重力波発見の大ニュースに、すぐ第一人者・大栗博司さんの解説記事を出せたわけ

4キロ先まで伸びる重力波観測装置LIGO=米ルイジアナ州 (c)朝日新聞社

「重力波を直接観測」という大ニュースが2月13日付朝刊各紙の一面に踊った。午前8時に重力理論の第一人者・大栗博司さんによる解説記事を公開したのが朝日新聞のWEBRONZAだ。神ワザ対応の舞台裏は――。

科学ファンにはおなじみの大栗さん

カリフォルニア工科大学の物理学者大栗博司さんは、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員も兼ねる重力理論の専門家だ。いや、重力の最先端の理論である「超弦理論」の第一人者と言うべきだろう。『重力とは何か』(幻冬舎新書)『大栗先生の超弦理論入門』(ブルーバックス)などの著書で科学ファンにはよく知られている。

日本科学未来館がドームシアター用につくった30分映画『9次元から来た男』の監修も手がけ、1月にあった完成試写会では、この映画の背後にある時空の最新理論について解説した。

突然届いたメール

大栗さんからメールが届いたのは、このときお目にかかって2週間ほどたったときだった。

「来週WEBRONZAに記事を書く材料があるかもしれないのですが、たとえば日本時間で金曜日に原稿をお送りしたら、いつ配信していただけますでしょうか」。

WEBRONZAというのは、朝日新聞社が運営する有料WEB媒体で、大栗さんには科学・環境ジャンルのレギュラー筆者をお願いしている。文面はこれだけだったが、ピンと来た私は「それは、すぐに配信した方がいいようなネタなのですね? 金曜日の何時に当方に届くのでしょうか?」とだけ返信した。

実は年明けから「重力波が発見されたらしい」というウワサが飛び交っていた。重力波とは、100年前に発表されたアインシュタインの一般相対性理論によって存在が予想される「時空の揺れ」である。多くの研究者が発見を目指してきたが、いまだに直接的な証拠は得られていなかった。過去に「重力波を見つけた」と主張した研究者はいたが、ほかの人が実験しても同じ結果は得られず(再現性がない、ということですね)、ごくごくわずかな「時空の揺れ」を観測するのは技術的に極めて難しいことが年を重ねるにつれてわかってきたという状況だった。

重力波観測装置LIGOの一般公開=米国ルイジアナ州、小林哲撮影(c)朝日新聞社
重力波観測装置LIGOの一般公開=米国ルイジアナ州、小林哲撮影(c)朝日新聞社

小さな測定器ではだめだったので、米国は一辺4キロにも及ぶ巨大なトンネルが直交する装置を2箇所に造り、重力波発見の一番乗りを目指した。それが観測を始めた途端、「重力波をキャッチ?」という情報がツイッターなどで漏れ出していたのである。

だから、すぐにピンときたのだった。しかも、その前に別の有力物理学者から「あのウワサは本当らしい」というメールを貰っていて、これはもう間違いないと私は確信した。

とはいえ、正式発表がなければ、本当のところはわからない。新しい素粒子「ヒッグス」をめぐって、発見のウワサが世界を駆け巡ったとき欧州合同原子核研究機関(セルン)がわざわざ否定したという「前科」もある。このときは1年後に「確かに発見した」とセルンが発表したのだが、今回もそういう経過をたどらないとも限らず、慎重に当たらなければならない。

日本時間の深夜に始まった記者会見

米国の研究チームによる記者会見が日本時間の12日(金)午前0時半に設定された。

大栗さんとは、お互いに何の話かいっさい触れずに、原稿がいつできあがるかを詰めていった。「原稿は書いてあります」ということだったが、「記者会見の様子を見て書き足したい」とおっしゃり、当方に原稿が届くのは12日午前4時ぐらいになるということだった。

本当は、記者会見の前にできている分だけ送ってもらえると助かるのだが、律義な大栗さんはそういうことはしない。しないとわかっているので、お願いもしなかった。

こうして、早起きして原稿を待ち構え、届いたのが午前5時22分。1時間ほどで原稿を整えて送り返し(ここだけの話ですが、原稿の中で62と書くべきところを65と書いてあるミスをワタクシ発見して直しました)、さらにそれに直しが入り、写真や図版も配置して記事を完成させ、午前8時に公開した。

世紀の大ニュースを伝える記者会見の開始からわずか7時間半後、重力研究の第一人者による速報解説記事を皆さまのお手元に届けることができたのだ。朝食も食べずに奮闘した甲斐があったと、しばし編集者冥利にひたった。

「わかりやすい」と好評、小学生新聞の拙コラム

その後、朝日小学生新聞のコラム「天声こども語」に重力波の初観測のことを書いたら、何人もの知り合い(大人です)から「ようやくニュースの意味がわかった」というコメントを頂戴した。こちらは筆者冥利というものだ。大人の方にはぜひ大栗原稿をお読みいただきたいが、天声こども語(373文字、2月17日付朝日小学生新聞掲載)もよろしかったらどうぞ。

「重力波を初観測」というニュースが先週、新聞各紙の一面を飾りました▼宇宙には、太陽よりさらにずっと重い星がたくさんあります。そんな天体どうしがぶつかると、空間自体がぶるぶるふるえてしまいます。そのふるえが伝わってくるのが重力波です▼ちょうど百年前に物理学者のアルバート・アインシュタインが存在を予言し、多くの研究者が見つけようと努力してきました。しかし、確証は得られませんでした。本当にわずかなふるえだからです▼今回は長さ4キロにも及ぶ大きな装置を米国に二つつくり、二つともでキャッチしたので間違いないと見られています。観測データを詳しく調べたら、太陽の36倍と29倍という重さの天体どうしが13億年前にぶつかった可能性が高いとわかりました▼アインシュタインの理論のすごさとともに、装置やコンピューターの進歩があったお陰で生まれた世紀の大ニュースです。