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「GIGAスクール構想」学校貸与端末によるいじめで小6女児自殺の最大の問題点と再発防止でできること

高橋暁子成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト
(写真:アフロ)

GIGAスクール構想で、全国の小中学生に一人一台端末が実現している。ところが、全国に先駆けて端末を配った町田市のICT推進校で、この端末を使ったいじめが起き、いじめを苦に小6女児が自殺したことがわかった。これが今、社会問題化している。問題点はどこにあり、このような悲劇を防ぐにはどうすればいいのだろうか。

チャット機能でいじめ、授業中にゲームも

2020年11月、町田市の小六女児が「いじめを受けていた」と遺書を残して自殺した。この背景には、GIGAスクール構想で配られた端末を使ったいじめがあったことが明らかになっている

両親によると、女児の名前を挙げて「うざい」「死んで」などとチャット機能を使って書き込まれ、女児もこれを見ていたそうだ。チャットは、記事によるとハングアウトで行われたようだ。授業中に隠れてゲームをしていた子どももいるという。

授業中に学習と関係ない利用をさせているとか、学校のいじめに対する対応がおかしいなどの問題点もありそうだ。しかしここでは、GIGAスクール構想での学校貸与端末でなぜいじめが起きたのか、再発を防止するためにはどうすればいいのかに焦点を当ててみたい。

パスワードの意義の指導と管理は徹底すべき

配られたタブレットを起動するためのIDは所属学級と出席番号を組み合わせたもの。パスワードは「123456789」に統一されていた。つまり他人のIDもわかり、なりすますことは容易だったというわけだ。同級生らは「自分が書いてないのに勝手に書き込まれた」「書いていた内容を消された」と証言しており、なりすましが横行していた様子がうかがえる。

保護者が不安になりそうな話だが、実際は、他の小学校などでもこのようななりすましができるというわけではない。たとえば筆者の子どもは小6でやはり学校貸与の端末を持ち帰っているが、ID、パスワードは一人ひとり異なったものを印刷して紙で渡されている。とても類推したりなりすましができるような状態にはなっていない。

文部科学省でも、GIGAスクール構想用の「はじめてのパスワード指導」として、「パスワードを他人に教えることは、家の鍵を渡すことと同じだと指導」「アカウントもパスワードも他人に教えてはならないこと、自分でしっかり管理する必要があることを指導していくことが必要」と明記されており、問題の学校がパスワードの意義を正しくとらえず、勝手な運用をしていた可能性が考えられる。

「パスワードは他人には教えずしっかり管理する」という基本が徹底できていないため、SNSアカウントを乗っ取られる10代は後をたたない。乗っ取りにあうことで、なりすまし被害や個人情報流出などにつながっている。ICT教育を推進するなら、パスワード管理は絶対に徹底すべき部分なのだ。

万一、これが徹底できていない学校があったら、基本に戻って徹底すべきだ。「低学年はパスワード入力が難しい」という声も聞くが、この事例のように、パスワードを打つべきところをひらがなキー読みにして指導するなどの工夫もできるのではないか。

子ども同士のコミュニケーションは見守るべき

問題の学校では、チャット機能も教師の目を介さずに児童同士で自由に利用できる状態だったとされている。ハングアウトを使っていたのであれば、確かにそうだろう。

しかし、これもどの学校でもできるわけではない。筆者の子どもの学校では、クラスルーム内で先生とつながったり、他の子どもたちの提出した課題などを見ることはできる。しかし、子ども同士で個別にコミュニケーションする手段は開放されていない。ハングアウトも使えないし、その他のコミュニケーションアプリもインストールできない。

一般的に、小学生の子どもにおけるコミュニケーション上のトラブルはとても多い。文章力も読解力も低い上、経験も乏しいためだ。それ故、学校でコミュニケーションの練習ができることはむしろ良いと思う。

しかし、まだ適切に使えない子どもに自由に使わせたらトラブルが起きるのは当然だ。ルールや教育、見守りなしで利用させるのは、ただの放任にすぎない。指導や見守りもなく、いきなり個別のやり取りをさせるのは明らかに間違いだ。

子ども同士にコミュニケーションの練習をさせるのであれば、ルールについて指導を徹底した上で、少なくとも担任や管理職などがやり取りを確認できる環境でさせるべきだろう。「失敗から学ぶ」も「自主性に任せる」も、最低限の見守りとルールを徹底した上でのことであるべきなのだ。

ルールと見守り、再発防止の仕組み徹底を

貸与端末は、自治体によって制限内容が異なっている。たとえば世田谷区や港区などは最低限のセキュリティしかかけず、YouTubeなども視聴できる。「制限が厳しすぎると使う気をなくす。使わないと効果がない」という考えだ。一方渋谷区は学習に必要な動画サイトのみ視聴できるように制限しており、練馬区や品川区は夜間のネット接続を制限するなどしている。

今回のような悲劇が起きると、「防ぐためにはもっと厳しい制限を」と考える方もいるだろう。しかし、元々多くの子どもが中古のスマホやタブレット、ゲーム機などで家庭でもネットに接続できる環境にあるのが実態だ。学校貸与の端末だけ制限しても、家庭の端末で同じことを書き込まれては意味がないだろう。

本当に大切なことは、他人を傷つけるようなことは書き込まないことをしっかり子どもに伝えていくこと。つまり、ルールと見守りの部分ではないか。学校だけでなく家庭でも、利用について子どもと話し合い、見守っていくべきだ。

子ども同士でコミュニケーションする際には、担任や管理職が確認できるような環境を用意するなど、再発防止のための仕組みづくりも大切だろう。

GIGAスクール構想によって一人一台端末が実現し、既に複数の自治体では遠隔授業などでの活用も始まっており、意義はとても大きい。しかし、このような悲劇はもう二度と起きてはならない。コロナ禍でも学びを止めないためにも、子どもたちに適切な使い方を教え、ルールを徹底し、学校と家庭で連携しながら見守っていくべきだろう。

成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。テレビ・ラジオ・雑誌等での解説等も行っている。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)、『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(日本実業出版社)等著作多数。教育出版令和3年度中学校国語の教科書にコラム掲載中。

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