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いじめ防止の目的であだ名禁止の学校増加であだ名消滅。ゲーム名、SNS名で呼ばれたい子どもたち

高橋暁子成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト
あだ名禁止の学校が増加中。子どもたちはどのように呼び合っているのか?(写真:アフロ)

学校でのあだ名禁止が話題となっている。「いじめにつながる」という理由であだ名禁止の学校が増えているというのだ。一般的にあだ名になりやすいのは身体的特徴や個性などだが、中には嫌なあだ名も少なくない。過去につけられたあだ名が嫌だったという方もいるのではないか。

試しに聞いてみると、息子の小学校ではあだ名は禁止ではないが、あだ名で呼ばれている子はいないという。先生は児童を名字で「○○さん」と呼ぶが、児童同士は呼び捨てが普通だそうだ。

ふと思いついて、そもそもあだ名がわかるか確認したところ、「しゅうたろうを名前が長過ぎるから『しゅうちゃん』と呼ぶのはあだ名?」と聞かれてしまった。学校や今どきの子どもたちの間であだ名のカルチャーがなくなっているのは事実のようだ。

いじめ防止、LGBT配慮であだ名禁止へ

では、なぜ学校であだ名禁止の動きが広がったのだろうか。全国教育問題協議会によると、経緯は以下の通りだ。

学校での「あだ名禁止」の動きは、いじめ全盛の1990年代後半から見られ始めた。いじめ事案では「嫌なあだ名で呼ばれた」という被害者の言葉が必ず出てくるのでいじめ防止の観点から「あだ名禁止」の気運が高まったことになる。

2013年施行のいじめ防止対策推進法、2017年発表の国のガイドラインを受け、いじめの早期発見のために子どものあだ名や呼び名に気を配ることが重視されるようになった。

学校で男女ともに「さん付け」が主流になった背景はLGBT(性的少数者の総称)の主張が拡大し、ジェンダー尊重の考え方が出てきたり、「さん付け」で子ども同士のトラブルが減ったという教師の報告もある。

出典:「くん付け」ダメ、あだ名も禁止は間違い

LGBTへの配慮などは納得できる理由ではないだろうか。また事実、過去に自殺につながったいじめ事件などで、嫌なあだ名で呼ばれていたことがいじめの事例として挙げられていたことがある。元教員の立場として言えば、優しい言葉遣いをするようにすると人間関係にもプラスになることは事実だ。

しかしあだ名禁止に対しては、ネットでも意見が分かれていた。「コンプレックスを持つ特徴をあだ名にされてしまう」「子どもの身を守ることになるのでは」という禁止に賛成する意見もないわけではなかったが、「学校が決めることではない」「あったほうが親しみを感じやすくなるのでは」「コミュニケーションを円滑にするのでは」などの否定的な意見が目立った。問題の本質は「相手が嫌がることをしない」ことのはずであり、その部分が指導できていなければ単なる禁止はあまり意味はなくなってしまう。

ゲーム名、SNS名で呼ばれたい子どもたち

では子どもたちは本名以外で呼ばれる経験はないのかといえば、そうではない。実は学校以外の場では、あだ名ならぬニックネームで呼ばれることが当たり前になっている。そう、ゲームやSNSだ。

インターネットの世界では、掲示板やmixiの時代には本名を使っている人はほとんどいなかったし、ハンドルネームやmixiネームで呼び合うのが普通だったことを覚えているかもしれない。

「オンラインゲームでは、ゲームの名前で交流してる」とある男子小学生に聞いた。彼はゲーム名で呼ばれることに抵抗がなく、それどころか非常に気に入っていた。今はゲーム名やSNSのアカウント名などが、自分の好きなニックネーム的なものとして使われているのだ。

ティーン向けのファッション誌の読モは個性的なニックネームを持っていることをご存知だろうか。たとえば『ポップティーン』の読モは「きょうきょう」「ほのばぴ」「めるる」「ゆなたこ」など個性的なニックネームを持っている。「みちょぱ」「ゆうこす」「ぺこ」など、ニックネームは人気と親しみやすさの証となっているのだ。自ら名乗るニックネームなら、親しみは感じてもらいやすいし嫌な気持ちもしない。あだ名のマイナス点をなくしプラスの部分を残したものが、このようなニックネームなのだ。

Eテレの『いじめをノックアウト』でも、過去にあだ名がテーマとして取り上げられたことがある。嫌なあだ名がつけられた時にどうするかがテーマとなっていたのだ。その時は、自分で呼んでほしい呼び名を提案するのはどうかなどの案が出ていた。

あだ名は、自分のコンプレックスとなる部分でつけられたり、いじめにつながることもある。今の子ども達の間では、あだ名カルチャーがほぼ消滅し、代わりにゲーム名やSNS名のカルチャーが定着しつつあるようだ。

学校でのあだ名禁止には賛否両論あるが、子どもたちはそれとは関係なしにゲーム名やSNS名に親しんでいるのだ。

成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。テレビ・ラジオ・雑誌等での解説等も行っている。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)、『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(日本実業出版社)等著作多数。教育出版令和3年度中学校国語の教科書にコラム掲載中。

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