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韓国の軍事情報協定破棄で日米韓の安全保障体制に亀裂。中朝露を利するのみ

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
軍事情報包括保護協定の破棄を決定。文在寅大統領は日本といつまで対峙を続けるのか(写真:ロイター/アフロ)

日本の輸出管理強化への対抗措置として、韓国政府は8月22日、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定した。日本から妥協を引き出すため、外交カードとして24日の更新期限ぎりぎりまで態度を明らかにせず、最後は延長に応じるとの向きが多かったため、意外だ。

これで日米韓の安全保障体制での協力関係に亀裂が入った。日米の韓国に対する信頼関係はどん底状態だ。この3カ国の関係が揺らぐということは、北朝鮮と中国、ロシアを利する以外の何物でもない。

アメリカのエスパー国防長官も9日、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領とソウルの大統領府で会談し、日米韓の協力の重要性を確認したばかりだった。トランプ大統領も同日、ホワイトハウスで記者団に対し、悪化する日韓関係について「日本と韓国はアメリカの同盟国だ。いつもケンカをしているが、仲良く付き合っていかなくてはならない。アメリカを難しい立場にしている」と述べ、早期の関係修復を促したばかりだった。

このため、今回の韓国の決定でアメリカもコケにされた格好になった。日本のみならず、アメリカの強い反発も予想される。

●日本と韓国は本来、準同盟国の関係

日本と韓国は現在、ともにアメリカと軍事同盟を結んでおり、準同盟国の関係にある。3カ国の枠組みを図に例えれば、日韓はアメリカを頂点とした二等辺三角形の底辺にあたる。GSOMIAは、この二等辺三角形の底辺を支える要(かなめ)として必要なものだ。

例えば、日韓のミサイル防衛は現在、米軍の早期警戒衛星が発見探知した情報をもとに、韓国軍と自衛隊がそれぞれのイージス艦や地上レーダーなどでミサイルを探知・追尾する。

北朝鮮からミサイルが発射された直後の初期段階は、韓国軍がミサイルの角度や軌道、速度などを確認。その後、ミサイルが朝鮮半島から離れ、日本側に近づいてくれば、自衛隊も落下地点を確認できる。自国のレーダーでミサイルを捕捉しにくい場合、お互いに情報を共有し、精度を上げる。

北朝鮮が7月25日に発射した新型短距離ミサイル2発の飛距離について、韓国国防部は当初690キロと発表した。しかし、GSOMIAに基づく、日本からの情報提供で射程を600キロに修正したとされる。

8月22日付の韓国・聯合ニュースの記事によると、日韓は北朝鮮の核ミサイル情報などを共有するため、2016年11月にGSOMIAが発効して以降、これまでに29件の情報を交換したという。

●破棄決定の背景には何が

韓国によるGSOMIA破棄決定の背景として、米朝と南北の関係改善に伴い、韓国にとって日本の政治・安全保障上の重要性が低くなっていることも、日韓の離反を加速している。さらに、1965年の日本との国交正常化後、国際的な政治力や経済力の増加が韓国の自信につながり、相対的に力が衰退している日本軽視に向かっている面も大いにあろう。

また、朝鮮戦争の休戦体制を終わらせ、朝鮮半島に恒久平和をもたらしたい韓国に対し、日本は、南北分断を前提に戦略的な均衡を保ってきた北東アジアの安全保障を一気に激変させたくないというのが本音だ。「南北融和」や「民族愛」を韓国国民に訴える文大統領にしてみれば、北東アジアの秩序維持を重視し、南北分断を固定化する日本は「邪魔者」との認識がある。文政権が北朝鮮の関係改善に向かう中、安倍政権は対北朝鮮で強硬姿勢を貫いてきた。こうした日韓の国益に絡む構造的な地殻変動を巡る問題も、日韓関係を根っこから動揺させているとみられる。

文大統領の眼前には、2020年4月の総選挙がある。日本と対峙を続ければ、「愛国主義の強い政治家」という印象を韓国国民にアピールでき、政治的な立場が強固になる。韓国経済が低迷を続けるなか、それは政治的求心力と国威発揚にもなる。今回のGSOMIA破棄決定は、国内向けのポーズの意味合いも強い。

米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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