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ネットで誹謗中傷されても諦めない、削除依頼・相談による心のケア・加害者の個人特定までの最新の対策とは

高橋暁子成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト
(写真:アフロ)

今年のインターネットにおける最大の課題は、「誹謗中傷」問題ではないだろうか。ネットでの誹謗中傷を受けることによる心の傷は大きく、社会的評判などへの影響も大きい。ネットで誹謗中傷を受けていたことなどで亡くなる人もおり、対策が急がれている。

芸能人の問題が話題になることが多いが、実際はネットでの誹謗中傷は多くの中高校でも起きている問題であり、けして他人事ではない。誹謗中傷に対する最新の対策についてご紹介したい。

誹謗中傷対策を急ぐ総務省

先日総務省より、悪質な投稿をした加害者を素早く特定するための新たな裁判手続きを創設すること、加害者のSNSにおける通信記録を開示対象に含めることなどを含めた骨子案が発表された。総務省は既に、誹謗中傷などインターネットの問題が深刻化していることを踏まえ、「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」を公表している。

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1ユーザーに対する情報モラル及びICTリテラシーの向上のための啓発活動

2プラットフォーム事業者の自主的取組の支援と透明性・アカウンタビリティの向上

3発信者情報開示に関する取組

4相談対応の充実に向けた連携と体制整備

上記の通り、啓発活動、SNSサービス側での対応促進、加害者の個人特定をスムーズにすること、相談体制の充実という四本柱だ。誹謗中傷を減らすとともに、誹謗中傷を削除するための施策、被害者の心のケアまでを含んだものだ。

対策は順調に進んでおり、今後は加害者の特定がスムーズにできるようになるというわけだ。総務省の対策を見る限り、今後は誹謗中傷に対する心配も減っていくことが期待できそうだ。

誹謗中傷されたら「誹謗中傷ホットライン」へ

では、それまでの間に誹謗中傷された場合はどうすればいいのだろうか。実は、既にいくつかの対策が始まっている。

6月末には、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)が「誹謗中傷ホットライン」を開設している。こちらでは、ネットでの誹謗中傷被害にあった際に、投稿の削除対応、相談機関の紹介や、警察への通報などを行ってくれる。

9月には運用開始から2ヶ月間の活動報告を公開している。それによると、寄せられた相談件数は約500件であり、そのうち誹謗中傷に該当したのは約2割、そのうち削除された投稿は約3割だったという。まだ認知度が低く相談件数は低いのが残念だが、困っている方は相談する価値があるのではないだろうか。

なお、誹謗中傷に当たらないとされた事例は、ハンドルネームやSNSのIDなどのみで個人の特定ができなかったためとされている。個人的にはハンドルネームやSNSのIDなどでも、その世界で当人と認識されていればやはり誹謗中傷となると考えるので、こちらは今後の対応に期待したい。

依頼の仕方は次のようになる。投稿フォームから誹謗中傷の内容や誹謗中傷を受けたサービス名、該当URL、投稿に対する要望などを書いて送る。原則として被害を受けている本人またはその保護者(本人が児童の場合)、及び学校関係者(本人が児童で就学中の場合)からの申請のみ受け付けている。国内だけでなく国外のサービスも対象となり、すべての投稿の削除は約束できないが複数回に渡って削除を依頼するという。

また、誹謗中傷であるか否かは、

(ア) 対象情報から個人が特定可能であること

(イ) 対象情報から公共性がないことが明らかである又は公益目的の表現でないことが明らかであること

(ウ) 対象情報によって特定された個人の社会的評価が低下させられるものであること、または社会生活上許される限度を超えた侮辱的表現を内容とすること

が判断基準とされている。

最近は新型コロナウイルス感染に関する誹謗中傷や差別なども目立つが、そのような相談も受け付けているので、諦めずに相談してみてはいかがだろうか。

被害者の心のケア、誹謗中傷を減らす対策が大切

ネットでの誹謗中傷は削除も大切だが、本当に大切なのは傷ついた被害者の心のケアであり、誹謗中傷自体を減らしていくことだ。

一般社団法人全国心理業連合会(全心連)が一般財団法人全国SNSカウンセリング協議会と実施した、無料のLINE相談窓口「SNS誹謗中傷等心のケア相談」の実施結果(2020年10月)が興味深い。

これによると、同アカウントには10代を中心に多くの友だち登録があったが、相談内容は悪口・批判・からかい(SNS・インターネット相談件数の約70%)、仲間外れ(同・約5%)などによる精神的なダメージを受けたというものが多かったという。「死にたい」と考える子も約1割いたそうだ。

傾聴や助言による対応が8割、通報機能削除依頼・ブロックなどの機能を教える対応が1割だったが、相談直後のアンケートではほぼ80%以上が「役に立った」「満足した」と回答していた。つまり、ただ専門の心理カウンセラーに話を聴いてもらうことで気持ちの整理につながり、SNSやインターネットとの向き合い方について考え直せたというわけだ。

心のケアや悩みの相談がどれだけ大切かがよく分かる結果だ。子どもたちは本音を出せる場がなく、リアルの場や電話相談などでは打ち明けられない子が少なくない。しかしSNSでなら自分の心を打ち明けられたり、悩みが相談できたりする子は多いので、厚生労働省の「SNS相談」から相談機関を探して友だち追加するよう、子どもにアドバイスしてあげてほしい。

日本財団は6月下旬、「SNS」をテーマに28回目の18歳意識調査を実施している。それによると、「根拠の希薄な批判や悪口を書いたことがある」が5.2%、「誹謗中傷を受けた経験がある」は12%いた。誹謗中傷はまったく他人事ではないのだ。また、SNS上での誹謗中傷に関しては「SNSの匿名性」を原因に挙げた人が63.3%いた。これは実体験をもとにした感想なのではないだろうか。

誹謗中傷はけして他人事ではなく、いつ自分や家族に降り掛かってこないとも限らない。いざという時に慌てないよう、ご紹介したサービスなどを知っておき、家族などにも伝えていただけると幸いだ。また、今後新しい役立つサービスや対策が実施されていくはずなので、そちらも合わせて注目していきたい。

成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。テレビ・ラジオ・雑誌等での解説等も行っている。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)、『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(日本実業出版社)等著作多数。教育出版令和3年度中学校国語の教科書にコラム掲載中。

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