韓国首相が国防相を国会で叱責する異例の事態。「コレグジット」に突き進む文政権

韓国の文在寅政権は、日米と距離を置く安保外交方針を隠し切れなくなっている。(写真:代表撮影/Pyeongyang Press Corps/Lee Jae-Won/アフロ)

韓国の李洛淵(イナギョン)首相が5日に開かれた国会予算決算特別委員会で、鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防相の発言を叱責する異例の事態が起きた。この2人のやり取りは、文在寅(ムンジェイン)政権の本性を如実に露呈するものとなり、韓国メディアも大きく報じている。文政権の本質を見せるものであり、日米は改めて注意深い外交が求められそうだ。

いったいどんなやり取りがあったのか。

鄭国防相は、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)終了で最も喜ぶ国はどこかと問われ、「北朝鮮や中国やロシアではないかと思う」と答えた。東アジアの安全保障を正面から見据える者であれば、誰もがそう思う率直な答弁だった。筆者も、韓国による日韓GSOMIA破棄決定直後に、そのような記事を書いた。

韓国の軍事情報協定破棄で日米韓の安全保障体制に亀裂。中朝露を利するのみ

こうした見方は日本ばかりではない。例えば、筆者の友人である中国メディアの東京支局長も、この見方に賛同していた。

しかし、この鄭国防相の答弁に対してどう思うかと問われた李首相は、「不適切な回答だと感じた。その理由はむやみに裁断できることではないが、誤った回答だった」と述べ、鄭国防相を公然と叱責した。

この鄭国防相と李首相の齟齬(そご)は大変興味深い。いったい何を意味しているのか。

●文政権内の意見の不一致を露呈

1つには、日韓GSOMIA破棄決定をめぐって、文政権の中枢で意見の不一致が見られ、混乱した政策決定過程の一端を改めてうかがわせたことだ。

韓国の中央日報は5日、「この日国会予算決算特別委員会を見守った野党議員は『国務大臣間でも一致した立場を見せることができないほど、政府のGSOMIA破棄決定が紛らわしい決定過程を経たのではないのか』と口をそろえた」と報じた

日米間の安全保障協力の重要性をめぐっては、韓国内では青瓦台(大統領府)と、米韓同盟を重視する外交・安全保障当局者との間に隔たりがある。中でも、青瓦台では、国防力強化で韓国の自立を掲げる「民族・自主派」の1人の金鉉宗(キムヒョンジョン)国家安保室第2次長の影響力が強く、GSOMIA破棄決定に大きな役割をしたとみられている。金次長は8月23日、日本批判を展開しつつ、日韓GSOMIA破棄について記者会見で自ら説明した。

そもそも国防省はGSOMIAの維持を望んでいた。今回、文政権内で物議を醸す発言をする形となった鄭国防相自身は、韓国空軍時代に日本の航空自衛隊の幹部学校へ2度入校した経歴を有する。北朝鮮の核ミサイル開発など安全保障上の課題を日本とも共有し、ベースとなる安全保障観は日米の防衛当局者ともかなり近いと考えられている。

●日米から距離を置く文政権

また、もう1つ、今回の国会予算決算特別委員会で李首相の鄭国防相への叱責が示したことは、文政権が日米から距離を置き、中朝露に配慮する中立的な路線を貫こうとしていることだ。

文大統領は、「南北融和」や「民族愛」を自らの政策の一丁目一番地として重視し、政権発足時から一貫して北朝鮮に融和姿勢をみせている。産経新聞のコラムは、文大統領が、「一国二政府体制」による高麗連邦制(北朝鮮が掲げる南北統一路線)の実現を目指しているとも書いた。また、韓国は米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)配備をめぐって中国との関係が悪化。その後、そのトラウマを引きずるかのごとく、中国からの圧力を恐れるようになってきている。

また、親北路線の文政権の立場からすれば、北朝鮮や中国、ロシアを敵対視すれば、それは朝鮮半島の緊張緩和を妨げ、南北分断を固定するものとして邪魔にもなるのだろう。

日米の外交当局者の間では以前から、文政権のもとで韓国が米韓同盟と日米韓安保体制を抜け出る「コレグジット」への懸念が囁(ささや)かれていたが、その懸念が現実化している。今後、日米が韓国との緊密な安全保障関係を維持できなくなる恐れが高まっている。

日本の情報当局者も筆者の取材に対し、「日本のインテリジェンス当局も韓国に対する信頼が失墜し、以前のようにやり取りできなくなっている」と述べている。