中国巨大商戦「独身の日」を支える新技術ってなんだ?日本企業が取り組む新たな活用法

写真は10月29日、シーボンのサロンで実施されたライブコマース。高口康太撮影。

中国では11月11日は「独身の日」と呼ばれ、年間最大のネットセールとなっている。中国EC(電子商取引)最大手のアリババグループが2009年にはじめたこのセールは今年12年目を迎えた。今では他のネット企業や小売店も参入し、中国全土が大騒ぎとなるお祭りへと変貌した。

アリババグループの発表によると、2020年のGMV(総流通額)は4982億元(約7兆9200億円)と、前年の2684億元(約4兆2700億円)から急速に伸びた。ライバルとなるJDドットコムも2715億元(約4兆3000億円)を売り上げたという。この両社のプラットフォームだけで12兆円を超える取引があった計算で、楽天(年間取引額4兆円)3年分のお金が動いた計算となる。加えて新興EC企業の●多多(ピンドゥオドゥオ、●はてへんに併の右)、日本のラオックスの買収で知られる小売りチェーン・EC企業の蘇寧易購、EC機能を備えた動画配信アプリの快手(クワイショウ)も業績を伸ばすなど、「独身の日」商戦の規模には圧倒されるばかりだ。

写真はアリババのメディアセンター。独身の日GMVの発表。アリババグループ提供。
写真はアリババのメディアセンター。独身の日GMVの発表。アリババグループ提供。

中国のネットショッピングでここ数年、注目を集めるのがライブコマースだ。スマートフォンの動画生配信とネットショッピングを融合させたようなサービスで、いわばスマホ版のテレビ通販とも言える。ただ視聴者はコメントを送ったりミニゲームに参加したりというインタラクティブな機能を備えているほか、視聴しているアプリからすぐに購入できるという利便性もポイントだ。

近年では中国発の新サービスを日本企業が取り入れる事例も珍しくない。ライブコマースもその一つで、リユース品販売アプリのメルカリは2017年にメルカリチャンネルというライブコマース機能をリリースしている。ただし利用者は増えず、2019年夏にサービスは閉鎖された。ネットショッピングは短時間で簡単に買えるのが便利なのに、えんえんと動画を見ながら説明を聞くなんて耐えられないという人が多かったようだ。

実は中国でも忙しく働く若年層、サラリーマンのユーザーは少ないという。しかし、自分でネットを検索して商品を探すのは面倒だ、ながら視聴してオススメ商品を買うだけなのは気楽という層に刺さっている。中国は14億人の人口大国にして、しかもスマートフォン利用の先進国でもある。さまざまな人に合うように、さまざまなサービスが存在しているわけだ。そして、その市場規模はすでに侮れないレベルに達している。

国際的コンサルティング企業KPMGが中国で発表したレポートによると、2019年のGMVは4338億元に達した。これが今年は1兆元を突破する見通しだという。来年には1兆9950億元とさらに倍増近くまで成長すると予測している。また浸透率(全ネットユーザーに占める利用者率)も今年、前年比4.5ポイント増の8.6%にまで上昇すると推定している。だらだら動画を見ながらショッピングを楽しむスタイルが広まっているわけだ。

写真は在日中国人インフルエンサー、林萍在日本さんによるライブコマース。高口康太撮影。
写真は在日中国人インフルエンサー、林萍在日本さんによるライブコマース。高口康太撮影。

このライブコマースはトップ配信者とそれ以外に二極化している。トップ配信者は1回の放送で時に1億人を超える視聴者を集めている。アリババグループのライブコマースで活躍するトップ配信者の李佳[王奇]、Viyaは独身の日商戦の初日、合計で70億元(約1000億円)の売上を記録した。快手を舞台とする人気配信者の辛巴は11月1日、12時間にもわたる配信で18億8000万元(約300億円)の売上という記録を叩きだした。日本企業もこうした大物配信者の力を借りている。10月23日に実施された李佳[王奇]のライブコマースでは、伊藤園の野菜ジュースが取り扱われたが、5分で3万6000ケースを完売したという。

大物配信者の販売力は圧倒的だが、契約金や販売額に応じた歩合の支払いなどコストも大きい。そこで今、広がっているのが企業自らが行うライブコマースだ。大物配信者ほどの販売力はなくとも、低コストで実施できるほか、長時間にわたり自社製品を宣伝することで、顧客に自社ブランドの強みを伝えることができる。

美容機器メーカーのARTISTIC&CO.もその一つ。同社は岐阜県羽島市の中小メーカーだが、1台10万円以上という高級美顔器を武器に中国市場でポジションを築いてきた。その原動力となったのが大物配信者によるライブコマースなどインフルエンサーの活用だ。高級ホテルのラウンジを貸し切り、大物インフルエンサーを招いたド派手な発表会を開催するなど、中小企業とは思えぬ大胆な広告戦略で知名度を上げ、売上を過去3年間で10倍となる300億円にまで拡大してきた。その華やかな宣伝手法は昨年、NHKでも取りあげられたほどだ。

写真はARTISTIC&CO.の本社にあるライブコマース専用スタジオ。高口康太撮影
写真はARTISTIC&CO.の本社にあるライブコマース専用スタジオ。高口康太撮影

ところが今年はコロナで中国現地に社員が渡航できないこともあり、戦略を変更している。中心に据えたのが自社社員によるライブコマースだ。9月に設立した新社屋にはライブコマース用のスタジオを設け、毎日社員による配信を行った。11月に入ってからは経営幹部自らが出演し、開発ストーリーなどを顧客に伝える長時間の配信を続けたという。大物インフルエンサーによる宣伝から自社プロモーション中心の切り替えで例年以上に苦しい戦いとなったが、独身の日の売上は昨年の50%増となる30億円を記録した。

化粧品メーカーのシーボンは10月、六本木にある自社サロンからのライブコマースを実施した。中国のライブコマース・プラットフォームでは圧倒的なシェアを持つのがアリババだが、同社は別のプラットフォームである蘇寧易購での配信を選択している。蘇寧易購での配信は免税店チェーンのラオックスとデジタルマーケティング支援のアライドアーキテクツが手掛けるサービスだが、競合ひしめくアリババよりも露出を確保できるという判断もあったようだ。

写真はシーボンのサロンで実施されたライブコマース。在日中国人タレントの段文凝さんが配信者を務めた。高口康太撮影。
写真はシーボンのサロンで実施されたライブコマース。在日中国人タレントの段文凝さんが配信者を務めた。高口康太撮影。

29日に実施されたライブコマースでは6万人もの視聴者が集まった。シーボン海外事業部海外事業開発課の河西雅之氏は「当社の売りはサロンと化粧品をセットに提供していること。この強みを中国でも展開したい。来年以降は中国でのフランチャイズ店舗展開を加速する計画だが、その前にシーボンはサロンと化粧品がセットというイメージを持ってもらいたかった。6万人もの視聴者が当社の日本サロンと実際に施術している様子を見てくれたことは大きな意味がある」と手応えを語った。

中国で急成長を続けるライブコマースだが、その活用法や戦略は多様化しつつある。