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護衛艦「かが」、「いずも」に続き空母へ F35B搭載の改修費231億円要求――スキージャンプ設置せず

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
いずも型護衛艦1番艦の「いずも 」(写真:海上自衛隊ホームページより)

防衛省は9月30日、過去最大の5兆4898億円に及ぶ2021年度防衛予算(米軍再編経費を含む)の概算要求を発表した。アメリカのトランプ政権が2017年12月に公表した国家安全保障戦略と、安倍政権が2018年12月に策定した防衛計画の大綱に基づき、引き続き、宇宙、サイバー、電磁波といった新たな領域での能力強化を打ち出している。

●護衛艦「かが」の改修に231億円

防衛予算の概算要求の中で注目されるのが、ヘリコプター搭載護衛艦「かが」に、短距離離陸と垂直着陸が可能な最新鋭ステルス戦闘機F35Bを搭載できるよう、改修費の予算231億円が要求されたことだ。筆者が東京特派員を務める英国の軍事専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、以前から「かが」を、「ひゅうが」「いせ」「いずも」と同じ「ヘリコプター空母」とみなしている。今回の予算要求が認められれば、「かが」は「いずも」に続き、「ヘリ空母」かられっきとした正真正銘の「空母」になる。

防衛省によると、海上自衛隊史上最大の艦艇であるいずも型護衛艦の「いずも」と「かが」の改修は、5年に一度実施される大規模な定期検査を利用して、それぞれ2回にわたって行われる。

いずも型護衛艦の2番艦である「かが」は当初、2021年度末からの5年に一度の大規模な定期検査に合わせて、一回こっきりで大規模な改修を行う予定だった。

しかし、艦内の区画や搭乗員の待機区画の整備については、アメリカ軍の協力による検証実験や試験を実施し、実運用する際の人やモノの動き、動線を詳細に検討したうえで、改修内容を確定することが妥当であることがわかったという。このため、艦内区画の整備などについては、2021年度の定期検査に合わせてではなく、2026年度末からの定期検査に合わせて実施する予定となった。

一方、護衛艦「いずも」は現在、横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で5年に一度の定期検査を利用して改修工事が実施されている。

横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で改修工事中の護衛艦「いずも」(2020年7月26日、高橋浩祐撮影)
横浜市磯子区のジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で改修工事中の護衛艦「いずも」(2020年7月26日、高橋浩祐撮影)

「いずも」の2020年度に続く次回の大規模な定期検査は、5年後の2024年度末から始まる。海上自衛隊はその機会をとらえて、F35Bの発着艦を可能にするため、「いずも」の2回目の残りの大改修を行う予定だ。

●艦首の形状を四角形に変更

今年度の「いずも」の一回目の改修のために計上された予算は31億円だ。これに対し、防衛省が2021年度の「かが」改修のために要求した額は231億円だ。この200億円の違いはなにか。

海上幕僚監部広報室によると、「かが」の改修には、現在「いずも」で実施されている飛行甲板上の耐熱塗装などに加え、F35Bを安全に運用するために、艦首形状を四角形に変更する工事が行われるという。

これは、現在の艦首は台形になっており、細い先端部分での乱気流を抑えるため、甲板を横に付け足して四角形にすることが必要なためだ。

いずも型護衛艦2番艦の「かが」(写真:ロイター/アフロ)
いずも型護衛艦2番艦の「かが」(写真:ロイター/アフロ)

●スキージャンプ甲板は設置せず

また、海上幕僚監部広報室は、艦首の形状を四角形にするだけで、「スキージャンプ甲板」と呼ばれる上向きの傾斜甲板やカタパルト(射出機)の設置の予定はないと明言した。

英軍事誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、全長257メートルのアメリカ海軍のワスプ級強襲揚陸艦やアメリカ級強襲揚陸艦がスキージャンプ甲板なしでもF35Bを運用してきたことなどから、全長248メートルのいずも型護衛艦もスキージャンプ甲板が不必要ではないかと報じてきたが、その通りになった。

その一方で、イギリス海軍のクイーン・エリザベス級空母(全長284メートル)はスキージャンプ甲板を擁している。クイーン・エリザベス級空母は、F35BのSTOVL(短距離離陸・垂直着陸)だけでなく、着艦時に垂直にではなく斜めに下降する短距離滑走着艦(SRVL)も併用できる。SRVLは、着艦の際にミサイルや燃料といったペイロードをより重くして持ち帰ってこれるほか、空母の飛行甲板と戦闘機のリフトエンジン双方の損耗を少なくすることができる。

カタパルトの設置については、ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーの空軍担当専門記者ガレス・ジェニングス氏が「STOVL機がカタパルトを使うことはない」と指摘している。

「いずも」は今年度、甲板の耐熱強化や電源設備の設置などの改修が行われている。艦首形状の四角形への変更や艦内区画の整備は、2度目の改修の2024年度末から実施される予定だ。

そのうえで、防衛省担当者は「順調にいけば、『いずも』の方が『かが』よりも早く完成する。今のところ、確たることは申し上げられないが、2026年度中(の完成)を見込んでいる」と話した。

海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」の飛行甲板(2018年2月、高橋浩祐撮影)
海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」の飛行甲板(2018年2月、高橋浩祐撮影)

●F35Bは2024年度から調達

防衛省は、いずも型護衛艦「いずも」と「かが」に搭載するF35Bの2機の取得費として2021年度予算で264億円を要求した。この2機のF35Bは2025年度に調達される予定だ。

一方、今年度予算で793億円を計上し、取得する6機のF35Bは2024年度に調達され、同年度末までには配備される予定だ。パイロットの訓練や教育、部隊育成はそれからとなる。航空幕僚監部広報室によると、F35Bの国内配備先はまだ決まっていないという。

【追記:2021年1月24日23時30分】防衛省は2021年度予算で「かが」の改修費として203億円を計上することが決まった。また、同年度予算でF35Bの2機の取得費として259億円、F35B向けの整備用器材などその他関連経費として62億円をそれぞれ計上することも決定した。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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