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「日本人はきっと助けてくれる」東南アジア青年の船のミャンマー参加者が日本の支援を信じて大使館前でデモ

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
在ミャンマー日本大使館前でデモを行う「東南アジア青年の船」参加者たち(提供写真)

軍事クーデターを起こしたミャンマー国軍に対する抗議運動が、同国の全土で拡大している。デモに参加している若者らは、軍事政権の樹立でミャンマーの民主主義が後退することを心配し、軍に拘束されているアウン・サン・スー・チー国家顧問らの解放を求めている。多くの市民が仕事をボイコットして抗議する「市民の不服従運動」(CDM:Civil Disobedience Movement)を展開している。

筆者は学生時代の1992年秋、日本政府主催の国際交流事業「東南アジア青年の船」(SSEAYP)に参加した。そのつてもあって、同事業に近年参加したばかりのミャンマーの若者たちに、同国の現状や日本をはじめとする国際社会に訴えたいことをリモートで取材した。

2月12日にヤンゴンにある在ミャンマー日本大使館前でデモを行った「東南アジア青年の船」参加者たち。COUP IS SHIT(クーデターはくだらないこと)と書かれた看板文字を掲げている(提供写真)
2月12日にヤンゴンにある在ミャンマー日本大使館前でデモを行った「東南アジア青年の船」参加者たち。COUP IS SHIT(クーデターはくだらないこと)と書かれた看板文字を掲げている(提供写真)

2019年の「東南アジア青年の船」参加者で、ヤンゴン大学で英文学を専攻する学生のサン・トゥツ・アンさん(21)は「日本人は国際社会の中で私たちが最も頼れる誠実な人々」「日本人は自分事のようにきっと私たちを助けてくれる」と信じ、日本政府と日本国民の支援を強く求めた。

2016年に「東南アジア青年の船」に参加し、シュウェボ大学で教鞭をとるカン・ミャ・ソさん(29)は「私たちの誰もが軍政に戻ることを望んでいません。私たちは、アウン・サン・スー・チー氏とウィン・ミン大統領の解放を望んでいます」と訴え、国際社会の支援を強く求めた。

2人はともに、3本指を立てた自らの写真を筆者に提供してくれた。クーデターを起こして実権を握った国軍に抵抗するための市民のポーズとなっている。2人へのインタビューを順に紹介したい。

●サン・トゥツ・アンさん「日本人は国際社会の中で私たちが最も頼れる誠実な人々だと信じています」

ヤンゴン大学の学生のサン・トゥツ・アンさん(21)
ヤンゴン大学の学生のサン・トゥツ・アンさん(21)

――首都ネピドーでは、軍事クーデターへの抗議に参加していた19歳の女子学生が治安当局に撃たれて死亡しました。あなたはヤンゴンにいるとのことですが、ご家族を含め、安全ですか。

 彼女は気の毒でした。彼女は撃たれて脳死状態になりました。そして、彼女の家族が人工呼吸器を外す決断をしたとのニュースを目にしました。とても悲しい知らせです。

 私の安全については、「今のところは安全です」というのが答えです。というのは、この先、何が待ち受けているのか分からないからです。

 家族も安全です。ただし、繰り返しますが、今のところは、です。

――デモに参加していますか。

 はい、3日間連続で街頭に繰り出しました。初日は、抗議運動の場所としても有名な繁華街のレーダン地区とスーレー地区に行きました。2日目はアメリカ大使館の前に、3日目は日本大使館と国連事務所の前にそれぞれ行き、デモをしました。

――なぜ日本大使館の前でデモを行ったのですか。

 いくつかの理由があります。1つ目は、日本人は国際社会の中で私たちが最も頼れる誠実な人々だと信じているからです。

 2つ目は、私が日本政府主催の「東南アジア青年の船」の参加者であるからです。既参加青年たちが日本大使館の前に集まりました。私たちは、日本人がどれほど丁重に私たちをもてなしてくれるかをはっきりとわかっています。日本人は自分事のようにきっと私たちを助けてくれますから。日本に対する抗議運動ではなく、支援を求めるデモンストレーション(示威行動)です。

――ありがたいお言葉です。日本の読者に必ず伝えます。ミャンマーはかつてのような軍事政権に戻ってしまうのでしょうか。

 現時点では分かりません。でも、ミャンマーの人々は近い将来、民主主義を勝ち取ると信じています。民主主義を非常に大事にしていますから。

 今の(軍事)政権が武器を持ち、優位に立っていることは確かに否定できません。しかし、私たちには民衆の力があります。独裁に対する断固たる抵抗です。

 ぜひ1つ伝えたいことがあります。民衆の大多数は、2020年の総選挙で不正があったとする軍事政権の言葉を信じておりません。

 各投開票所の長を務めた教師たちや選挙立会人は、選挙不正のようなことはなく、それは単に軍がクーデターを強行するための言い訳にすぎないと主張しています。

――国軍によって拘束されたアウン・サン・スー・チー国家顧問については、どのように思っていますか。

 彼女がこのようなことを被る理由は全くありません。彼女は、民衆とともに、長年民主主義のために戦ってきました。それにもかかわらず、軍が再び彼女を拘留してしまいました。

 ファクトチェックをしていただければわかると思いますが、彼女は地方でもより多くの支持を得ていました。先の選挙では、彼女の党は大勝利を収めたのです。彼女の党は大変多くの選挙区で勝利しました。軍が独占する地域でさえも勝利したのです。

――アウン・サン・スー・チー氏は、軍によるイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害問題に目をつぶったとして国際的な批判を受けました。

 はい。しかし、それは単に彼女が軍にクーデターのようなことを起こさせないために、軍幹部に寛大な態度をとっていたと私たちは認識しています。とはいえ、軍幹部は結局、クーデターを起こしてしまったのですが。

――中国軍がミャンマー軍を支援しているとの情報がありますね。

 国軍が中国共産党と協力していることは間違いないです。

 ミャンマーの人々は中国政府に対して非常に反発しています。なぜなら、中国政府はクーデターを起こした国軍を支持しているからです。

 ヤンゴンと中国南部の雲南省の省都、昆明市の間では、常時航空機が飛んでいます。これらの飛行任務は分かりません。どんな貨物を積んでいるのかも分かりません。武器を運んでいるとの見方もありますが、本当のことは分かりません。

――最終的に民衆が勝ちますか。軍が支配を続けますか。

 先ほども述べましたが、次に何が起こるかは分かりません。しかし、最終的には民衆が勝ちます。なぜなら、私たちが正しい側にいるからです。

 私たちの国は、数々の軍事政権による長年の圧政の後に、小さな希望の光を見出してきました。そして、このコロナ禍下に、軍がクーデターを起こすなどつゆ一つも望んでいませんでした。

 私の声は、大多数の人々の意見を代弁しています。特に若い世代の意見を表しています。

 私たちの将来は今、とても漠然とした不透明感であふれています。しかし、当面の目標は独裁と戦うことです。

●カン・ミャ・ソさん「ミャンマーの人々は本当にあなた方の支援を必要としています」

シュウェボ大学で教鞭をとるカン・ミャ・ソさん(29)
シュウェボ大学で教鞭をとるカン・ミャ・ソさん(29)

――コロナ禍下でクーデターが発生しました。どのように思っていますか。

 とんでもないことです。私は軍事クーデターを断固拒否します。ミャンマーの人々は、軍事政権と戦っている最中です。何があっても、軍事政権を追い出します。

 私たちは民主主義が元に戻るように頑張ります。たとえ彼らが武器を持っていようと、人々は決してあきらめないと信じています。

 現在、人々は平和的にデモを実施しています。CDM(市民の不服従運動)を展開しています。

 どうかミャンマーで起きていることを世界に伝えてください。ミャンマーの人々は本当にあなた方の支援を必要としています。私たちの誰もが軍政に戻ることを望んでいません。私たちは、アウン・サン・スー・チー氏とウィン・ミン大統領の解放を望んでいます。私たちはみな、2020年の選挙結果に同意し、選挙で選ばれた政府を望んでいます。

以上がインタビューになる。

●米バイデン政権はすでに経済制裁を実施

米国のバイデン新政権は、ミャンマーの民衆の声に応じるかのごとく、人権や民主主義重視の観点からミャンマーへの制裁を実施した。

これに対し、日本政府はミャンマー国軍とは軍政時代から関係を築いてきたことや、国際的に孤立したミャンマーの軍指導部が中国へ傾斜しかねないとの懸念から、経済制裁に及び腰になっている。そして、対話を通じての民政復帰を促す方針を示している。しかし、軍に対するミャンマー民衆のデモが日に日に全土で広がり、治安当局の弾圧も強まっている。日本政府はミャンマーが早期に民政復帰できないと判断したならば、バイデン政権と協調し、ミャンマー軍指導部にぐっと強い姿勢を見せる必要があるだろう。

●ゴム弾による激しい弾圧

サン・トゥツ・アンさんによると、治安当局は17日夜、ミャンマー第2の都市マンダレー駅の公務員住居区で「市民の不服従運動」に参加するミャンマー鉄道社勤務の政府公務員を脅すために約40発のゴム弾を発射したり、爆竹で攻撃したりしたという。

ツイッター上では「ミャンマーの人々をどうか助けてください」といった悲痛の叫びが寄せられている。日本をはじめ、国際社会の対応が大きく問われている。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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