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護衛艦「いずも」と「かが」の軽空母化、F35B搭載の改修費61億円を予算計上

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
海上自衛隊史上最大の艦艇であるいずも型護衛艦1番艦「いずも」(写真:海上自衛隊)

政府は12月24日、過去最大の5兆4005億円に及ぶ2022年度防衛予算案を閣議決定した。中国が表向きの公表ベースだけでも日本の4倍以上に当たる国防予算を投じ、軍事力を増強する中、防衛省は南西諸島周辺を中心に防衛力強化を急ピッチで進めている。

●いずも型護衛艦の改修に61億円

2022年度防衛予算では、海上自衛隊のいずも型ヘリコプター搭載護衛艦1番艦「いずも」と2番艦「かが」に、短距離離陸と垂直着陸が可能な最新鋭ステルス戦闘機F35Bを搭載できるよう、改修費として61億円が計上された。今夏の概算要求では67億円を見込んでいたが、「価格交渉結果によって6億円が削減された」(海上幕僚監部広報室)という。

筆者が東京特派員を務める英国の軍事週刊誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、かねて「いずも」と「かが」を、「ひゅうが」「いせ」と同じ「ヘリコプター空母」とみなしている。予算案が国会で認められれば、「いずも」と「かが」は「ヘリ空母」からまた一歩、正真正銘の「軽空母」に近づく。軽空母化は、西太平洋への進出がめざましい中国軍を念頭に抑止力を強化する狙いがある。

航空自衛隊が戦闘機を運用するために必要な2400メートル以上の滑走路が設置されている飛行場は全国20ヵ所にとどまる。特に太平洋上では硫黄島にしかない。このため、広大な太平洋での日本の海と空を守るため、いずも型護衛艦を軽空母化し、洋上でF35Bを発着艦できるよう政府は目指している。

防衛省によると、海上自衛隊史上最大の艦艇であるいずも型護衛艦の「いずも」と「かが」の改修は、5年に一度実施される大規模な定期検査を利用して、それぞれ2回にわたって行われている。

「いずも」は2019年度末から、横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で1回目の改修工事が実施され、今年6月末に既に終了した。具体的には、特殊な塗装などによる飛行甲板の耐熱処理工事や誘導灯の設置などが行われた。

横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で改修工事中の護衛艦「いずも」(2020年7月26日、高橋浩祐撮影)
横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で改修工事中の護衛艦「いずも」(2020年7月26日、高橋浩祐撮影)

「いずも」の次回の大規模な定期検査は、1回目の2019年度末から5年後の2024年度末から始まる。海自はその機会をとらえて、F35Bの発着艦を可能にするため、艦首形状を四角形に変更する工事を予定している。

●「いずも」着艦誘導装置の先行取得に36億円

その2回目の「いずも」の改修に向け、2022年度予算でのいずも型護衛艦改修費用61億円のうち、「いずも」の着艦誘導装置を先行取得するための費用36億円が計上された。今夏の防衛省の概算要求額が満額認められた。

防衛省によると、この着艦誘導装置としては、米海軍と米レイセオン社が共同開発した「ジェイパルス(JPALS:Joint Precision Approach and Landing System)」が予定されている。JPALSはGPS衛星信号と慣性航法システム(INS)を使って、F35Bやオスプレイといった軍用機を自動的に安全かつ正確に着艦誘導する全天候型のシステムだ。防衛省は2022年度予算では「いずも」の分のみのJPALSを取得し、「かが」の分は後年度に取得する方針だ。

●米軍からの技術支援経費に12億円

防衛省は、2022年度予算でのいずも型護衛艦改修費用61億円のうち、12億円を米軍からの技術支援経費として計上した。こちらも今夏の概算要求額が満額確保された。

いずも型護衛艦でF35Bのオペレーションを実現するためには米軍の協力はやはり欠かせない。海上自衛隊は10月3日、護衛艦「いずも」で米海兵隊所属のF35B戦闘機の発着艦試験を初めて実施した。

護衛艦「いずも」に着艦する米海兵隊のF35B(写真:防衛省)
護衛艦「いずも」に着艦する米海兵隊のF35B(写真:防衛省)

海上幕僚監部広報室は筆者の取材に対し、この発着艦試験では着艦誘導装置が使用されなかったことを明らかにした。というのも、現地の四国沖の天候が快晴となる日をあらかじめ見定めて試験を実施したため、着艦誘導装置がそもそも必要なかったからだった。

防衛省は「いずも」改修が当初予定通り、2026年度中に終了すると見込んでいる。

●「かが」の航空管制室の工事経費に13億円

いずも型護衛艦の2番艦である「かが」は今年度末から203億円の予算を投じて、1回目の改修が実施される。具体的には「いずも」で実施された飛行甲板上の耐熱塗装などに加え、艦首形状を四角形に変更する工事が「いずも」に先駆けて実施される。

防衛省によると、「かが」の具体的な改修場所はまだ決まっていないという。ちなみに、海自横須賀基地を母港とする「いずも」は横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で1回目の改修を終えた。その一方で、「かが」は海自呉基地を母港にしている。磯子になるのか、呉になるのか、注目したい。

海上自衛隊史上最大の艦艇であるいずも型護衛艦2番艦「かが」(写真:海上自衛隊)
海上自衛隊史上最大の艦艇であるいずも型護衛艦2番艦「かが」(写真:海上自衛隊)

防衛省は2022年度予算でのいずも型護衛艦改修費用61億円のうち、「かが」の航空管制室の視認性を高めるための工事経費13億円も確保した。こちらも概算要求額が満額認められた。具体的にどのような工事を実施するのかは明らかになっていないが、将来のF35Bの発着を踏まえ、管制室の窓部分を広くしたり、見やすい窓ガラスにしたりすることなど様々な工事が考えられる。

「かが」は当初、今年度末からの5年に一度の大規模な定期検査に合わせて、1回こっきりで大規模な改修を行う予定だった。しかし、艦内の区画や搭乗員の待機区画の整備については、米軍の協力による検証実験や試験を実施し、実運用する際の人やモノの動き、動線を詳細に検討したうえで、改修内容を確定することが妥当であることがわかった。このため、艦内区画の整備などについては、今年度の定期検査に合わせてではなく、5年後の2回目の定期検査に合わせて実施することにしている。

防衛省は「かが」の1回目の改修が2021、2022、2023の各年度にわたって行われ、2回目の改修が2026、2027の両年度に実施されるとの見通しを示している。

●2022年度は4機のF35Bを取得へ

防衛省は2022年度予算で「いずも」と「かが」に搭載するF35Bの4機の取得費として510億円を計上した。2021年度予算では2機の取得費として259億円を計上した。一方、2020年度予算で793億円を計上し、取得する6機のF35Bは、2024年度に調達されて同年度末までに配備される予定だ。航空自衛隊は計42機のF35Bを導入する計画だ。

防衛省は、F35Bの国内配備先として宮崎県新富町にある航空自衛隊新田原基地を計画している。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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