「東京五輪・パラリンピック大会は、抜本的なリスク軽減対策がなければ、世界保健機関(WHO)基準でハイリスクのイベントになる」。ソウルにあるミズメディ・ウィメンズ病院の内科医、タン・ヒョンギョン氏はこう指摘する。

タン氏は2018年2月開催の韓国平昌五輪組織委員会の医務専門委員を務めた韓国の新型コロナウイルス専門家として知られる。韓国や中国といった内外の数多くのメディアにも出演中の国際派で、その指摘は傾聴に値する。コロナ禍の東京オリパラ開催の可能性を見極める「考えるヒント」として、タン氏の見解を紹介したい。

2018年2月の韓国平昌五輪組織委員会で医務専門委員を務めたミズメディ・ウィメンズ病院の内科医、タン・ヒョンギョン氏(2月3日放映の韓国国際放送アリランテレビの番組動画を筆者がキャプチャー)
2018年2月の韓国平昌五輪組織委員会で医務専門委員を務めたミズメディ・ウィメンズ病院の内科医、タン・ヒョンギョン氏(2月3日放映の韓国国際放送アリランテレビの番組動画を筆者がキャプチャー)

●「個人的意見ではなく、客観的評価」

タン氏と筆者は2月3日、東京オリパラ開催の可否について議論する韓国国際放送アリランテレビの番組に一緒に出演した。その後、筆者はタン氏と連絡を取り、補足取材をした。

タン氏は「WHOのリスク評価方法によれば、東京五輪・パラリンピックは、抜本的なリスク軽減対策がなければハイリスクなイベントになる。これは私の個人的な意見ではなく、WHO評価手段に基づいた客観的な評価だ」と話す。

WHOは大勢の人が集まるイベントについてのリスク評価手段として、以下の質問項目を挙げている。そして、カッコ内はその客観的な回答となる。

1. そのイベントが市中感染を経験している国で行われるか。

  (いいえ。WHOによれば、日本は現在、クラスター感染を経験している。)

2. そのイベントが海外からの参加者を含むか。

  (はい。)

3. そのイベントが重症疾患の高いリスクがある60歳以上の大勢の参加者を含むか。

  (はい。)

4. 参加者が15分以上の長時間にわたって、1メートル以内の密接な接触距離にいることがあるか。

  (はい。)

5. 大勢の人の集まりにつながるような行動を取るリスクがあるか。

  (はい。選手村などでの飲食やパーティーがあり得る。)

タン氏は「日本の感染状況は現在、改善してきており、5項目のうち4項目が当てはまる。これは『ハイリスク(high risk)』に相当する。感染が拡大していた時は、5項目全部が当てはまり、『非常なハイリスク(very high risk)』となっていた」と指摘する。

さらに、「第一にチェックすべき点は、東京での疾患活動性の水準や医療提供能力、さらには検査を含めた疫学的サーベイランス(調査監視)能力がどのような状況にあるかだ。疾患活動性があまりに高かったり、病院や公衆衛生の能力があまりに低かったりする場合には、五輪を開催することは危険だ。それは、どれほど多くの非医薬品介入(ワクチンや抗ウイルス薬などの医薬品以外の検疫強化や学校閉鎖といった公衆衛生上の対策)を実施しようとも危険だ」と述べる。

そもそも新型コロナのお年寄りへの重症化リスクが高い中、日本は世界一の高齢化社会だ。しかし、国際統計サイトのWorldometerによると、日本の人口100万人当たりの検査件数はいまだ世界219カ国中141位にとどまっている(2月10日時点のデータ)。先進国とは言い難い水準だ。

●14日間の強制隔離がないことに驚き

タン氏は、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が共同で出したプレイブック(ルールブック)を見て、海外からの選手や大会関係者に14日間の強制隔離がないことに驚いたという。

タン氏は「韓国でも渡航者が到着時には検査で陰性だったが、隔離終了前には陽性と判明した感染例がいくつも出てきている。14日間の強制隔離がないことは、私には危険に思える」と指摘する。

IOCなどが共同で作成したプレイブックによると、五輪参加選手たちは日本入国後14日間は指定された場所と宿泊先など限られた場所のみの移動とし、公共交通機関の使用は原則禁止となる。

しかし、感染対策優等生ともなってきたニュージーランドやシンガポールといった国々は渡航者に到着後の検査のほか、ホテルの一室といった隔離場所から一歩も外に出られない14日間の強制隔離を課してきた。感染力の強い変異株の感染が世界のあちこちで広がる中、五輪参加者に対しても同じような14日間の強制隔離を実施しなくても大丈夫だろうか。選手や大会関係者の中に、プレイブックが定める14日間の「原則隔離」期間中に「待機破り」をする人は本当に出てこないだろうか。

ただ、14日間の強制隔離という厳しい行動制限を五輪選手に課せば、テニスの全豪オープンで男子テニス世界ランク1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)らが隔離環境について不満たらたらとなり、主催者側に隔離緩和の要望を出したような事態発生も予想される。

●WHO「科学的根拠に基づき、五輪開催の判断を」

WHOで緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏は1月22日の記者会見で、東京五輪開催の是非は「科学的な根拠や、その時点での危険性に基づき、決断しなくてはならない」と述べ、「(五輪開催を)実現するための最も良い方法は感染を収束させることだ」と指摘した。つまり、感染が収束できなければ五輪開催は困難ということだ。しかし、その感染は日本だけで広がっているわけでない。

ライアン氏は2月5日の記者会見でも、組織委員会の森喜朗会長が今夏に五輪を「どんなことがあってもやる」と発言したことについて、「日本政府や全ての当局者は全ての事実を考慮し、日本国民や選手、観客らのために正しい決断を下すと信じている」と述べた。

また、バイデン米大統領も東京五輪開催の決定は科学に基づくものでなければならないと述べた。

五輪開催可否の決定権を持つIOCは、WHOから感染対策で助言や勧告を受ける。

IOCや日本政府、東京都などは、いったいどのような「科学的な根拠」に基づき、東京五輪開催の可否を判断していくのか。日本国民のみならず、世界が注視している。

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