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深化する日英の防衛協力――戦闘機用の空対空ミサイルに続き、高機能レーダー技術も共同研究へ

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
日本とイギリスの国旗(写真:アフロ)

日本政府が「準同盟国」と位置付けるイギリスとの防衛協力がぐっと拡大している。9月30日に発表された2021年度防衛予算の概算要求の中でも、日英関係の深化がうかがえる。

●日英共同研究の空対空ミサイルの試作費に12億円

まず防衛省は2021年度の継続事業として、戦闘機用の新たな中距離空対空ミサイル(AAM)にかかわる日英共同研究費用の12億円を予算要求した。予算の内容については、この新型ミサイルの研究用試作品を作るための費用と説明した。

この新型ミサイルは英語ではJNAAM(Joint New Air-to-Air Missile)と呼ばれる。日本語に直訳すれば、「共同による新たな空対空ミサイル」だ。

日英が共同研究を進める戦闘機用の新たな空対空ミサイルのイメージ図(防衛省資料を筆者がキャプチャー)
日英が共同研究を進める戦闘機用の新たな空対空ミサイルのイメージ図(防衛省資料を筆者がキャプチャー)

もともとこの日英共同研究のJNAAMのプロジェクトは、日本政府が2014年4月に閣議決定した、防衛装備品の輸出や国際共同開発に関する新たな原則「防衛装備移転三原則」に基づいて、ぐっと動き出した。

日本政府は2014年7月、国家安全保障会議(NSC)の閣僚会合を開き、迎撃ミサイル「パトリオット2(PAC2)」の部品の米国への輸出とともに、F35戦闘機搭載のミサイル技術をめぐる日英共同研究を認めた。

日本の武器と関連技術の海外移転を原則として禁じてきた長年の禁輸政策を転換し、「防衛装備移転三原則」の下で初めてとなる2事例だった。現時点においても、この2事例しか承認されていない。

JNAAMは2018年度から研究試作の段階に入っている。研究試作は2022年度に終了する見込みだ。所内試験を踏まえ、現行のJNAAMをめぐる日英共同研究プロジェクトは2023年度に完了する予定だ。日英両国はその後、ミサイルの性能などを評価し、量産の可否を判断するとみられる。

JNAAMは、アクティブレーダー誘導の視界外射程空対空ミサイル(BVRAAM)「ミーティア」に、三菱電機の「シーカー」と呼ばれるレーダーを組み合わせる。この小型で高性能の電波シーカー技術は、三菱電機が「AAM-4B」空対空ミサイル向けに開発したものだ。

戦闘機用空対空ミサイルの日英共同研究のイメージ図(防衛省資料を筆者がキャプチャー)
戦闘機用空対空ミサイルの日英共同研究のイメージ図(防衛省資料を筆者がキャプチャー)

一方、ミーティアは欧州のミサイル大手MBDAが主契約企業となり、イギリスを中心に仏、独、伊、スペイン、スウェーデンの6カ国によって共同開発された。

欧州のミサイル大手MBDAが主契約企業となって国際共同開発されたミーティア(防衛省資料を筆者がキャプチャー)
欧州のミサイル大手MBDAが主契約企業となって国際共同開発されたミーティア(防衛省資料を筆者がキャプチャー)

日英ともJNAAMをF35戦闘機に搭載することが見込まれている。

●高機能レーダー技術の日英共同研究に41億円

日英の防衛協力は、JNAAMだけではない。来年度からは戦闘機用の高機能レーダー技術についての日英共同研究を新規事業として始める方針だ。防衛省は、このための研究費用として41億円の予算を要求した。

この高機能レーダー技術について、防衛省は概算要求の資料の中で、「戦闘機等において、常時の広覆域捜索を可能とするため、将来の高機能レーダーにかかわる技術」と説明している。

「高機能レーダ技術の研究 」のイメージ図(防衛省の概算要求資料を筆者がキャプチャー)
「高機能レーダ技術の研究 」のイメージ図(防衛省の概算要求資料を筆者がキャプチャー)

注目されるのは、この高機能レーダーの技術研究が、概算要求の資料の中で次期戦闘機にかかわる予算要求項目の1つとして記述されていることだ。このため、この高機能レーダー技術が航空自衛隊F2戦闘機の後継となる次期戦闘機と、イギリスの次期戦闘機「テンペスト」に用いられるのではないかとの見方が出ている。

こうした見方について、防衛省担当者は「この研究はレーダー能力の向上を見据えたもので、実際に次期戦闘機に適用するかは、将来の動向を踏まえて適切に判断する」と述べるにとどまった。

次期戦闘機については、現行の中期防衛力整備計画にも記されている通り、国際協力を視野に我が国主導の開発に早期に着手することになっている。

防衛省はアメリカ軍とのインターオペラビリティ(相互運用性)の重要性を強調する一方、イギリスとの国際協力を探っている。

次期戦闘機にかかわる英国との協議状況(出所:防衛省資料)
次期戦闘機にかかわる英国との協議状況(出所:防衛省資料)

イギリスは現行の主力戦闘機「ユーロファイター・タイフーン」の後継として、テンペストの2035年までの実戦配備を目指している。日本のF2後継機と同じスケジュールでもあり、日英の連携が視野に入っている。英国のパートナー企業としては、BAEシステムズなど数社の名前が挙がっている。

英国のタイフーン後継機にかかわる状況(出所:防衛省資料)
英国のタイフーン後継機にかかわる状況(出所:防衛省資料)

【追記:2021年1月15日16時30分】継続事業として2021年度予算で戦闘機用の新たな中距離空対空ミサイル(AAM)にかかわる日英共同研究費用の10億円が計上されました。さらに、2021年度から次期戦闘機用の高機能レーダー技術についての日英共同研究が新規事業として始めることが正式に決まり、概算要求の41億円が満額認められて計上されました。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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