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アイドルホース・オジュウチョウサンの復帰と熱きオーナーの想い

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
2018年中山GJ(J,GI)、鞍上が後続を振り返る余裕のゴール 撮影:柴谷記好

アイドルホース・オジュウチョウサンの復帰戦、迫る

いまやJRAいちばんのアイドルホースであるオジュウチョウサン(牡7、和田郎厩舎)が11月3日、東京競馬場で行われる南武特別(1000万下)で復帰する。登録は8頭。そのうち、オジュウチョウサンと同じステイゴールドを父に持つ馬が半数を占める4頭登録している。中でも人気の一角を占めるであろうブラックプラチナム(牡5、栗田博厩舎)は勝ちきれないまでもこの条件で2着を続けている手強い1頭だ。さらに父はディープインパクト、母はアパパネという三冠馬カップルの仔である2戦2勝のジナンボー(牡3、掘厩舎)も参戦予定と、少頭数ながら決して侮れないメンバーとの戦いとなる予定だ。

筆者は障害で鍛えぬいた体幹バランスの良さと底力からオジュウチョウサンを推すが、そうではない手厳しいメディアの声を多く聞くのも事実だ。

熱き長山オーナーの想い

 2018年4月14日、中山競馬場は沸きに沸いた。

 中山グランドジャンプ(J,GI)。2016年、2017年と連続して最優秀障害馬に輝き、すでに障害界の絶対王者であったオジュウチョウサンが2着馬に10馬身以上の大差勝ちをおさめたからだ。

【中山グランドジャンプ(J,GI) / Youtube:JRA Official】

 2着のアップトゥデイトとの差は1秒4。引き揚げてきたアップトゥデイト陣営は「勝った馬が強い。これだけ離されたら、何も言えません」と勝者の強さを称えた。

 筆者もオジュウチョウサンの強さは十分に承知していたが、7歳にしてレースごとに安定感を増していく姿にはただただ圧倒されるばかりだった。

 そして、オジュウチョウサンを所有する長山尚義オーナーはこの圧勝劇を見て「オジュウチョウサンをこのまま障害専門の馬として終わらせていいのか」と自問自答した。そして、そこから間もなく「オジュウチョウサンで有馬記念に挑戦する」というプランを掲げた。

 

 競馬業界において、これはとても珍しいことだ。

 過去、障害競走を経験した後に平地の重賞で活躍した例はとても少なく、GI勝ちに至ってはメジロパーマーが1992年に宝塚記念と有馬記念を制しただけである。

 仮の収支からも、その決断の大きさがわかる。有馬記念の前日である12月22日に行われる中山大障害(J、GI)の優勝賞金は6600万円だ。仮にオジュウチョウサンが中山大障害に出走したなら、これまでの実績から十分連覇が見込める。優勝賞金のうち、8割が馬主の収入となる。翌12月23日の有馬記念(GI)は優勝すれば1着賞金は3億円だが、もしも着外に敗れたなら賞金等は受け取れない。(注:1着から5着までは本賞金、6着から10着までは出走奨励金が受け取れる)しかも相手は平地ばかりで重賞戦線を戦ってきたツワモノばかりだ。

 しかし、馬主としてのキャリアが豊富な長山オーナーはそんなことは十二分に承知の上で、あえて有馬記念への出走を願った。

「自分の馬を有馬記念に走らせるのは私の夢です。」

 これまで十分に実績のある路線の延長線上ではなく、あえてさらなる高みを目指すことを選んだのだ。

「オジュウチョウサンは成長の遅れもあって3歳までのあいだに平地では勝てませんでした。でも、素質を信じてゆっくり待って、障害を走らせました。そして今、挑戦に値するだけの可能性を感じているからこそ、有馬記念を目指すことにしました。」

 2017年の有馬記念でのファン投票が行われた時点では、オジュウチョウサンは有馬記念への出走資格がなかったにもかかわらず1278票もの投票を集めた。

 今年2018年は有馬記念への出走資格である[中央競馬の平地での勝利]も開成山特別を優勝することで無事クリアした。あとはファン投票で上位に入れば、オジュウチョウサンの有馬記念出走を阻むものは、もうなにもない。

【2017年中山大障害(J,GI) / Youtube:JRA Official】

【2016年中山大障害(J,GI) / Youtube:JRA Official】

再び障害練習を取り入れて挑む

 この中間、オジュウチョウサンは調教で再び障害を飛んでいる。

 管理する和田調教師によれば「横木をまたぐ程度ですが、ウォーミングアップがわりに飛ばせています」とのことだ。

 障害は、その馬の身体を強くする。トモと呼ばれる臀部の筋肉が引き締まる、気持ちが前向きになる、集中力がつく、などのメリットを掲げる調教師は多い。今年、障害で効果的に使って平地戦で成績を伸ばした馬は、実戦にこそ出走しなかったが障害練習を経験したことで日経賞優勝まで実力を伸ばしたガンコ、障害戦を戦い続けることで以前は破れなかった準オープンの壁を突破したサトノアッシュなどがいる。

 2018年7月、オジュウチョウサンが初の平地に戦い挑んだ福島競馬場は馬券の売り上げは前年比の約2倍を記録するほどフィーバーした。11月3日はどれほど多くのファンがオジュウチョウサンに会いに競馬場へ足を運ぶのだろうか?

 南武特別(芝2400m)は9レース、出走は14時35分だ。

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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