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護衛艦「いずも」と「かが」の軽空母化、F35B搭載の改修費67億円を概算要求

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
いずも型護衛艦1番艦の「いずも 」(写真:海上自衛隊ホームページより)

防衛省は8月31日、2022年度防衛予算の概算要求を過去最大の5兆4797億円とすると決めた。中国が表向きの公表ベースだけでも日本の約4倍に当たる国防予算を投じ、軍事力を増強する中、防衛省は特に南西諸島周辺の防衛力強化を急ピッチで進めている。

●いずも型護衛艦の改修に67億円

防衛予算の概算要求の中で注目されるのが、海上自衛隊のいずも型ヘリコプター搭載護衛艦1番艦「いずも」と2番艦「かが」に、短距離離陸と垂直着陸が可能な最新鋭ステルス戦闘機F35Bを搭載できるよう、改修費全体として67億円が予算要求されたことだ。

筆者が東京特派員を務める英国の軍事専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、かねて「いずも」と「かが」を、「ひゅうが」「いせ」と同じ「ヘリコプター空母」とみなしている。改修費の予算要求が認められれば、「いずも」と「かが」は「ヘリ空母」からまた一歩、正真正銘の「軽空母」に近づく。軽空母化は中国の太平洋進出を念頭に抑止力を強化する狙いがある。

防衛省によると、海上自衛隊史上最大の艦艇であるいずも型護衛艦の「いずも」と「かが」の改修は、5年に一度実施される大規模な定期検査を利用して、それぞれ2回にわたって行われている。

「いずも」は2019年度末から、横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で1回目の改修工事が実施され、既に終了した。具体的には、特殊な塗装などによる飛行甲板の耐熱処理工事や誘導灯の設置などが行われた。

横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で改修工事中の護衛艦「いずも」(2020年7月26日、高橋浩祐撮影)
横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で改修工事中の護衛艦「いずも」(2020年7月26日、高橋浩祐撮影)

「いずも」の次回の大規模な定期検査は、1回目の2019年度末から5年後の2024年度末から始まる。海自はその機会をとらえて、F35Bの発着艦を可能にするため、艦首形状を四角形に変更する工事を予定している。

●「いずも」の着艦誘導装置の先行取得に36億円

その2回目の「いずも」の改修を前に、2022年度予算でのいずも型護衛艦改修費用67億円のうち、「いずも」の着艦誘導装置を先行取得するための費用36億円が予算要求された。防衛省によると、この着艦誘導装置としては、米海軍と米レイセオン社が共同開発した「ジェイパルス(JPALS:Joint Precision Approach and Landing System)」が予定されている。JPALSはGPS衛星信号と慣性航法システム(INS)を使って、F35Bやオスプレイといった軍用機を自動的に安全かつ正確に着艦誘導する全天候型のシステムだ。防衛省は2022年度予算では「いずも」の分のみのJPALSを取得し、「かが」の分は後年度に取得する方針だ。

いずも型護衛艦1番艦の「いずも」(写真:海上自衛隊ホームページより)
いずも型護衛艦1番艦の「いずも」(写真:海上自衛隊ホームページより)

●米軍からの技術支援経費12億円を要求

防衛省は、2022年度予算でのいずも型護衛艦改修費用67億円のうち、12億円を米軍からの技術支援経費として要求した。いずも型護衛艦でF35Bのオペレーションを実現するためには米軍の協力はやはり欠かせない。

岸防衛相は7月30日の記者会見でも、今年度中に米軍の協力を得て、「いずも」でF35Bの発着試験を行うことを明らかにしている。

岸防衛相は、「今年度は、1回目の改修の後の『いずも』において、F35Bが支障なく発着艦可能であるかといった点について確認することを想定した検証・試験を実施予定である」と発表。さらに、「いずも型護衛艦でのF35Bの運用に向けては、運用経験を有する米軍の協力を得て、改修後に検証試験を実施し、改修や運用に関する知見を得る必要がある」と述べた。

防衛省は「いずも」改修が当初予定通り、2026年度中に終了すると見込んでいる。

●「かが」の航空管制室の工事経費13億円

いずも型護衛艦の2番艦である「かが」は今年度203億円の予算を投じて、1回目の改修が実施される。具体的には「いずも」で実施された飛行甲板上の耐熱塗装などに加え、艦首形状を四角形に変更する工事が「いずも」に先駆けて実施される。

防衛省は2022年度予算でのいずも型護衛艦改修費用67億円のうち、「かが」の航空管制室の視認性を高めるための工事経費13億円も要求した。具体的にどのような工事を実施するのかは明らかになっていないが、将来のF35Bの発着を踏まえ、管制室の窓部分を広くしたり、見やすい窓ガラスにしたりすることなど様々な工事が考えられる。

いずも型護衛艦2番艦の「かが」(写真:海上自衛隊ホームページより)
いずも型護衛艦2番艦の「かが」(写真:海上自衛隊ホームページより)

「かが」は当初、今年度からの5年に一度の大規模な定期検査に合わせて、1回こっきりで大規模な改修を行う予定だった。しかし、艦内の区画や搭乗員の待機区画の整備については、米軍の協力による検証実験や試験を実施し、実運用する際の人やモノの動き、動線を詳細に検討したうえで、改修内容を確定することが妥当であることがわかった。このため、艦内区画の整備などについては、今年度の定期検査に合わせてではなく、5年後の2回目の定期検査に合わせて実施することにしている。

防衛省担当者は「かが」の1回目の改修が2021、2022、2023の各年度にわたって行われ、2回目の改修が2026、2027の両年度に実施されるとの見通しを示している。

●2022年度は4機のF35Bを取得へ

防衛省は2022年度予算で「いずも」と「かが」に搭載するF35Bの4機の取得費として521億円を要求した。今年度予算では2機の取得費として259億円を計上した。一方、2020年度予算で793億円を計上し、取得する6機のF35Bは、2024年度に調達されて同年度末までに配備される予定だ。航空自衛隊は計42機のF35Bを導入する計画だ。

防衛省は、F35Bの国内配備先としては宮崎県新富町にある航空自衛隊新田原基地が最適と判断している。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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