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参院選の焦点は今の日本しか考えないのか将来の日本を考えるのか。本気で既得権と戦える構造改革人材を選べ

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

参院選が公示となり、最初の選挙サンデーを終えた。公示となって既に4日が過ぎたが、選挙運動は国民生活にはまったく影響がなく、この炎天下の中、窓を占めてクーラーをかけていては、選挙をやっている事すら感じられない人も多い。政治の世界から少し離れただけで、ここまで選挙が遠いのかとあらためて感じる。

しかし一方で、この国の政治課題は、政治に関心を持たなければ、国民に影響がないというわけにはいかない。

この国の政治課題は、有権者が意識している以上に深刻だ。国の借金残高の対GDP比は、224.3%まで高まっており、米国113.0%、英国110.4%、ドイツ86.2%、フランス108.2%、イタリア129.6%、カナダ85.5%と比較しても極めて大きい。1998年には114.9%だった事を考えれば、この15年もの間に、どれだけこの国の借金の負担が増えているかが分かる。こうした財政状況の改善と、実質破綻している社会保障をどう持続可能なものにしていくかは、今後のこの国の最も大きな課題であると言える。こうした社会システムをどう持続可能なものへと転換するか、推進か廃止へかは別として、原発の問題をどうして行くかも長期的な重要課題と言える。財政問題は、財政規律で改善するだけでは、この国自体がジリ貧になる。その意味でも一方では、経済成長をどう実現していくのかも重要な課題だ。経済成長だけで、実質的に破綻した社会システムが持続可能になるわけでもなく、財政状況と社会システムの転換は、同時に求められる。直近で必ず必要になる政治課題だ。

持続可能な社会システムの転換には、既存の社会保障等を受け取っている既得権があり、経済成長においては、規制緩和など競争力を高めていくためには、既存の仕組みで利益を得ている既得権がある。将来を見据えた変革の本質は、こうした構造をどう改革していくかにある。言い換えれば、「長期的な視点でこの国の本来あるべき姿へと転換を図るため、既存の既得権にどう切り込んでいくか」だとも言える。

どの政党の政策を見ても、その多くは、長期的な国の形や政治課題については、曖昧にしたまま、もしくは触れない様にしている。選挙公約の多くは、直近の政治課題の解決が中心になっており、支持基盤の既得権への配慮がある様にも感じる。

今回の参院選を考える際に、前提として押さえておかないといけない事は、この参院選を終えると、3年間、国政選挙がない可能性が高いということだ。「争点なき参院選」と報じられる事で、投票率が極めて低くなる事が危惧されているが、これから3年間の間に、この国に転換が求められる課題は山積であり、選挙に関心を持たなかった多くの国民が、「こんなハズじゃなかった」「知らなかった」と言い出すのは、目に見えている。

最大の争点と揶揄される「ねじれの解消」は、政府と議会との関係はスムーズにするものの、その事が、皮肉にも総選挙を減らし、有権者と政治の距離を広げる事がある。

選挙の際に、議論のあった課題については、まだしも、議論にならずに、この3年間で解決が求められる中長期課題は、国民不在の中で政府と議会の中で決定されていく可能性があるのだ。

こうした背景を考えると、今回の選挙で、とくに気をつけなければならない事がある。

同じ政党の中にも、考え方が違うどころか、むしろ既得権の代弁者として、構造改革の足を引っ張るのではないかと思う様な人たちを内在しているという事だ。参院選の場合、その選挙構造から、とくに全国比例区では、タレント議員や業界団体の代表が多い。こうした業界から送られた候補者の中には、既得権に縛られた候補者も多く、場合によっては、抵抗勢力になる事もある。この国の将来を憂い、改革を進める政党を支持しようと投票した事が、逆に既得権の代弁者である抵抗勢力を増やすという事になりかねないのだ。

この国は、今、まさに今後の分岐点を迎えているとも言える。選挙がない3年間を実質的に国会議員や政党に信任してしまう可能性がある中で、こうしたタイミングで、政治の質を高めるためにも、有権者は、過去に行った失敗を繰り返す事のない様にする必要がある。

そのためにも、支持政党での選択だけでなく、これからの日本のリーダーとしてどういう議員を国会に送り出す必要があるのかと考えてもらいたいと思う。

今回の参院選が始まる前段で、国会における本会議や委員会などの全議事録1年分を読み、10時間以上、委員会質問の動画もチェックした。国会での質問を見ると、いわゆるメディアでの国会議員の印象と違うものも見えてくる。知名度の少ない議員や、ハデな演出がなくても、地道にしっかりと仕事をしている議員もいる。

全ての有権者に、こうした作業をしてもらうという事は、不可能だ。しかし、国政選挙は、決して人気投票ではない。自らの生活や、投票する権利すら持たない子どもたち、孫たちの将来のためにも、有権者の責任を持って、望んでもらいたい。

そろそろ、この国の政治や経済が衰退している事を「政治家のせい」にするのはやめ、「有権者自らの責任」として自覚を持って挑んでみるというのはどうだろうか。

<参考>

万年野党 国会議員質問力評価「国会議員の通信簿」

http://www.facebook.com/mannenyato

国会議員の活動データを集積する会

http://www.facebook.com/giindata

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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