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民間感覚では考えられない政務調査費はじめ地方議会のありえない報酬実態

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

問題となった地方議会の「政務調査費」の現状を調べてみた

先日、テレビ朝日の「林修の今でしょ!講座」という番組で、地方議会の問題についていくつか取り上げてもらった。事務局長を務めるNPO法人「万年野党」で、理事をやっている岸博幸さんから相談を受けて、ネタ出ししたものだったが、こうした議会の本質とは少しズレた所ではあるが、それでも地方議会や地方政治などへの関心が高まるキッカケになっている事は、大いに歓迎する事である。

こうした機会に、地方議員や行政職員にも、地方自治の現状や課題を幅広く共有してもらいながら、地域で起こっている現場の問題をともに解決する主体者になってもらえればと期待する所だ。

ただ、そうは言っても、これまで関心を持って来なかった人達が、べき論で地域参画を始めるとは思えない。

そこで、今回は、こうしたある種ワイドショー的なネタから、地方議会に関心を持ってもらえればと、「地方議員の報酬」「第2報酬とも言える政務調査費の実態」など、民間感覚では「ありえない!」という様なものを紹介して見たいと思う。

兵庫県議による不正利用についてが問題になり、注目され始めた政務調査費だが、実際にいくらぐらいの額が支払われているのだろうか。

今回は、全国に811ある市についてのデータで見ていく事にしよう。

2012年時のデータになるが、調査対象811市のうち、政務調査費は85.9%に当たる697市で交付されている。

その内、月額30万円以上支払われている自治体が13市(1.9%)あった。その全ての自治体が政令指定都市だった。

月額20~30万円未満でも12市(1.7%)ある。この内3市が政令指定都市、5市が人口50万以上と大きい自治体ほど政務調査費も高くなっている傾向がある。

以下、月額10~20万円未満が54市、5~10万円未満が82市、3~5万円未満が104市、2~3万円未満が161市、1~2万円未満が214市と最も多く、1万円未満が57市だった。

それぞれその中間の額(30万円以上については40万円として)で平均を出してみると、議員1人につき月額4.9万円が支払われている事になる。

図表: 政務調査費の議員1人あたりの交付月額

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公布の仕方にも色々と課題はある。

一昔前までは、この政務調査費、領収書すら添付がなかった。

民間感覚から見れば多くの人が驚くのではないだろうか。

現在では、対象となる697市のうち680市では領収書添付とされているが、2市では一定額未満には領収書の添付がなく、さらに15市には未だに領収書を添付していない。小さな自治体だけだろうと思っていたら、人口50万以上の自治体の中にも領収書添付が義務付けられていない自治体があったのには驚かされた。

また、交付時期の問題もある。

交付時期については、月公布、四半期公布の自治体もあるが、政務調査費を公布している697市のうち、35.7%に当たる249市は、半年に1回の前払い。49.1%と約半数に当たる342市については、1年分が前払いとなっている。

支払ったものに対し、領収書を持って後払いというのが基本の民間の感覚からすれば、あり得ない状況が当然の様に行われている。

こうした政務調査費については、報酬ではないため非課税になっている事も問題として加えておこう。非課税でありながら、実質、自らの第2の報酬の様に扱われている実態があるのだ。

地方議会には、さらに「第3の報酬」とも言える「費用弁償」がある

議会には、こうした「第2報酬」とも言える「政務調査費」の他に、さらに「第3報酬」とも言える「費用弁償」についても紹介しておきたいと思う。

地方議会にも本会議や委員会などの会議に出席した場合、会議に参加するのに必要な費用を弁償するという仕組みがあるのだ。

費用弁償については、全市811市のうち半数近い359市で現在も支給されている。

実際に日当で支払われている135市のデータを見ていこう。

図表: 費用弁償の日額(定額)の支給額別内訳

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政務調査費に比べ、額としては小さい様にも見えるが、10日間議会に出れば、この10倍になる事を考えれば、月額ではそれなりの金額になる。

何より、議員としての報酬を別でもらいながら、議会活動を行った事で、費用が弁償されるという事が、二重報酬ではないかという指摘が聞こえてきそうだ。

もちろん役所までの交通費などと良心的に考える事もできるが、自治体の規模こそはあれ、多くのサラリーマン・OLたちが満員電車で通勤している事などを考えれば、住んでる市の中での仕事であり、住勤一体のモデルの様な仕事の様な気もする。

こうした事を考えるとおかしな事だらけの費用弁償である。

費用弁償については、受け取る事の説明がつかないと、受取らないと宣言をしている議員もいる。

こうした部分については、今後、さらにしっかりと考えていく必要があり、有権者もまた、こうしたズサンな税金利用については、厳しくチェックをしていかなければならない。

地方議員報酬は、自治体によって月額18万~93万円

最後に、「議員はいったいいくらぐらいもらえるんだ?」という部分についても触れておく事にしよう。

2013年12月現在で、全国812市の市議会議員報酬平均は、月額41.4万円。

人口規模によってその額は少し異なり、人口5万人未満の自治体では平均月額32.5万円、5~10万人未満になると38.3万円、10~20万人未満だと45.9万円、20~30万人未満だと54.4万円、30~40万人未満だと57.6万円、40~50万人未満だと61.9万円と増え、50万人以上の自治体の月額平均は69.6万円と、自治体規模によって議員報酬は増えて行く傾向にある。

ただ、こうした人口規模の中にも額の差は大きい。

人口5万人未満でも最高額だと月額45.0万円をもらっている自治体もあるが、逆に最も少ない自治体だと18.0万円しかもらえないという市もある。

5~10万人未満の自治体では、最高額61.6万円の一方で、最低額は22.2万円となる。

以下、10~20万人未満の自治体では、最高額62.0万円、最低額31.2万円。

20~30万人未満では、最高額67.0万円、最低額43.5万円。

30~40万人未満では、最高額66.0万円、最低額51.5万円。

40~50万人未満では、最高額70.0万円、最低額55.0万円。

50万人以上になると最低額こそ50.0万円だが、最高額になると月額93.0万円という自治体まである。

自治体ごとの議員報酬については、また別で書こうと思うだ、同じ市議会議員であったとしても月額にして、18万円から93万円まで5倍以上の差があるのだ。

議員報酬に関するデータの多くは、こうして月額での公表になっているが、議員には、この月額の他に、6月と12月に期末手当がある。

こうした部分にもまた、有権者から見え難くしているのではないかと思ってしまう所がある。

ただ、こうして考えていくと、報酬だけでいくら、さらに政務調査費に、費用弁償と積み重ねるとだいたいの費用が見えてくるはずだ。

こうした事をキッカケに地方議会についても考えてもらいたい

今回は、こうして「議員報酬」、「政務調査費」、「費用弁償」など、議員に関わるお金に焦点を当てて紹介して来た。

議員にかかる費用は、実はこの他に、委員会視察など行政視察は、政務調査費とは別に出ているなど、色々な形で税金が使われている。

自分の自治体の議会に関する費用が見たければ、予算書や決算書を見てみれば、その中に「議会費」として計上されている。

また、議員の報酬なども自治体ごとの報酬を調べたければ「決算カード」が自治体ごとに公表されているので、それを見てみるのもいいのではないかと思う。

ただ、こうした風潮の中で、ステレオタイプに、「政務調査費をなくせ」「政務調査費の額を少なくしろ」というのは、本質ではない。

公務員バッシングしかり、地方議員に対しても、「議員定数を減らせ」「議員報酬を減らせ」という声をよく耳にするが、そんな事は、この問題の本質でもなければ、問題解決にもならない。

地方議会が何の為にあって、どういう議員が必要なのか、何をすべきなのかという所から、しっかり市民のために働く議員を送り込む事が重要であり、議員報酬に見合った活動をする政治家を選んで行く事、同様に、政務調査費についても、こうした住民に必要な調査活動の本質に活用される様に変えて行く事が最も重要であるという事を理解してもらいたいと思う。

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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