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未来を担う生徒会リーダー研修とは?―総理や大臣を輩出する松下政経塾の話から海外の生徒会先進事例までー

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事
(写真:アフロ)

来月末、8月29日に、「高校生徒会オンラインリーダー研修2021 with 松下政経塾」というオンラインイベントが開催される。

全国の生徒会に関わる高校生たちや、生徒会顧問の先生方など、その育成に携わる教育関係者の皆さんは、是非、参加してみてはどうだろうか。

主催する一般社団法人生徒会活動支援協会は、毎年、松下政経塾での高校生徒会のリーダー合宿を実施してきた。全国の高校から「学校のリーダー」である生徒会役員が集い、1泊2日で交流を深めるとともに、これからの学校を担う「リーダー」とはどうあるべきなのか、「リーダーとして目指すビジョン」とは何なのか、互いに切磋琢磨して探求する場となっていた。

新型コロナウイルスの感染拡大などもあり、宿泊をともにする合宿が難しいため、昨年からはオンラインでの1日の研修となったが、宿泊合宿の際には定員も少なく、毎年、応募が殺到しながら人数制限のためお断りしてきたが、昨年は全国からこれまでにない多くの生徒が参加したほか、合宿ではお断りしてきた生徒会顧問など教育関係者などの参加も可能となった。

総理大臣や大臣など与野党の多くの国会議員も輩出している松下政経塾でおこなっているリーダー育成の一端を感じたり、日本ではあまり共有されることのない海外の生徒会先進国ではどういった活動がなされているのかを知って行くことは、高校生たちにはもちろん、生徒会などを指導する教育関係者の皆さんにとっても非常に価値のある経験になるのではないだろうか。

<参考>「高校生徒会オンラインリーダー研修2021 with 松下政経塾」募集要項

https://seitokai.jp/aboutus/summer2021

菅内閣でも官房副長官・副大臣を輩出。総理・大臣などの輩出を続ける松下政経塾とは

松下政経塾といえば、現職の官房副長官や副大臣なども含め多くの政治家を輩出してきた。与党では、小野寺五典 元防衛大臣、高市早苗 元総務大臣、松野博一 元文科大臣などがいるほか、野党には、野田佳彦 元総理大臣、立憲民主党の福山哲郎 幹事長、国民民主党の前原誠司 元外務大臣など、与野党を超えて国会議員33名、県知事2名、市長11名などを輩出している。

ご存知の方も多いかもしれないが、松下政経塾とは、パナソニックの創業者である松下幸之助氏が、「我が国を導く真のリーダーを育成しなければならない」との思いで1980年に開塾した私塾であり、理想社会のビジョンをつくり、その実践者になるために未来のリーダーたちが、自修自得・現地現場で研修することをモットーに活動する塾であり、卒業生は、政治家、企業経営者、社会起業家、研究者など、さまざまな分野で活躍している。

最近では、将来の日本を担う高校生・大学生を対象に、人生について考え、志を探究するプログラム、主権者教育プログラム、「松下幸之助杯スピーチコンテスト」など、次世代のリーダー育成にも意欲的に取り組んでいる。

<参考> 松下政経塾

https://www.mskj.or.jp/

<参考> 第2回 松下幸之助杯スピーチコンテスト

https://www.mskj.or.jp/event/event626.html

「経営の神様」として、現在も多くの経営者たちが、参考にする松下幸之助氏だが、85歳だった当時、松下政経塾入塾式で若者たちに伝えた話を抜粋して紹介したい。

ますます日本も世界も混迷している。自分が40年ほど若返ることができるなら、自分で世直しの先頭に立ちたいとさえ思いました。「やろう」「やめよう」と思い続けました。しかし、歳をとってからでは叶いません。それで、自分に代わって若い諸君に未来を託したいと、あらためて松下政経塾の設立を決めたのです。

政経塾の使命は、国家百年の計を創り、実践し、日本を救い、世界を救い、人々の幸福に尽くすことです。塾生は身命を賭して、この使命に徹しきって欲しいと思います。使命は重大です。「それを、諸君、やろうじゃないか」というのが、私から皆さんへの呼びかけです。

筆者は松下政経塾の塾生ではないが、松下政経塾の塾生の皆さんに講義をさせてもらうなど、何度となく松下政経塾に行かせてもらったが、松下幸之助氏の様々な教えや話は、現在も色褪せることがないどころか、「日本も世界も混迷している」状況はむしろ拍車がかかっているように思う。

一方で、政界においても、経済界においても、「国家百年の計を創り、実践し、日本を救い、世界を救い、人々の幸福に尽くすこと」ができる人材は未だ少なく、その価値は、40年前よりもさらに高まっていると言える。

次の時代を担い、それを切り開いていくリーダーたちにはまさに、「それを、諸君、やろうじゃないか」と伝えたい。

出典: 一般社団法人生徒会活動支援協会 高校生徒会リーダー夏合宿2019in松下政経塾
出典: 一般社団法人生徒会活動支援協会 高校生徒会リーダー夏合宿2019in松下政経塾

現代における未来へと導くこれからのリーダーを生み出す場としての生徒会の可能性

新型コロナウイルスの感染拡大によって、今、世界中が、withコロナ、afterコロナの社会像や未来を模索している。

2021年の現代において、求められる未来へ導くこれからのリーダーとは、どういうものなのか、どうすればこうした真のリーダーを増やしていくことができるのだろうか。

その一つとして、筆者は、「生徒会」に大きな可能性を期待している。

全国のほとんどの学校に存在し、多くの方々がその存在を認識している一方で、生徒会については、本来どういった役割があるのか、現在の社会状況の中における新たな役割と形とはといったことは、これまであまり議論されることがなかった。

現状の生徒会活動は停滞し、その多くが本来的な役割が担えていないと言っても過言ではない。

今では、多くの方々にとっての「生徒会」のイメージは、文化祭などのイベント実施組織や、ボランティア組織、役員だけによる教員たちの御用機関、という印象を持っている方々もいるかも知れない。

さらに言えば、こうした役割すら、昨今は新型コロナウイルスの影響でままならない状況にすらなってしまっている。

唐突ではあるが、「生徒会」とは、そもそもどうやってつくられたかご存知だろうか。

生徒会は戦後、連合国総司令部(GHQ)幕僚部の部局の一つ、民間情報教育局(CIE)の指導のもと日本に持ち込まれた教育組織だ。

戦前にも部活動の源流となる「校友会」があり、ほぼすべての課外活動を計画していたが、会長は校長が務めていた。

戦後、日本の教育の指針となった『米国教育使節団報告書』の中で「Student Council」が「学生評議会」として紹介され、1946年頃からGHQの指導により「生徒自治会」(Self-Government Committee)という組織が「教育民主化」の一環として全国化され各校に設置されたとされている。

<参考> 「生徒会」のルーツを探れ:生徒会歴史シリーズ第1回

https://seitokai.jp/archives/1071

withコロナにおいて進化する生徒会

昨年3月、全国の多くの学校が、新型コロナウイルスの感染拡大によって休校となった。教育現場は大きく変わって行くことを余儀なくされ、これをきっかけにオンラインによる授業実施など、教育現場においてもICTを活用した様々なデジタル・トランスフォーメーション(DX)が起こり始めてきている。

生徒会活動においても、昨年は多くの学校で活動が停滞し、活動がほとんど実施できていない学校も多く、全国で文化祭などの活動も中止になった。

「高校生徒会オンラインリーダー研修with 松下政経塾」を主催する一般社団法人生徒会活動支援協会では、全国で活動する「生徒会」のベストプラクティスを集め、共有することで、全国の生徒会活動の質の向上や底上げを行なっていこうと、毎年、「日本生徒会大賞」の表彰も実施している。

昨年の「高校生徒会オンラインリーダー研修with 松下政経塾」では、この日本生徒会大賞の大賞受賞者のプレゼンも実施、全国のベストプラクティスの共有も行われた。

個人の部で大賞を受賞した章子昱さん(東京・桐朋)は、生徒会活動における「リーダー」として、学校内での生徒会活動に留まらず、地域の生徒会を集めた生徒会団体である多摩生徒会協議会の代表として、積極的に多くの活動を実践してきた。新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、多くの学校で文化祭が中止となる中で行なった「新型コロナウイルス感染拡大に伴う文化祭における各学校での対応に関する調査」は、多くの学校にとって参考になる非常に価値の高い調査となった。また自校における生徒会活動でも、文化祭で実際に来校して学校見学ができなくなった受験生や保護者向けに、Zoomを用いた「生徒会による個別学校相談会」を企画。実施に際しては企画書を教員に提案した上で実現している他、高校生たちが文化部活動の講師として小学生たちに教える「ウィンタースクール」を企画、その実施に際しては自校の教員はもちろん、国立市教育委員会にも企画書を提出して行うなど、学校や自治体とも連携した様々な取り組みを実施した。コロナ禍においては、生徒会団体でマスクを作り必要な施設に届ける「TAmask Project」などの実施も報告された。withコロナ時代における生徒会のあり方は、今後の大きな課題の一つであり、社会状況の変化の中で、生徒会活動も大きな変化が求められる。こうした中で、状況の把握や課題の共有、さらにそれをアクションにまでつなげて行こうという積極的な取り組みは、現役の高校生たちにとっては、新たな生徒会リーダーの可能性のように感じたのではないか。

学校の部の大賞は、山崎学園富士見高等学校が、2019年度に続き2年連続の受賞となった。前年度時点で既に高い水準にあった各活動について、前年を踏襲するのではなく、「なぜその活動を行っているのか」、「目的に対応した現状の課題はなにか」、「課題を解決するためにはどのような施策を行うべきか」を自主的、かつ徹底的に分析し、生徒会役員のみならず、生徒全体を巻き込みながら改善を図っていくことで、応募全校の中で最も傑出した水準の活動を実現していた。例えば、生徒会活動に全校生徒を巻き込んでいく取り組みである「アイディアペーパー」についても、その再認知と課題の洗い出しのための全校アンケートを実施して、設置場所や意見に対するフィードバックの方法を見直したほか、今回の新型コロナウイルス感染症拡大に伴う休校期間中も、Google ClassroomとGoogle FormなどのITツールを組み合わせて継続的に活動を続けるなど、生徒に対する働きかけを継続することで、より優れた取り組みへと昇華させていた。また、生徒会総務や各委員会の活動についても、それぞれ問題発見・問題解決のプロセスを徹底して繰り返し、学校外の様々な組織とも連携を図りながら、充実した活動を作り上げているなど、常にさらに高水準の活動へと改善していこうとする取り組みは、全国の生徒会活動の参考になった。

現役の生徒会役員である高校生たちにとっては、松下政経塾による講演や、世界の先進事例の共有ももちろんだが、peer to peerとも言われる同世代の先進事例の共有は多きな刺激になる。

<参考> 日本生徒会大賞2021の審査結果について

https://seitokai.jp/archives/5227

この「日本生徒会大賞」は、2021年度も実施されており、今年も8月29日に行なう「高校生徒会オンラインリーダー研修2021 with 松下政経塾」で大賞受賞者のプレゼンを予定しているという。

新たな時代における「新しい生徒会モデル」、また次世代の「リーダー養成プログラム」を、一人でも多くの生徒会に携わる高校生、また、その育成に携わる教育関係者の皆さんで体験してみてはどうだろうか。

<参考> 「高校生徒会オンラインリーダー研修2021 with 松下政経塾」募集要項

https://seitokai.jp/aboutus/summer2021

「それを、諸君、やろうじゃないか」

<高橋 亮平>

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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