津波の直前、5人を助けた工藤盛人君を忘れない

盛人君の遺影を持つ父功さんと母弥生さん(左)、紙芝居を演じた菅野さん夫妻(右)

東日本大震災の当日、福島県いわき市の高校2年工藤盛人君(当時17歳)は、介護が必要なお年寄りら5人の避難を手伝った後、津波にのまれ亡くなりました。その勇敢な行動を語り継ごうと紙芝居が作られ、両親の前で初披露されました。両親は「息子を誇りに思います」と、あらためて胸を熱くしました。

紙芝居に見入る工藤盛人君の両親(奥右側の2人、写真はすべて中村靖治撮影)
紙芝居に見入る工藤盛人君の両親(奥右側の2人、写真はすべて中村靖治撮影)

2011年3月11日、盛人君は学校が休みで、太平洋を目の前に望むいわき市平豊間の自宅にいました。マグニチュード9の激しい揺れ。大津波警報を知らせるサイレン。家の前に飛び出ると、訪問ケアの高齢者を担架で運びながら介護スタッフたちが避難路を探して右往左往しているのに出くわしました。

「手伝います!」。盛人君は担架運びに加わり、一行を高台のホテルへ誘導しました。そして「足が悪いじいちゃんとばあちゃんが心配なんで」と、近くに住む自分の祖父母を捜しに海の方へ戻りました。それが最後の姿でした。盛人君と祖父母は後日いずれも遺体で見つかりました。

盛人君の自宅があった付近を見て回る大和田新さんと紙芝居演者の菅野さん夫妻
盛人君の自宅があった付近を見て回る大和田新さんと紙芝居演者の菅野さん夫妻

半月後、介護スタッフが父功さん(55歳)と母弥生さん(51歳)を訪ねて来ました。新聞の犠牲者名簿で盛人君の名前と住所、年齢を見て「あのとき避難を手伝ってくれた少年かもしれない」と思ったからです。両親が見せた写真は、担架運びに加わってくれたあの少年でした。そのとき両親は、亡くなる直前の盛人君の行動を初めて知りました。

「そうですか。盛人が人助けをしていたんですね。教えてくれてありがとうございます。どうか盛人のこと忘れないでください」。悲嘆に暮れる中での救いでした。

近所の女子高校生に「逃げろ」と声を掛け、手を引いてバス停まで先導していたことも半年後になって分かりました。この高校生は盛人君が亡くなり、自分は生きている現実に苦しみ抜いた後、勇気を振り絞って弥生さんのもとを訪れました。「今まで黙っていてすみません」と泣きながらわびる高校生。弥生さんは「話してくれてありがとう」と優しく手を握りました。

遺影と紙芝居で描かれた盛人君を見比べ、父は「紙芝居の方が似てるなあ」
遺影と紙芝居で描かれた盛人君を見比べ、父は「紙芝居の方が似てるなあ」

津波が来るまでの45分間、盛人君はお年寄りと3人の介護スタッフ、そして女子高校生、合わせて五つの命を救ったのです。

両親にとっては、甘えん坊で心の優しい息子でした。青春まっただ中。学校や友人との時間が優先で、親子の会話がそう多くないのは、どこの家庭も同じです。こんな人助けをするような子だったなんて、両親は信じられませんでした。

遺品の財布を弥生さんが開くと、学校で受講した救命技能講習の修了証が出てきました。人を助けることに関心があったのでしょう。カラオケに行くとGReeeeNの「キセキ」を好んで歌っていたことも、同級生から聞かされました。「亡くなってからいろいろな人に知らされて、やっと盛人の360度が見えてきた感じがします」と弥生さんは言います。

遺品の財布から出てきた救命講習の修了証。講習を受けたことは両親とも知らなかった
遺品の財布から出てきた救命講習の修了証。講習を受けたことは両親とも知らなかった

功さんには大きな悔いが残っています。幼いころの盛人君に「ここは津波が来るの?」と聞かれたことがあったそうです。功さんは「大丈夫だよ、津波は来ないよ」と答えました。ちゃんとアドバイスしてあげていれば、命を落とすことはなかったんじゃないか。ダメな親父には、盛人に合わせる顔がないよ。その気持ちが消えることはありません。

両親をずっと取材し、番組で盛人君のことを何度も紹介してきた元ラジオ福島で、今春からフリーアナウンサーになった大和田新さん(60歳)が、震災を語り継ぐ紙芝居を制作している広島市の作家福本英伸さん(58歳)に連絡を取り、紙芝居化が決まりました。演じるのは福島県伊達市の菅野米生さん(69歳)、幸枝さん(65歳)。紙芝居で震災や被災地の民話を語る活動をしていて、仮設住宅から大雪の国道に「命のおにぎり」を炊き出した福島県飯舘村民の話も各地で上演しているご夫妻です。

(私が昨年2月に書いた「命のおにぎり」はこちら

真夏のような日差しと暑さになった5月31日、盛人君に助けてもらった介護スタッフや、高校の先生、親戚が両親の家に集まりました。みんなで盛人君を思い出しながら、涙で紙芝居に見入りました。終わった後も、それぞれにとっての盛人君を語り合いました。

功さんは「自分のことが紙芝居になって、盛人が見たらどんな顔をするか楽しみですね」と目を細めました。弥生さんは「よくやったねえ、頑張ったねえって言ってあげたい。本人がいたらねえ・・・」。

菅野さん夫妻に盛人君が住んでいた豊間海岸(後方)の説明をする大和田さん(左)
菅野さん夫妻に盛人君が住んでいた豊間海岸(後方)の説明をする大和田さん(左)

「こうして伝えていくことが、生きている私たちの責務だと、あらためて確認したいと思います」。司会を務めた大和田さんのまとめに、みんなで大きくうなずきました。

津波から五つの命を救った盛人君。きみのこと、みんな絶対に忘れないよ!

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