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新型コロナウイルス患者ゼロのクルーズ船「にっぽん丸」の感染対策とは?正しいマスクの着け方も公開

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
夕暮れの海に浮かぶクルーズ船「にっぽん丸」(2020年1月30日、高橋浩祐撮影)

私は2020年1月中旬から35日間、日本が誇るクルーズ船「にっぽん丸」に乗船し、内閣府主催の青年国際交流事業「世界青年の船」に参加した。日本ナショナルリーダーとして、日本を含めて世界11ヵ国の青年約240人とともに、太平洋を往復で横断した。新型コロナウイルスの感染対策の強化が求められる中、この拙稿では、主に「にっぽん丸」船上での感染対策を紹介する。正しいマスクの着け方も動画で披露する。

ハワイのホノルル港に停泊するクルーズ船「にっぽん丸」(2020年1月24日、田中宏果撮影)
ハワイのホノルル港に停泊するクルーズ船「にっぽん丸」(2020年1月24日、田中宏果撮影)

●にっぽん丸、新型コロナウイルス感染者ゼロ

日本人参加青年約120人を含む、私たち「世界青年の船」参加者約240人は1月15日に横浜港大さん橋でにっぽん丸に乗船した。オリエンテーションや退船避難訓練を受けて、翌16日に横浜港を出発。ハワイを経由して1月30日にメキシコ北部のエンセナダに到着した。そこで3日間停泊してからは日本に向かっての復路に入った。そして、東京・晴海ふ頭で下船する2月18日までの間、往路同様、再び航海を楽しみながら世界の若者同士の交流を大いに深めた。

幸い35日間に及ぶ「にっぽん丸」での船上生活の中で、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」のような新型コロナウイルスの感染者は1人も確認されなかった。

帰路中だった2月初め、主催者の内閣府は参加青年への新型コロナウイルスの感染を防ぐため、2月7日ににっぽん丸は給油のためにハワイに寄港するものの、そこでの参加青年の下船を中止する決定を下した。ハワイで下船して、万が一にも参加青年が感染した場合、後に日本でにっぽん丸からの下船が認められず、日本上陸拒否の恐れがある、との理由だった。

しかし、帰路のメキシコから東京まで一度も下船せずに常にゆらゆらする2週間に及ぶ船上生活はきつい。私自身も船酔いにはめっぽう強いほうだったが、それでも上陸して開放感に浸りたい気持ちがあった。一部の海外ナショナルリーダーなどからは内閣府の決定に異論や反対の意見が出たが、内閣府は下船中止の決定を変更しなかった。

今振り返ると、この内閣府の決断は正しかった。なぜなら、その後、ハワイ旅行後に感染した名古屋市在住の夫婦も判明したからだ。

ネット上では、参加青年が新型コロナウイルスに感染していたため、ハワイの港湾当局からハワイでの下船を許可されなかったとのフェイクニュースが流れた。私は船上からツイッターなどでそうしたフェイクニュースをできるだけ否定した。そうしないと、参加者の親御さんや友人、関係者が心配するほか、帰国後の参加青年に対するおかしな差別につながりかねないからだ。また、そのようなフェイクニュースが拡散すればするほど、「世界青年の船」事業のイメージダウンにもなってしまう恐れもあったからだ。

●インフル感染者4人が同時発生

船内では新型コロナウイルスの発生はなかったものの、参加青年の中で同時に最大で4人のインフルエンザ感染者が発生した。船の中は、海に飛び込むことでもしない限り、外に逃げることはできない。このため、1人でもインフル患者が発生すると、「ひょっとしたら自分も感染するのではないか」とのちょっとした緊張感が走る。油断は禁物だ。

インフル感染者は、船の一階のナースルームに隣接するキャビン(船室)で治るまで各自別々に隔離される。みんなほぼ一週間弱で完治し、船での交流活動に戻ってきた。治るまでの間は、看護師が食事を運ぶなど、日常生活の世話をしてくれていた。

クルーズ船「にっぽん丸」のデッキで検温をする「世界青年の船」の参加青年たち(上田蓮撮影)
クルーズ船「にっぽん丸」のデッキで検温をする「世界青年の船」の参加青年たち(上田蓮撮影)

こうしたインフル感染者数がゼロにならない間、感染をしていない他の大勢の参加青年も全員、朝夕の1日2回の体温チェックを義務付けされた。体温が37度を超えればナースの健康チェックがすかさず入る。

さらに、指先と爪の間、指の間などの洗い残しをしない20秒間の手洗いの敢行、マスクの常時着用、さらには、ダイニングホールや活動で使う集合ホールの入り口での除菌スプレーによる手の消毒の徹底も促された。

「マスクの着用はインフル対策に効果がない」。こんな風に思っている参加者が一部にいたため、ドクターによる説明会も催された。その中では、マスクには咳やくしゃみなどによって飛び散る「飛沫感染」のほか、手指に付着したウイルスが口や鼻に感染する「接触感染」を防ぐ効果があることが説明された。人間は無意識に一日に何度も顔を手で触っている。マスクは、汚れた手で口や鼻を触らせないためにも重要なのだ。

●正しいマスクの着け方

日本に戻ってきて、街に出ると、マスクの着用の仕方が間違っている人が大勢いるのに気づいた。マスクの品薄状態が続く中、せっかく所持している貴重なマスクでもある。ぜひ効果的に着用したいものだ。

多くのマスクはノーズ(鼻)部分にワイヤーが入っている。こちらを上にするのは誰もが知っていると思われる。大事な点は、動画のようにプリーツ(ひだ)と呼ばれる折れ目が下向きになるように着けるのが正しいこと。私がにっぽん丸で習ったその理由は、プリーツを下向きにすると、ウイルスや塵、ほこり、花粉が下に落ちるようになるからだ。逆にプリーツを上向きにしてマスクを着けると、そこに塵やほこりが溜まってしまう。

●かけがえのない友人をつくれる絶好の機会

最後に、「世界青年の船」では、1カ月以上世界11ヵ国の若者たち約240人と寝食をともにし、大変刺激的な日々を送れたことをぜひ付け加えておきたい。事業が終わって、日本の参加青年からも、「事業で知り合った友人との海外ネットワークを生かして世界規模で仕事がしたい」「今後は英語の学習を繰り返し、英語で十二分にコミュニケーションをとれるようになりたい」といった感想が聞かれた。

内閣府主催の2019年度「世界青年の船」の参加者たち。日本からの約120人を含む世界11ヵ国からの青年約240人が参加した。(内閣府提供)
内閣府主催の2019年度「世界青年の船」の参加者たち。日本からの約120人を含む世界11ヵ国からの青年約240人が参加した。(内閣府提供)

私も学生時代に、「世界青年の船」の姉妹事業の「東南アジア青年の船」に参加し、外国の参加者との交流を通じて、国際的な物の考え方や視野を肌身で学ばせてもらった。そして、「東南アジア青年の船」で巡り合った友人とは四半世紀以上経った今でも、多数フェイスブックなどのSNSで繋がっている。ほぼ毎日彼らの誰かとやり取りしている状況をみると、若い時の友人はやはり「一生の宝」だ。彼らとともに作った若い頃の思い出は、かけがえのない経験で、いつまでも深い友情の絆を持たせてくれている。

「世界青年の船」や「東南アジア青年の船」をはじめ、内閣府主催の2020年度の青年国際交流事業の参加青年募集が既に始まっている。国際的な視野を広げたり、異文化交流を学べたりできる素晴らしい機会だ。そして、一生涯のかけがえのない友人を作れる貴重な場でもある。興味のある方はぜひ奮って応募していただきたい。

米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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