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最下位からの巻き返し!凱旋門賞参戦のクリンチャーを狙える3つの理由

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
凱旋門賞に挑戦する日本馬クリンチャー(筆者撮影)

 日本時間10月7日23時05分、フランス・パリのロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞(GI、芝2400m)に日本馬・クリンチャー(牡4、栗東・宮本博厩舎)が参戦する。前哨戦であるフォア賞では最下位であり、その負け方も実にアッサリしたものだった。まして今回は世界の精鋭が鎬を削る凱旋門賞とあっては甘い期待は禁物だ。

 しかし、それでもあえてクリンチャーに賭けてみたい。もちろん期待できるだけの理由もある。そこで凱旋門賞でクリンチャーを狙える3つの理由をあげてみた。

1.叩き良化型。過去に二度の休み明けに超惨敗からの好成績

 クリンチャーという馬はこれまでも休み明けのレースよりも明らかに成績が良い。いわゆる"叩き良化型"である。

 人間に例えるとわかりやすい。日曜日に休養したあと、いきなり月曜日にはりきれるタイプと、そうではなく徐々に体を慣らしていってから火曜や水曜、中には週末にかけてペースを上げるタイプがいる。クリンチャーは後者なのだ。

「クリンチャーは真面目な馬なのでレースではいつも一所懸命走ってくれるのですが、調教だけで仕上げてレースへ向かうより一度実戦を使うことで心身ともにピリッとしてくることが多いのです。結果として、一度レースを使ってからのほうが成績が良いのだと思います。」(担当する長谷川助手)

 これまでクリンチャーはデビュー戦で12着と惨敗したあとの未勝利戦で後続に3馬身差をつけての快勝。夏休み直後のセントライト記念は先行するものの9着惨敗のあとGIである菊花賞で2着という成績をおさめている。凱旋門賞は叩き2戦目、これまで過去に二度、「休み明け超惨敗からの好成績」を成し遂げている。三度目はあるか?!

クリンチャーと担当の長谷川万人調教助手(筆者撮影)
クリンチャーと担当の長谷川万人調教助手(筆者撮影)

2.涼しい季節のほうが成績が良い

 馬は人間のように汗で温度調節ができない動物だ。それゆえ、夏の暑さに弱いと言われている。中には、暑さで筋肉がほぐれやすくなり活躍する馬もいる。しかし、クリンチャーという馬はそうではないようで、比較的寒い季節のほうが成績が良いのだ。

 実際、厩舎へクリンチャーの様子を見に行っても、寒い時期のほうが元気がいいように見える。

 今回、クリンチャーは凱旋門賞に向けて8月の暑い盛りに栗東トレセンに戻ってきた。凱旋門賞から逆算するとこの日程でトレーニングしなければならないのは致し方ない。しかし、この時のクリンチャーは順調には違いないのだが、真冬ほどハツラツな印象は受けなかった。フォア賞は時期的にまだ少々暑さが残る時期ゆえ、クリンチャー自身が本領を発揮しにくかったのではないか。

 その点、クリンチャーが滞在しているパリ郊外のシャンティの気候はかなり涼しくなり、馬にとって過ごしやすくなっている。朝晩はかなり冷え込むが、クリンチャーにとってはもってこいだろう。

栗東トレセンで調教中のクリンチャー(筆者撮影)
栗東トレセンで調教中のクリンチャー(筆者撮影)

3."ラビット"が飛ばす凱旋門賞のペースは前走とは大違い

 フォア賞ではクリンチャーが逃げる展開となり、事実上のペースメーカーとなってしまった。クリンチャー自身、本来は好位から差す競馬のほうが合っている。逃げて勝ったのは未勝利戦だけで、重賞ではGI菊花賞は勝負どころで先頭集団に躍り出たあと、差してきたキセキに先頭は譲ったが渋太く2着に粘っている。そして、勝った京都記念でも重馬場の中、直線を重戦車のようにしっかりした末脚で差し切っている。

 管理する宮本博調教師はフォア賞の敗戦について「負け方は昨年セントライト記念のときと似ていますね。レースの流れが向かなかった」と振り返った。そして、「凱旋門賞本番にはもっとレースを引っ張るように逃げる馬がいると思います」と他陣営がラビットを差し向けてくること示唆した。

 ヨーロッパの競馬には、勝つことが目的ではなく、ペースメーカーの任務を第一優先とする通称"ラビット"と呼ばれる馬も出馬表に名を連ねる。勝たせたい馬のためにラビットを命じられた馬はハイペースで飛ばしてレースの流れをつくり、窮屈な馬群の前方で風よけの役目もこなし、最後は任務のために自分のポジションを勝たせたい馬のために譲る。日本では日本中央競馬会競馬施行規定の第81条に「競走に勝利を得る意志がないのに馬を出走させてはならない。」と明記されているため、このような存在は認められていない。しかし、他国ではこの限りではない。

 具体的に、どの馬がラビット役を買って出るかといえば、出馬表の厩舎と馬主を見れば想像がつく。今年ならキューガーデンズのためにネルソン( Nelson )がそれを担うのではと推察する。

 クリンチャー自身のラビットはいないが、前走よりペースが上がるとみられる今回は、より自分らしい競馬ができるはずだ。

健闘を祈って

 前走に引き続き、クリンチャーとコンビを組む武豊騎手は渡仏前にJRA通算4000勝という前人未到の偉業を達成した。そして、その直後のスプリンターズS(GI)では16頭立て13番人気のラインスピリットを3着に導いた。これまでは武豊騎手が騎乗するだけで人気を集めてしまうこともあり、大穴をあける印象はなかった。しかし、最近は外国人騎手や若手の台頭もあり、以前ほど武豊騎手だけに人気が被らなくなった。でも、これが馬券を狙う側にすれば旨味になる。名手・武豊騎手はこれまでどおり人気を背負っても強いし、人気薄でも頼れる。先週もラインスピリットの激走には陣営からも「さすがユタカ。上手い」と絶賛の声が響いていた。

 凱旋門賞を前に武豊騎手は「ワクワクする」と話していた。前走惨敗のクリンチャーだが、応援するファンも十分ワクワクできるだけの理由はこのとおり、ちゃんとある。出走メンバーには昨年の覇者で史上7頭目となる二連覇を狙う女傑・エネイブル、フォア賞を制したヴァルトガイスト、総勢5頭を出走させるオブライエン厩舎勢の中で最も有力視されているキューガーデンズなど精鋭が揃っている。だが、出走する限りチャンスはある。クリンチャーの健闘を心から願う。

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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