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親のカードで500万円使い込む高校生や学費を使い込む学生も…未成年の高額「投げ銭」の実態と対策とは

高橋暁子成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト
ライブ配信における「投げ銭」が流行し、未成年の高額投げ銭トラブルも増えている(提供:barks/イメージマート)

「投げ銭」機能が人気となっている。投げ銭とは、主にライブ配信者(ライバー)に対して課金アイテムなどを視聴者が提供することを指す。YouTubeの投げ銭機能「スーパーチャット」、通称「スパチャ」の他、TikTokやInstagramなどのライブ配信でも利用できる。Twitterでも機能追加されて話題になったことは記憶に新しい。

ところが、この投げ銭で未成年の間で大きなトラブルが起きている。ある男子高校生は、親のクレジットカードを勝手に使って、約500万円分の投げ銭をしてしまったという。「相手が喜ぶから」と、約30万円もの金額を投げ銭で使ってしまった女子小学生もいる。

このような未成年の高額な投げ銭は、世界中で問題になっている。なぜこのようなことが起きるのか。未成年における投げ銭トラブルの実態と防ぎ方について解説したい。

投げ銭普及も、「ライブチャット」「生配信」のみ?

この背景には、動画配信市場の成長が影響している。一般財団法人デジタルコンテンツ協会の「動画配信市場調査レポート2020」によると、2019年の動画配信市場規模は、前年比約126%の2,770億円に上る。合わせて、最近活動停止を発表したVTuberの桐生ココが、2020年に総額1億6000万円ともっともスパチャを受けて話題となるなど、「投げ銭」自体も大きく伸びている。

新型コロナウイルス感染拡大によって、多くの舞台の上演中止や、無観客試合などにつながっている。そこで、苦しむエンタメ業界やスポーツイベントなどでの投げ銭活用も進んでいる。Jリーグでも、浦和レッズがスポーツのニュースや動画を楽しむアプリ「Player!」を活用。練習試合をYouTube Liveで生配信しながら、それに合わせてPlayer!上でOBなどが試合の解説を配信した。中には一人で10万円もの寄付するサポーターが現れて話題となった。

では、投げ銭はどのくらい市民権を得ているのだろうか。10代~50代の男女を対象としたネットプロテクションズの「エンタメイベントチケットの支払い方法に関する意識調査」(2021年6月)によると、オンラインイベントでの投げ銭経験があるのは11.2%だったが、ファン層に限るとその4倍の40.6%が投げ銭をしたことがあった。ファン層は投げ銭の金額も多くなる傾向にある。

エンタメ系イベントのコンテンツ種別ごとに、ファン層における支払い方法の意識調査もしている。それによると、投げ銭支持率が25.1%と比較的高いのはオンラインでのライブチャットに限定され、その他のコンテンツでは1割程度にとどまった。

タレント種別ごとにみても、オンラインでのチャット・トークイベントといったカジュアルなコンテンツにおいては投げ銭を求める声が多い一方、それ以外のコンテンツでは、投げ銭支持率は1割程度にとどまる。

エンタメイベント全体に求められる支払い方法を集計したところ、任意価格制を求める声が過半数となった。その中でも最も支持率が高かったのは、イベント体験後に自分で価格を決められる「あと値決め」形式で、全体の25.8%だった。

「投げ銭」は新たな収益の可能性として注目されているが、中でもライブチャットやYouTube配信等と相性が良い。それ以外のライブやファンミーティングなどは、体験後に価格を決められる方式がいいかもしれない。

未成年の高額投げ銭トラブルを防ぐ対策とは

冒頭でご紹介したように、未成年の高額投げ銭トラブルは世界中で報告されている。クレジットカードを持たない未成年でも、たとえばYouTubeのスパチャはバンドルカードやデビットカードなどで支払いができてしまう。それだけではなく、保護者のカードなどを使い込むトラブルも起きている。

たとえば2019年5月には、中国の小学5年生の少女(11)が、約200万元(約3200万円)を投げ銭で使い込む事態が起きた。少女は母親のスマホを使い、盗み見た暗証番号で決済していた。少女は4人の配信者とコミュニケーションするうちにのめり込み、投げ銭に誘導されていたという。

2020年6月には、10代の少年が親のデビットカードを使い、Twitch上で人気配信者などに2万ドル超(約210万円)の投げ銭を行っていた。母親は何とか2万ドルを払い戻してもらったものの、手続きは非常に困難だったと明かしている。

日本でも、2019年に女子中学生が親のクレジットカードを無断で使い、投げ銭や音楽等の購入で、数ヶ月で100万円以上使い込む事例が起きている。

このような事態を防ぐためには、クレジットカードや現金などはしっかり管理しておくこと、クレジットカードやキャリア決済などの暗証番号は子どもに教えないこと。利用後は必ずログアウトしておくことも大切だ。カードなどの利用明細は毎月確認し、覚えがないものがあったらすぐに気付けるようにしておく必要がある。

また、子どもがどのようなサービスを利用しているのか、課金の方法はどうなっているのかなども確認しておくといいだろう。そもそも課金をするかどうか、する場合は金額などに関しても、子どもと話し合っておきたい。

投げ銭が流行する中国では、投げ銭市場が1000億元(約1兆5000億円)超規模という試算もある。湖北省の女児(9)が10万元(約150万円)を投げ銭して保護者が返金を求めた例や、学生が学費を使い込んでしまう例も起きている。そこで中国では対策として、運営企業に対して配信者や視聴者の実名管理を求める通知を出している。日本でも、このような事態は他人事ではないだろう。

なぜ未成年は過剰に投げ銭してしまうのか?

では、なぜ子どもたちは高額な投げ銭をしてしまうのだろうか。

投げ銭をするのは、単純に配信者が喜ぶという理由が大きい。コロナ禍で新たな出会いもなく、リアルコミュニケーションも満足にできない中、ライブ配信が自分の居場所となっていたり、配信者とのコミュニケーションがほぼ唯一の楽しみとなっているユーザーもいる。

投げ銭をすると、支援額によってランキングがつけられ、目立つところに表示される仕組みとなっている。当然、配信者からも特別扱いされたり、リクエストに応えてくれることもある。「支援者の中で一番になりたい」「配信者に認められたい」という気持ちが働くことで、ついつい使いすぎてしまうのだ。

「推しを勝たせたい。一番になったら雑誌に掲載されるから、きっと喜ぶはず」と、高額な投げ銭をしているある40代男性はいう。この男性は、貯金を取り崩して既に数百万円をつぎ込んでいる。「コロナの前はクラブなどで使っていたが、使う場所がないから」とその人はいう。このように、自分が応援することで配信者の活躍の場が増えることも、過剰な投げ銭につながっている。

相手に喜ばれることで、ついつい投げ銭をしすぎてしまい、中には年収に当たる額を使い込んでしまったり、このように貯金を取り崩す大人もいる。未成年がはまって使いすぎてしまうのも不思議ではないのだ。

投げ銭では、その他にも様々な問題が起きている。投げ銭をもらうために配信が過激化したり、支援者が配信者に投げ銭を無理強いされたり、逆に投げ銭をもらうことによって配信者が視聴者の言いなりになる例も出てきている。

ご説明してきたように、投げ銭は新たな収益化の方法として注目を集めている。コロナ禍で困っているエンタメ業界などには活路となる可能性もある。しかし保護者は、未成年の過剰な投げ銭トラブルが起きていること、トラブルにつながる土壌が整っていることは知っておくべきだろう。周囲の大人は、ぜひ利用を見守ってあげてほしい。

成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。テレビ・ラジオ・雑誌等での解説等も行っている。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)、『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(日本実業出版社)等著作多数。教育出版令和3年度中学校国語の教科書にコラム掲載中。

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