての中央競馬を舞台に主に長距離で活躍した。

「もうメジロ牧場はなくなりましたけど、でもそのメジロマックイーン、メジロライアンの血は脈々とオルフェーヴル(母の父がメジロマックイーン)、モーリス(母がメジロフランシス)など、いろんな馬たちにまだまだ残っています。ほんとに素晴らしい牧場だったと思いますし、北野オーナーは素晴らしいホースマンだったと思います。」(横山典弘騎手)

メジロ牧場の創設者である北野豊吉氏(提供:競馬博物館)
メジロ牧場の創設者である北野豊吉氏(提供:競馬博物館)

 そして、横山典弘騎手はこのメジロ牧場の主戦騎手のひとり。横山典弘騎手とメジロ牧場のつながりは、父である横山富雄騎手がメジロの主戦だったことからはじまる。

「僕がメジロ牧場の馬に乗せてもらったのは、もう間違いなくうちの父がメジロの先代(創設者である北野豊吉氏)にかわいがってもらえていましたから、その流れでした。」

 横山富雄騎手はメジロタイヨウで昭和44年の天皇賞(秋)、メジロムサシで昭和46年の天皇賞(春)を優勝した名騎手だった。

「タイヨウとムサシの写真が、口取り写真を家にいつも飾ってありました。僕は生まれたときからそれをずっと見て育ちました。」

第60回天皇賞の優勝式。優勝馬はメジロタイヨウ。中央で天皇盾を持つ北野豊吉氏。その右隣が横山富雄騎手。(提供:競馬博物館)
第60回天皇賞の優勝式。優勝馬はメジロタイヨウ。中央で天皇盾を持つ北野豊吉氏。その右隣が横山富雄騎手。(提供:競馬博物館)

 親子がともに心躍らせて袖を通した緑と白の勝負服。サラブレッドだけでなく、騎手にも血の歴史がある。

メジロ牧場の歴史と功績の重みを感じさせる展示品の数々

 展示品は、昭和から平成にかけてのメジロ牧場の歴史と功績の重みを感じさせる品々ばかりが陳列されている。

 まず、競馬業界で"盾"と呼ばれる天皇賞を優勝した馬主に贈られる「御紋付楯」のレプリカ(注:天皇盾と呼ばれる「御紋付楯」はひとつしかないため、表彰式では使用されるが馬主へ贈られるのはそのレプリカである)。

平成3年天皇賞(春)優勝の
平成3年天皇賞(春)優勝の"盾"(優勝馬メジロマックイーン)(提供:競馬博物館)

 そして、優勝馬にかけられるレイの数々。昭和61年に桜花賞、オークス、エリザベス女王杯(当時の牝馬三冠対象レース)を制したメジロラモーヌにかけられたレイも飾られている。

メジロラモーヌによる牝馬三冠の優勝レイ(提供:競馬博物館)
メジロラモーヌによる牝馬三冠の優勝レイ(提供:競馬博物館)

 実際にメジロライアン、メジロマックイーンなどメジロの馬たちが使用した馬具も飾られている。

メジロライアンが使用した馬具(提供:競馬博物館)
メジロライアンが使用した馬具(提供:競馬博物館)

 さらに、この展示のために集められた武豊騎手、横山典弘騎手、池江泰郎元調教師などへの映像インタビューも観ることができる。

愛馬メジロライアンの墓の前でインタビューに答える横山典弘騎手(提供:競馬博物館)
愛馬メジロライアンの墓の前でインタビューに答える横山典弘騎手(提供:競馬博物館)

昭和から平成にかけてのノスタルジーを満喫できる企画展

 博物館の展示というと、歴史ある情報を少々堅苦しくまとめあげるイメージがあるが、この展示では時代の重厚さに加え、今現在における関係者の思い入れを加味している点が特徴だ。

 これらの展示では"手紙"を積極的に取り入れている。

「実際にその馬に携わっていた人や、展示の"主役"に対するメッセージなど、現場の生の声を届けたいと考えています。過去の出来事を客観的に振り返るだけでなく、いま現在その馬や人、出来事に対する思い入れを加えるのはシンプルですがご覧になる皆さんの心に印象深く残るのでは、と考えています。」(JRA競馬博物館)

第103回天皇賞優勝のメジロマックイーン。武豊騎手は故・北野豊吉氏の写真を右手に持ち、大きく掲げている。(提供:競馬博物館)
第103回天皇賞優勝のメジロマックイーン。武豊騎手は故・北野豊吉氏の写真を右手に持ち、大きく掲げている。(提供:競馬博物館)

 今回の展示を行うにあたり、メジロ牧場を引き継いだレイクヴィラファーム(北海道虻田郡)にある多くの記念品が東京・府中の東京競馬場へ運び込まれた。

「こちらに置いてある記念品のほとんどが今回の展示で飾られています。このような企画が実現され光栄です。」(元メジロ牧場専務取締役でレイクヴィラファームの岩崎伸道氏)

 なお、これらの記念品はレイクヴィラファーム内の「メジロ牧場記念館」(要事前予約)でも見ることはできる。しかし、前述のような手紙に込められたメッセージやその時代背景や解説などを含めてストーリー仕立で見れるのは、このような企画展ならではである。

 今週、東京競馬場では本年初のGI・フェブラリーS(2月17日、ダート1600m)が行われる。このフェブラリーS当日が、この企画展の最終日でもある。レース観戦とともに、この展示で昭和から平成にかけてのノスタルジーに浸ってみてはいかがだろうか。

 2月18日追記

 特別展「メジロ牧場の歴史~”白と緑”の蹄跡~」は大盛況のうちに無事終了。最終日の閉館間際には、最終レースで騎乗を終えたばかりの横山典弘騎手が急遽駆け付けた。レース直後に現役騎手がファンエリアに登場するのは極めて稀だ。この嬉しいハプニングにファンの方々は大いに喜ばれたという。そして、改めて横山典騎手のこの展示への思い入れの深さを感じた一幕でもあった。

 今後も現役騎手がプロデュースした企画展をぜひ見たい。