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震災10年、働けど豊かにならない家計のカラクリ #あれから私は

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
写真はイメージです。(写真:アフロ)

10年前のあの時、私は都内から事務所のあるJR戸塚駅へ戻る最中でした。戸塚駅で下車したところ、少しふらつきました。今思えば揺れ始めでした。階段を降りて改札へ向かうと命の危険を感じるほどの揺れと、地下が潰れるのではという恐怖から改札を出ると走って地上へ出ました。周りには建物から避難してきた人がいて、自分の体感よりも大きな地震であったとわかりました。

リーマンショックを体験し、しばらく大きな出来事はないだろうと、私自身が根拠なく安心していた矢先でした。立て続けに起こる危機に自身の今後の仕事について、大きな不安を抱えたことを覚えています。

給料は上がったが家計は苦しく?

あれからこれまで、私たちの家計はどう変化したでしょう。収入と支出の状況をみてみると、いずれも金額は増えています。

■2011年

最低賃金(全国)737円(厚生労働省)

平均給与409万円(国税庁・民間給与実態統計調査)

1ヶ月の消費支出247,223円(総務省・家計調査)

■2019年

最低賃金(全国)901円(厚生労働省)

平均給与436万円(国税庁・民間給与実態統計調査)

1ヶ月の消費支出249,704円(総務省・家計調査)

収入の増加ぶりに比べて支出は抑えられているように見えます。しかしさらに10年さかのぼり、20年前をみてみると・・・

■2002年

最低賃金(全国)664円(厚生労働省)

平均給与454万円(国税庁・民間給与実態統計調査)

1ヶ月の消費支出 174,690円(総務省・家計調査)

平均給与は20年前のほうが高く、2011年で下げ止まった後、やや回復しただけといえます。一方で、消費支出は20年前が最も低く、その後上がり続けています。収入は増えずに支出が増えている状況で、生活が豊かになったわけではないのです。

増える税金と社会保険料

消費支出の実態は社会保険料も含まれており、保険料値上げを考慮する必要があります。社会保障関連の支出を確認しましょう。

■2002年

消費税率 5%

健康保険料率 8.5%(全国健康保険協会)

介護保険料率 1.07%(全国健康保険協会)

国民年金保険料 13,300円(日本年金機構)

■2011年

消費税率 5%

健康保険料率 9.5%(全国健康保険協会)

介護保険料率 1.51%(全国健康保険協会)

国民年金保険料 15,020円(日本年金機構)

■2019年

消費税率 10%

健康保険料率 10.00%(全国健康保険協会)

介護保険料率 1.73%(全国健康保険協会)

国民年金保険料 16,410円(日本年金機構)

収入が回復しても、天引きされる社会保険料の他に、消費税、年金保険料は上がり続けています。そのため、収入が変わらなかったとしたら、手取りは確実に減少しています。

この間、物価指標となる消費者物価指数CPIは、ほぼ一定です。しかし、実生活では日常生活に必要な物資の価格は、内容量の減少に伴う実質値上げが行われ、体感として物価上昇が起こっています。

その間、政府は何をしていたのか、私達には伝わってきません。

増え続ける国家予算

国家予算(一般会計、当初予算)

2002年81.2兆円

2011年92.4兆円

2019年101.4兆円

国家運営に必要とされる予算はあれから10年で10兆円近く増えています。20年前と比べれば20兆円の増加です。10兆円の予算は、2020年に実施された定額給付金として考えれば、一人あたり8万円払える金額です。私達の生活の豊かさには直結しない使いみちに、税金は使われていると言えそうです。

将来が不安だから貯蓄に励みます。余計消費にお金が回らないという悪循環。銀行、証券、保険の金融業界は市民生活を豊かにすることができませんでした。頼みのiDeCoとつみたてNISAの成果がでるのは数十年後。財布の紐を緩めることは到底できない状況です。

お金の問題の改善策は、

(1)収入を増やす

(2)支出を減らす

(3)資産運用でお金に働いてもらう

の3つしか方法がありません。

景気が低迷してくると、収入が増えず、資産運用が困難となるため、支出を減らす「節約」に焦点があたりがちです。しかし、節約はお金を回さないことに繋がりますから、景気がよくなるはずもありません。

お金を回すには、私達が安心して暮らせるという安心感を有する必要があります。そのための安心感は、10年経っても抱けません。それどころか、ますます不安を抱かざるを得ないのではないでしょうか。

コロナの影響がなかったとしても、私達の生活環境は更に厳しさを増しているように見受けられます。私達が手軽に取り組める事の代表格は家計の見直しです。

家計の見直しは、

(1)単価を下げる

(2)頻度を下げる

(3)代替支出に置き換える

の3つが基本です。帰省を例にするなら、盆暮れゴールデンウイークを避ける、帰省回数を減らす、オンライン帰省に切り替える、となります。乾いた雑巾のように1円も支出が減らせない場合もあるでしょう。

どうしようもない場合は、行政を活用してください。制度は使ってなんぼ、使い倒しましょう。行政がうまく対応してくれない場合は、法律の専門家など無料で力を貸してくれる団体もあります。制度を正しく活用し、苦しい今を耐え忍びましょう。

お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料の専門家マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「保険チョイス」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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