たった1人だけど温かな卒業式-過疎少子化、そして原発事故

1人だけの、とても温かな卒業式でした(3月20日、福島市の大波小学校)

卒業生は1人だけでしたが、心温まるいい卒業式でした。福島市立大波小学校で3月20日、ただ1人の在校児童だった佐藤隆志君(12歳)の卒業式がありました。地域の住民ら約50人が参列し、みんなで校歌と蛍の光を歌い、拍手と握手で佐藤君を祝福しました。過疎と少子化に原発事故が追い打ちをかけ、この春入学する子供はいません。開校140年の歴史がある学校は、4月から休校になります。

先生や地元の人たちに拍手で見送られる佐藤隆志君
先生や地元の人たちに拍手で見送られる佐藤隆志君

学校は福島市北東部の山あい、伊達市に隣接する大波地区にあります。稲作中心の農村地帯で、子供の数は年々減少。東日本大震災前の2010年度でも在籍児童は41人の小規模校です。佐藤君と一緒に入学したのは2人だけでした。

11年3月、震災と東京電力福島第1原発事故が起きました。原発から北西に60キロ近く離れている大波地区にも放射性物質は降り注ぎました。行政が避難指示を出すレベルにはなりませんでしたが、米の作付けは禁じられ、子供を連れて遠くへ避難する家庭もありました。大人数の学校で集団生活を送りたいと希望し、地区に住み続けてはいるものの山を下りた住宅地の学校に転ずる子も出ました。昨年4月、ついに在校生は6年生の佐藤君だけになってしまいました。

担任の大室圭先生(42歳)とマンツーマンの授業になりました。丸坊主の頭に、まん丸のにこにこ笑顔が持ち味の大室先生は「普通の学校で体験できる仲間との共感を味わってもらいたい」と友達のように接しました。2人は親友同士のように、笑い合い、じゃれ合います。佐藤和暁教頭(51歳)が、あえて厳しい先生役に徹しました。中学では勉強での競争心も必要になるからという思いからでした。

丸坊主の頭に底抜けの笑顔が魅力の大室圭先生
丸坊主の頭に底抜けの笑顔が魅力の大室圭先生

用務職員の佐久間義信さん(61歳)は剣道を教え込みました。地元の大人たちも英語の指導を買って出ました。地区の住民が総出となる大運動会は学校の校庭が会場で、もちろん佐藤君も玉入れや綱引きなどさまざまな競技に参加しました。地域がみんなで佐藤君を育てようと一生懸命になったこの1年でした。

大波地区は現在、約310世帯で住民約1100人。うち高校生までの子供世代は70人ほどです。除染を3回やって、校庭の放射線量は福島市内でもかなり低いレベルになりました。稲作は再開され、米や農作物、山菜から放射性物質は検出されていません。地区の自治会長で自身も大波小を卒業した僧侶の佐藤俊道さん(63歳)は「地域の顔であり、文化、歴史でもある小学校の休校は本当に残念で大きな悲しみです。緑豊かで魅力ある元の地域に戻すために何が必要か、みんなで考えていきたい。子供たちも地域の宝として未来へ羽ばたき、将来は復興の力になってほしい」と話します。

卒業式前の教室で大勢の報道陣に取材を受ける佐藤隆志君と大室圭先生
卒業式前の教室で大勢の報道陣に取材を受ける佐藤隆志君と大室圭先生

たった1人の児童として報道され、全国各地の小学校から佐藤君へたくさんの手紙が届きました。新聞やテレビの取材でも大勢の大人たちが学校に訪れました。佐藤君はそうして出会った一人一人にお礼のはがきを出しています。大室先生は「1年前はおどおどすることもありましたが、たくさんの人に支えられ、自信を持っていろいろなことができるようになりました。感謝の気持ちで、さらに成長してほしい」とエールを送ります。卒業式に参列した父照治さん(59歳)、母テレサさん(48歳)も「みんなに育ててもらって、この1年でぐっと大人びました」と目を細めました。

胸を張り、別れのあいさつをする佐藤隆志君
胸を張り、別れのあいさつをする佐藤隆志君
卒業式を終え、両親と先生たちに囲まれて記念撮影
卒業式を終え、両親と先生たちに囲まれて記念撮影

別れのあいさつで佐藤君は先生たちや地域の方々への感謝の言葉を重ね「大波小の卒業生であることに誇りと自信を持ち、しっかりと自分を見つめ、夢の実現に向かって一歩一歩努力していきます」と胸を張りました。将来は陸上自衛隊員になりたいそうです。震災での活動が胸に焼き付いているからです。

式の前、佐藤教頭は「歌は報道の皆さんもどうか一緒に歌ってください。みんなで送り出してやってください」と取材陣にお願いしていました。いい卒業式にしたいという気持ちがあふれていました。校歌、蛍の光。そして佐藤君が退場する際にはNHKの復興ソング「花は咲く」。もちろん私も歌いました。各社の記者やカメラマンも口ずさみました。

3月は巣立ちの季節。仮設校舎で震災後の3年間を過ごした子がいます。仮設住宅や借り上げ住宅といった厳しい避難暮らしの中で、勉強を続けてきた子もたくさんいます。大人になったら、ふるさとのために役立つ人になりたいとみんなが考えていることでしょう。向こう何十年と続く震災と原発事故からの復興には、こうした子供たちの力は欠かせません。

福島再生へ、頑張れ子供たち! 私たち大人もさまざまなことに気持ちを込めて、日々を精いっぱい生きていきましょう。